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機械神の英断⑫

中道陽生視点

後日、俺は旧式の九十九搭載のスマホを購入、契約して涼森と連絡をとり、土曜の昼にとあるショッピングモールに集合することになった。

だけど俺は涼森と会う約束のまえによるところがあった。

大型のショッピングモールによる影響による客がとおのいた商店街。何件もの店がシャッターを閉められたままだったがデザイン性のない古いデザインが皮肉にも何の店だったかは教えてくれる。それすらない店も多々あるのだが、その中のひとつにある飲食店に入る。

 買い取った直後はほこりなどの汚れでまともに営業できない店だったが、今では狭いながらも豊富な酒の種類と木のカウンターがあるバーへと様変わりしていた。

事務所にいたのは、バーの机で競馬新聞を読んでいるディロンだけだった。

「こんな時間に珍しいな社長」

「ああ。おまえにすこし仕事を頼みたいんだ」

俺はディロンの横に座りながら、そう切り出すとディロンは視線を巡らせてまくしたてる。

「俺はこれから朝一のパチスロリセットを狙うために、パチンコ屋にいかなきゃいけないんだ。そのあとは競馬場にも行かなきゃいし、忙しいんだよ」

パチンコ屋の朝の整理券を受け取って時間を潰しているらしい。

「そういうのは忙しいって言わないんだよ。ギャンブルは仕事と一緒にやるから,

楽しいんだろ?」

「時と場合によるさ。今日は新台の設置日なんだよ。……まぁそこまで気になる台でもないから別にいいよ。なにすればいいんだ?」

「おまえに天津雅騎がむかしいた児童養護施設に潜入して調査をしてほしい」

 「……たいしたことは知れないとおもうぜ。あいつのことを知りたいやつなんてかなりいるだろう? だからストーカー紛いのやつがもう調べてるんじゃないのか?」

 「まぁ念のためだよ。俺はこれから『俺らしくない』方法で天津のことを調べるから、よけい疲れそうだよ」

 「『らしくない方法』?」

「……今から、涼森鈴奈という天津雅騎の幼なじみに会ってくるんだ」

するとディロンはフューっとわざとらしく口笛を吹いた。

「女の子とデートかよ。ずいぶんと余裕だな」

「ああ。少し学校の付き合いに行かないといけなくなってな」

俺がそう言うとディロンは口をぽかんとして驚いた。

「……え? 友達いないんじゃなかったのか?」

バカにされてる感が半端ない言葉に思わずむっとしてしまう。学校でのキャラは俺が望んでいることなので反論はしない。

「いないさ。それが中道陽生のキャラだからな。今日だけの付き合いだよ」

俺の言葉にディロンはすこしいじけだす。。

「なんだそりゃ。俺らがせっせと情報集めてるあいだに女の子とデートかよ」

「そういうなよ。天津雅騎に対する情報を少しでも集めたいんだよ」

「はんっ。どうだかな。そう言いながら女の子とのデートを楽しんでんじゃねぇのかよ」

 ディロンは俺の言葉を言い訳に捉えたらしく、苛立ちが募っているようだったので、これ以上の説明はしないほうがよさそうだ。

 「とにかく、俺はこれからそいつに付き合わないといけないから、さっきの件、頼んだぞ」

「わかったよ。このことは、みんなに隠さず広めとくよ。とくにアネさんが知ったら、興奮するだろうな」

アネさんとはあのオカマのことだ。野郎扱いするとキレられるからアネさんとキースと

「……まぁどっちにしろ、天津雅騎のことがわかったら、報告するさ」

「デートのことも報告しろよ」

なおも冷やかしてくるディロンに、

 「ああ。お前もおみやげよろしくな」

よ言い返してやった。

「けっ。言ってろ」

ディロンのからかうような言葉を軽く流しながら、俺は涼森との集合場所へと向かった。


 

 

