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1-24 紅筆と転勤と砂漠の予感

帝国歴:705年 8月9日

ヴァル=グラード修道院 応接室


「椅子の脚、ぐらつきなし。よし、報告会開始」


修道院と冒険者ギルドの連携は成立。

迷宮都市の混乱は収束し、アンリ副隊長の爆裂詩も本人が居ないまま噂が流れ、なぜか市民の間で都市伝説化。

隠密部隊の情報操作って怖いよね。

あと、ホントに椅子ネタはもういい。

だけどこれでようやく静かな日々が戻ってきた――はずだった。


「エリシア・フォン・グランディール。査察官ユリウス・グレイヴァルトだ。これからは俺が同行する。教会本部の判断だ」


黒髪に銀縁モノクル、胸ポケットには赤ペン。

教会本部の査察官、“理性の紅筆”。

前回の改革で私の手腕に興味を持ち、ついに常駐を決意したらしい。


「赤ペン先生、ようこそ。同行ということは、つまり私の行動監査…お目付け役ということね?」


「そうだ。お前の判断は理論的に興味深い。現場で直接見ておきたい。 あと、報告書は詩で出すな。そちらのアンリ副隊長であったか。彼には先に言っておいてくれ」


だから副隊長はいないってば。うん?報告書を詩で出した?

……おいマリアンヌ、ぜんぜん抵抗(レジスト)できてねーぞ。

私は後ろにいるマリアンヌを見る。


「?何か?」


いえ、なんでもないです。

この件には触れるなと。

怖いよー。

まあでも、副隊長が居たおかげで、マリアンヌの詩人化にそんなに驚かなかったというのもある。


「…可哀そうな副隊長、本人居ないのに…むしろ今回の件では前例があったというだけで、直接的には関係がないのだけれど色々とディスられてるわね。あの人泣くわね、石工ギルドの片隅で…」


その時、扉からノックの音が。

…奴だ。奴の気配がする。ポンコツ君の。いやな予感しかしない。


「ど、どうぞ。開いてますわ」


「(ガチャ)エリシア様ーーーっ! 次の転勤先が決まりましたっ!」


うるっさ…。

ルシオ・ポーンコーツ、教会本部の伝令官。

顔はかわいい。声は大きい。来ると転勤が確定する。

私は紅茶を置いた。

ユリウスがルシオを見て、眉をひそめた。


「君、伝令の文面を叫ぶのはやめた方がいい。漏洩の危険性がある。情報伝達は冷静さが基本だ。もう少し落ち着きたまえ」


「す、すみません!でも、エリシア様に早く伝えなきゃって思って……!」


「その焦りが、毎回彼女の紅茶の時間を破壊していると聞くが?」


ユリウスの指摘にマリアンヌもうんうんと頷く。

そうだそうだ。もっと言ってやれ。

ってポンコツ君は全然悪くないんだけどね。


「紅茶は大事ですよねエリシア様」


「まあ、大事ね。人生の中で数少ない“静寂の儀式”だから」


「うう、ごめんなさい。」


ルシオはしょんぼりしながら、命令書を差し出した。


「次の赴任先は、南西砂漠地帯の修道院です。水不足が深刻で、現地のオアシスは精霊信仰を持つ獣人部族が管理しているとのことです」


赴任先ゆーな。巡礼先と言え。

仕事しに行くのが当たり前な感じになるやろがい。

ユリウスが命令書を受け取り、目を通す。


「なるほど。宗教的利権と資源管理の交差点か。交渉の余地はあるが、感情論に流されると面倒になるか」


「つまり、また私が働くのね。ハァ……ええっと…スローライフは……?」


赤ペン先生、ここでニヤリと笑う。

笑うの初めて見たけどやめてそれ、いつも無表情なイケメンが笑うとすんげー不気味だから。


「期待しない方がいい」


「赤ペン先生、容赦ないわね」


ルシオがそっと言った。


「でも、エリシア様なら、きっと砂漠でも水を湧かせますよ。なんか、そういう感じがします!」


雰囲気かよ。


「それ、もはや神話の始まりよ。私はイ〇ス・キ〇ストでもモ〇ゼでもないわ。」


こうして、エリシアの次なる舞台は砂漠へ。

水と信仰と交渉――スローライフは、また遠ざかる。

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