X-24 平均値と個性の交差点
帝都学院・中庭
視点:エリシア・12歳
「……まず、距離感の確認。よし、半径10メートル以内にテンプレ反応なし」
帝都学院、入学初日のオリエンテーションが終わり、私は中庭のベンチに腰を下ろしていた。
マリアンヌは「校内を把握するため偵察してきます」といって気配を消した。
ちょうどいい時間ができたから、肝心の学院生活における計画をぼけーっとおさらいしよう。
紅茶は持ち込んでいない。さすがに初日からこんなベンチで湯気を立てる勇気はなかった。
でも、観察はする。分析もする。
そして、ツッコミは止めない。
この帝国学院は6年制だ。
最初の2年が初等部。
次の2年が中等部。
んで最後の2年が高等部。
学力レベルは、以前兄トリスタンに確認したところ、高等部でも日本の中学校レベルだった。
とりあえず成績に関しては問題はないだろう。
目的はひとつ。
まだいるかどうかは分らんが、うまく聖女候補を誘導してどうにかして第一皇子レオニスとくっつけ、うまいこと断罪されて公爵家のコネで隠遁生活を送ること。
そのために学院入学前に実家を発展させるため出来るだけのことはしてきたつもりだ。
おかげでグランディール公爵領はここ数年で大分栄えた。
今年から米の試験栽培も始まったし、再来年には飛竜便第一号も飛ぶ予定。
色々と準備はしてきた。疲れたけど。
前世が厳しすぎたんだよ。そろそろ休ませておくれよ神様。
問題は聖女候補だな。
話に聞くと聖女の魔法は特殊で、通常の神聖魔法とは違い、何かのきっかけで突然覚醒するらしい。
主に浄化に特化していて、帝都くらいの面積まるまる浄化できるらしい。すごいね。
数年前、実際に帝都のお祭りで先代聖女さんの浄化の儀式を見たことあるけど、なんつーの?表現難しいけど、黄金のオーロラが空一面に降りてきた感じ?うん、すごかったよ。
聖女発現の周期は決まっていて、先代の聖女が引退して2年以内に現れるとか。
今年で先代聖女が50歳で引退して1年で、候補の話とか父の話ではまだ居ないみたいだから、あと1年以内ってことになる。
早めに発見してそいつのもろもろの情報を掴まなくては。
「あっ…エリシアー!いたいた!」
お、金髪ショートカットの少女が、全力で駆けてきた。
制服の裾を翻し、剣術科の腕章が風に揺れる。
「あら、リュディア。皇女の威厳、どこに置いてきたのかしら?」
「そんなもん、城の隅に置いてきたわ!それよりさ、初日から腕組んで真顔で座ってるとか、怖いってば!」
帝国第4皇女リュディア・アレ・エルドラン。
皇帝陛下の末娘。兄トリスタンの婚約者。
レオニスの腹違いの妹。私と同い年の12歳。 じゃじゃ馬。だけど思ったより他馬鹿ではない。
私とは知古。つまり、幼少期からの“戦友”である。
彼女の突飛で大胆なイタズラのせいで、私、兄トリスタン、兄の侍女、マリアンヌは何度父と母に怒られたことか。
まあ、今は大分落ち着いたみたいだけど。
「怖いのはそっちよ。初日から全力疾走って、何かに追われてるの?」
「違う違う!あんたに挨拶しようと思って!あと、剣術科の教官がめっちゃ渋くてカッコよかったの!」
挨拶って普通、身分の低いこちらからでは?