 駅前の噴水広場を見渡してみると目的の人物はすぐに見つかった。

涼森鈴奈は椅子に座って必死にスマホをいじっていた。

「よぉ」

声をかけるとようやく俺に気付いたらしい。

 「中道くん」

 スマホから目を離してにぱっと眩しい笑顔を向けた。

 「ずいぶんとはやいんだな」

 約束の時間までにはまだ十数分あるのに、彼女のほうが先に来ていたらしい。

 「わたしってなにかにのめりこむと抜け出せない節があるから、すこしはやめにきたの」

 「そうか。それより天津にするドッキリの内容は決まってるのか?」

 「うん。だいたい決まってるよ。でもそのまえにまず……」

ふと、なにやら広場のほうで人だかりができている。

 「……ん? なにか広場でやってるのか?」

 「うん。近くでイベントをやってるんだ。ちょっと行ってみようよ」

気乗りした彼女とともに広場の方へと行ってみると、そこにはロボットと、その傍らに一人の中年男性が大勢の人間に囲まれていた。

俺は中年男性の名前を知っている。

 「あれは九十九の製作者『白神卓也』だな」

「白神? 誰?」

 「人工知能の開発において、生命保存の法則を応用したプログラムを作り、一躍トップサイエンティストになった人だ」

「みなさん。よくぞ集まってくれました。今日はみなさんに九十九を搭載したロボットをご覧にいれましょう」

白神博士がそう宣言すると、二足歩行の黒いロボットが機動音を出しながら、歩いてくる。

「うわっ。すごい! かっこいい!」

涼森は子供のようにはしゃぎながらロボットに注目している。

白神卓也はマイクを片手にスピーチをはじめた。

「かつてこの国は東日本大震災によって、福島第一原子力発電所の原子炉が爆発寸前の大事故を起こす手前でした。冷却装置の停止によって、燃料プールが冷却されず、放射線量が溢れる発電所では生身の人間による作業は困難でした」

会場の特設モニターでは過去の東日本大震災の影響で起きた津波によって崩壊した福島第一原子力発電所の空港写真が映し出されていた。

「人間では困難な状況で二足歩行ロボットの活躍が期待されましたが……」

白神博士はわざともったいぶるように言葉を切ったあとにモニターが当時人気を博していた二足歩行ロボットに切り替わったあと、言葉を続けた。

「当時のロボットではこの福島第一原発での作業は不可能でした。当時のロボットは転倒した場合、自力で起き上がることができず、がれきの下をくぐるなどといったことはまだできませんでした。事故の数年後、アメリカや各国が『ロボティクスチャレンジ』という災害救助用のロボット競技を行ってこの事故の作業をロボットで行うことが可能になりました」

「私は福島県の生まれでこの事故の影響で私の家族は福島から引っ越しをせざるを得ませんでした。チェルノブイリほどではありませんでしたが、福島には放射能が撒かれ、数年間は人が住めない地域になりました。私はこの事故でもし、天津くんのようなスーパーヒーローがいれば、もしかしたら放射能の流出を防げたのかもしれません。しかし、今や日本の有名人であり、国宝である彼をそんな危険な場所に行かせるわけにはいきません。そして人間に危険な作業をさせないように、これからはロボットが人間の代わりをしてくれます。それでは登場して もらいましょう」

白神博士の紹介とともに、彼の後ろにあった卵のような形をしたポッドが開きだした。

「何がでるんだろうねっ♪」

隣で涼森がわくわくと嬉しそうにしている。浮かれている彼女とは逆に俺は心底、嫌な予感しかしない。

「……さぁな」

俺はぶっきりぼうにそう言って、タマゴ型のポッドを見守る。演出のためだろうか、わざと濃度の高いドライアイスをくゆらせながら、ポッドは徐々に開いていき、中から全身白色の白銀の二足歩行ロボットが登場した。

 「これが城鐘グループの作りあげた遠隔操作型ロボット『ヤクモ』です‼」

 ポッドから小さな駆動音をあげながら、ロボットはうつ伏せで倒れた状態で起き上がった。

 この『うつ伏せの状態から立ち上がる』という動作が人間にはなんでもないように思えて、実はロボットにはものすごく高度な技術なのだ。

 人間の関節は内側と外側に対をなして存在していて、一方が収縮してもう一方が伸長するという形になっている。この絶妙なバランスが働いているからこそ、人間は日常生活を無意識に活動しているのだ。

その動きをロボットで行おうとした場合、安価なものでは関節部に各モーターを配置していたが高価なものでは人間の筋肉を模した人工筋肉アクチュータを使用している。その人工筋肉は力加減が複雑で、あまり酷使し続けるとすぐに破損してしまう。モーターの精度もさすがだが、その力学計算を効率よく自動計算してくれる人工知能――九十九だ。

 「みなさーん。盛り上がってますかー⁉」

 スピーカーから、白神博士とは違う、女の子の声が聞こえてきた。どこか男に媚びるような甘い声に、俺は嫌気がこみあげてきた。それと同時に、涼森の方も声の主にきづいた

 「こ、この声はまさか……ヒカルちゃん⁉︎」

「みたいだな。友達でもないのに、よくわかったもんだ」

俺の軽い嫌味に彼女はむむっと眉をひそめる。

 「こんなわかりやすいアニメ声を聞いてたら、誰だかわかるよ。それよりなんでヒカルちゃんが?」

 「このまえの発表を見てないのか? あの八武崎ヒカルと七瀬葉介は天津雅騎のサポートをしているんだ。八武崎のほうはあの遠隔操作型ロボットで天津をサポートするらしい」

 「そうなんだ。わたし。あの二人が転校した日、生徒指導室でこっぴどく叱られてたからあんまり詳しい話を知らないんだよね」

 「それぐらいですんでほんとうによかったよ。……ネットで動画を配信しているのに、最近の話題に疎いんだな」

 「いやぁ……わたし動画のネタ探しはするんだけどニュースはあんまり見ないからね」

 「おおかた、あのヒーローの役に立ちたいと思ってやってたんだろうよ。あの女はヒーローに惚れからな。ロボットでも使ってヒーローのサポートがしたいんだろ」

俺の言葉に補足をするかのように、白神博士がマイクで彼女を紹介しはじめる。

 「彼女の名前は八武崎ヒカル。幼い時からアイドルのレッスンを受け、ジュニアアイドルとして活躍しています」

「それじゃ、いっくよー♪」

彼女の掛け声とともに彼女が歌っているミュージックが流れ出し、踊りだす。

 「実は彼女はこの会場にはいません。ヤクモは遠隔操作を行うことのできる彼女は遠く離れたところでヤクモを操作しているのです」

 さらに音楽は続き、録音された彼女の歌が流れ、八武崎ヒカルはさもそこにいるかのように、ダンスをしてパフォーマンスをおこなうと、周りの観客も嬉しそうにはしゃいでいる。

「すごいねっ♪  すっごいね♪」

涼森はきゃっきゃっとはしゃぎながら、彼女はスマホをバックから取り出して撮影を始める。

「ああ……そうだな……」

俺は彼女の言葉に軽く答えながら、内心では冷や汗をかいていた。

それは先日、バーで『会社』の人間と話していた疑問の続きだった。

『この社会にスーパーヒーローは必要なのだろうか?』

俺は自分だけじゃなくて、俺以外の人間もそう思っているはずだと思っていた。

しかしこの会場の人間や隣にいる涼森のようにテレビにでてくるヒーローが集まってヒーロー戦隊のようになっていくのだと浮かれている。

……なぜだ? なぜこうして浮かれていられるんだ?

強大な能力者たちが『イザナギ』という得体の知れない組織によって集められ、強大な力を集めていく。

そして『救って』くれる? 『なに』から? 『なに』を? 『なぜ?』

そんな思考を自然と放棄しているここにいる全員、そしてこれをまとめるとするなら日本中の人間がそう思っている・

これはとても恐ろしいことだ。俺だけじゃなく、もしかしたら日本や世界を巻き込む事態になるのではないだろうか。

 そして先日、俺の姿がテレビで報道されてしまった。補足の説明では憶測ではあるが俺が佐竹を殺したことになっていた。誤解したままの天津がイザナギの人間に、そう伝えたんだろう。