相変わらず行動力ハンパない。
「あーうん、渋くて…ね。教官となにか話とかした?」
「んーん、剣術科の主任さんに紹介されて、会釈しただけ。カイン教官っていうんだけど!なんでも騎士団長の職を蹴って、後進を育てるためにあえて教官になったんだって!すごいよね!今の騎士団長より強いんだってよ!」
あーうん、間違いない、めちゃくちゃ剣術が強くて、カインと言えばもうあの人しかいない。
父の学院時代の同級生だ…。
父の世代の三巨塔の一人である。
知勇のバルバロッサ、和睦のラファエロ、そして武辺のカイン。
ネーミングが既に厨二っぽいが、学院始まって以来の神童と言われた三人。
おそらく教官になったのは性癖のせいだ。
決して”後進を育てるため”なんて崇高な目的ではないのは確かだ。
あのイケオジは昔、父に会いに実家を訪ねてきたことがある。
その性癖を引っ提げて。
ここでは言わないでおこう。リュディアが可哀そうだし。
後日剣術科のみんなと一緒に驚いてくれ。
「……リュディア殿下、テンションが砂漠の精霊より高いですわよ」
そのとき、別の方向から、ゆっくりと歩いてくる少女がいた。
ピンクブロンドのロールパン。もみあげが、風に逆らっている。
見事なもみあげだ。これぞお嬢様。お蝶〇人ですよ。
「まあ。グランディール令嬢ではありませんか。お母様のお茶会以来ですわね」
侯爵令嬢クリスティーヌ・フォン・アウドミラ。
高飛車。テンプレ。内政科所属。
クリスティーヌとは、母親同士の社交場で一度だけ会ったことがある。
2歳年下と、4歳年下の弟が二人いる。
なんと彼女は第二皇子の婚約者。
あ、ちなみに第二皇子は私達の一つ下の11歳。なのでまだ学院にはいません。
私も一度だけ第二皇子と話したことがあるけど…ぶっちゃけ兄貴と交換してくれって言いそうになったのを覚えてる。
彼女の父は帝国の財務尚書、アルベルト・フォン・アウドミラ侯爵。
私の父、国務尚書と同じくして、国の中枢を担う役職である。
国家レベルで何かを始めようとしても、お金の面で彼が首を縦に振らない限り、なーんもできない。
うちの実家と同じく、建国当初からある古い家だ。なのでお付き合いも長い。
「ええ、アウドミラ令嬢。お変わりなく。もみあげの巻きが、今日も完璧ですわね」
「当然ですわ。帝都の文化的水準を保つのが、我が家の誇りですもの」
「……文化水準って、髪型で測るものだったのね」
リュディアが、こっそり私の耳元で囁いた。
「ねえ、あの巻き、何回転してると思う?」
「たぶん、歴史の授業で覚える年号の数くらいは回ってるわね」
そして、最後に現れたのは、背の高い少年。
制服の肩幅が、すでに規格外。
なのに歩き方が静かすぎて、気づくのが遅れた。
「グランディール令嬢。初めまして。アムネジア辺境伯家のエドモンド・オル・アムネジアです」
辺境伯嫡男エドモンド。
勇猛果敢、礼儀正しい、そして将来マッチョ確定。
帝国西部にある”混沌の森”から時節押し寄せる魔物との戦いが絶えない、アムネジア辺境伯領の跡継ぎ。
えーと確かラファエロ枢機卿の親戚。戦術科所属。
「初めまして。……あの、質問しても?」
「どうぞ」
「その肩幅、何科の装備ですか?」
「戦術科の標準制服です。ただ、私だけサイズが特注です」
「デスヨネー。…平均値が泣いてる」
リュディアが、エドモンドを見上げながら呟いた。
「……でかい。将来、馬より速く走りそう」
クリスティーヌが、少しだけ距離を取った。
「まあ……野性的ですわね。でも、礼儀は悪くないですわ」
「ははは、有難う御座います。図体はデカいですが、これでも剣術より軍略のほうが好きでして。」
私は、三人を見渡しながら、静かに思った。
(同級生の平均値どこ行ったおいー)
こうして、エリシア12歳の学院生活は、個性の嵐と共に始まった。
兄の婚約者でじゃじゃ馬皇女、巻き髪でテニスやってそうな侯爵令嬢、マッチョ予備軍で未来の辺境伯。
紅茶はないけど、ツッコミは止まらない。
なんだこれ?
平均値との戦いは、まだ始まったばかり。