 そんな考えをちらつかせながら、俺は涼森とヤクモのダンスを眺め続けた。




 彼女は少し改まったような雰囲気で唐突に失礼なことを聞いてきた。

 「今日お金いくら持ってきた?」

唐突に彼女が財布の中身を聞いてきたので、企画の内容はわからないが、俺になにか奢らせようとしていることを察して、俺は少しすくなめの金額を提示した。

 「……五千円ぐらいだ」

 本当は余分に二万以上の現金をまえもっていれていたのだが、この女にそれだけ大金を持っていると伝えると限界まで奢らされそうだったのであえて言わないことにした。

「中道くん。おなか空かない?」

 「そんなに空いてない」

 俺は彼女のあきらさまな提案をはっきりと断った。

 「むぐぐ……私はこの日のためにおなかペコペコにしてきたよ」

 彼女は腹部をさする仕草をして空腹をアピールしてきたので、そこでようやく涼森が何をいいたいのかがわかってきた気がする。

 「つまり……動画を撮影するまえに、俺に飯をおごれと?」

「イエス! 今回撮影するドッキリのまえに、まずは食レポ風動画を撮ろうとおもうんだよね」

嬉しそうにガッツポーズをとる彼女の言葉に俺は驚いた。

 「……はぁ? 今日の撮影は一回だけじゃあないのか?」

 天津に対するドッキリの動画だけだとおもっていたが、彼女はそんなことないじゃん。とでも言いたげな雰囲気だった。

 「ちっちっちっ。動画を投稿するのは一日に一回が限界だけど、撮影は二回以上しないのが動画投稿者だよ」

 あまりにも堂々としているのでこれ以上聞くのは諦めることにした。

「わかったよ。飯は俺がおごるから、好きなものを食えよ」

どちらにしろ今日一日は彼女と付き合わなくてはいけない。

 「じゃあそろそろ行こう♪ まずはあっちの商店街のほうだよ」

 彼女は嬉しそうに目的地はどこなのかは彼女の性格から察するに無駄なことだと知っていたので、大人しくついていくことにした。




 しばらくすると、某全国チェーンのステーキハウスの前までやってきた。

「じゃあはいこれ持って、撮影許可をとってきて」

そう言って彼女はバックからスマホを取り出して俺に手渡した。カメラの型には詳しくはないけれど、画像の解像度などで、おそらく中古で買ったのだろう。

「撮影許可? 慣れているおまえがとったほうがいいんじゃないのか?」

どうせ押し付けられただけだろうが、受け取ったカメラに向けながらいちおう聞いてみる。

「……ちょっと『やむをえない事情』があって……」

俺はスマホのカメラに夢中だった視線を涼森に戻すと、彼女の表情はどこか気まずそうだった。

「……『やむをえない事情』?」

「ちょっとお客さん」

後ろから声をかけられ、背後の人間に気づいた俺は振り返った。

 そこにいたのは、肥え太ったからだの割に、ボーイに見立てた制服はきれいに整えられた中年の男だった。

 「ああ、ちょうどよかった。おれたちこれから動画の撮影のために――」

 「あんたうしろの子の連れだろ? その子。うちの店でだいぶやらかして、出入り禁止になったからね。そんな子と一緒に撮影どころか、入ることもだめだよ」

 「……………出入り禁止?」

 俺は中年男の言葉を聞いてようやく涼森の『やむをえない事情』という言葉の意味を理解した。

 「……………おい、どういうことだ?」

 「……いやぁ。以前この店で、『店の中でおおごえを出してみた』っていうベタなネタだけどなかなかやってみたら気持ちが良くて、調子にのっちゃって……」

涼森は目を泳がせながら、言い訳をしはじめた。

「おかげで店がかなりの大騒ぎになっちゃって、大変だったよ。だからその子は出入り禁止だ。君も彼氏なら、彼女の趣味をやめさせるか、別れたほうがいいとおもうよ」

「別に彼氏じゃないです。ただ動画の手伝いを頼まれただけなんで」

「そうなの? でもまぁ、うちの店は出入り禁止だから今日は来ないでくれ」

 「わかりました。それじゃあ別の店を探してみます」

 俺は店員の言葉に素直に従い、涼森を連れて別の店へ向かうことにした。


 しかし俺たちは他の飲食店に行くたびに、店員から入店を断られた。

 まぁ厳密には俺が「涼森凛奈という動画投稿者が撮影したいんだけど、撮影してもいいか?」と彼女の名前を出すたびに店側から一方的に断られた。

 彼女が問題を起こした店はもちろん、彼女が問題を起こしていない店でも入店を断られた。なんでも彼女の動画を見て、自分たちの店でも同じことをするんじゃないかという理屈らしい。

 



 俺たちは商店街から離れた公園で一息つくことにした。

 「……おなかへった」

 出発前とはうってかわって、ベンチでうなだれている涼森に。

 「自業自得だろうが。ある意味で天津よりも有名人だな」

 と皮肉まじりのツッコミを入れた。

俺はこの女の動画に対して、たいして興味はないがここまで一般人に断られるとなると、すこし内容が気になった。

「いやぁ。照れまするなぁ♪」

「褒めてねぇよ。少しは他人に迷惑をかけない方法を考えたらどうだ?」

「いいや、断固断る‼」

ぶっとばしてやろうか。このくそアマ。

「……なんでだ?」

怒りを必死にこらえながらそう聞いた。

「おもしろい動画っていうのは、一歩道を外れなければいけないの。たとえ私のアンチが増えようと、関係ない。私は私の動画を撮り続けるの」

なぜか堂々と言い張る彼女に、俺はすこしだけ感心した。

日本中が天津雅騎をはじめとするイザナギの人気に取りつかれ、

天津雅騎もまた人からの人気を必死で集めようとしている。

そんな彼らに対してこいつはこいつのやりたいことやっているとおもうと、『悪役』それなのにこの女はアンチに何を言われても、気にせず撮影を続けている。その覚悟はさすがだとおもうが。

「そうは言うが、それで飲食店から出入り禁止になれば、意味がないとおもうんだがな」

出入り禁止になって撮影ができなくなっては意味がない。

「ぐぬぬぬぬ…………こ、こうなったら……」

彼女はうなりながら、スマホを熱心にいじりだした。

「……いいかげん、どこかのコンビニか持ち帰りの食べ物で済まさないか?」

「まだだ、まだ終わらんよ‼(赤い彗星風)。次の店がラストチャンス」

諦めの悪い彼女に嫌々ながら腰を上げ、

「わかった。でも次が最後だからな」

と念のため釘を刺したうえで俺は彼女と一緒に最後の店へと向かった。




彼女について向かったのは、なんとここに来る前に寄った俺のアジトであるバーのある商店街だった。

(もしかしたら、この女が行くのは俺たちのバーか? だけどあのバーの営業時間は)

「あそこが目的のお店だよ」

俺は彼女が指した場所に目を向ける。

「……もしかしてあの飲食店か?」

遠目で赤い看板に『めし処』という文字が見える。しかしどうにも彼女の意図がうまく理解できなかった。

「うん。ちょっと聞いてきて」

「……わかった」

俺は店の入り口へと近づいていったが、客らしき人の気配がほとんどない。

まぁ考えても仕方がないので、そのまま引き戸を勢いよく開ける。

 「おわっ⁉ びっくりした‼ 客かよっ‼」

素敵な『いらっしゃいませ」だなおい。

料理人らしい前掛けをつけたおっさんが客の座るテーブルで、漫画『美味しんぼ』を持ったまま、ぎょっとした目をこちらに向けてきた。

 「……すみません。今は営業中ですか?」

 若干こちらのほうが面喰いながらも、俺は店員構わずアポをとってみた。

 「は、はい。やってますよ。一名様ですか?」

 ずんぐりと太った巨漢のおっさんはとても衛生的とは言い難い薄汚いティーシャツに黒いカーゴパンツのラフな服装で接客を始めた。

 「すみません。撮影しても大丈夫ですか?」

 「……撮影?」

 少し慣れないことをするせいか、俺は緊張しながら撮影許可を求めると、おっさんはきょとんと困惑して固まっていた。

 「ネットで動画を投稿している涼森凛奈っていう女の子がここで料理を撮影したいって言ってるんです」

 「インターネットで動画投稿されるのか……いまいちピンとこないな」

 「……じゃあ『リンリンチャンネル』っていう番組も知らないんですか?」

 「『リンリンチャンネル』? おじさんは知らないなぁ」

 おれはそんなおっさんの様子で、なぜ涼森がこの店を選んだのかという

 いまいちピンときていないおっさんにさらに推し進める。

 「もしかしたら動画がきっかけでお店が繁盛するかもしれませんよ」

 もちろんそんなことで店が繁盛するかなんて知らない。俺にしてみればどうでもいい。とっと終わらせるだけだ。

 「べつにいいじゃない」

 俺の提案に賛同したのはおっさんではなく、店の奥から現れた細身のおばさんだった。

 「どうせお客さんもそんなに来ないんだから、それぐらい自由にさせてあげればいいじゃない」

穏やかな口調でおっさんにそう諭すやりとりをみて、彼らが夫婦同士なのがわかった。

 「ありがとうございます。それじゃあ、連れを呼んできます」

俺は軽く頭を下げて礼を言いながら、俺は一度店内を出た。

 外にいた涼森はスマホの画面を凝視しながら何かをチェックしていた。

 「おい。アポとれたぞ」

 俺が呼びかけると、彼女はこちらに向き直ってニンマリと嫌な笑みを向けた。

 「ごくろう♪ いやぁ流石だねぇ」

 涼森はどこか上から目線で行ってきたので、俺はおもわずひっぱたきたくなった。

「こう言ったらなんだが、あまり繁盛しているお店とは思えないな」

「そりゃ、そうでなくちゃ困るよ。」

繰り返すかもしれないが、俺は動画投稿のことを詳しく知らない。だから彼女の言う『大抵の動画撮影者の投稿』を知らない。

「こんな潰れそうなお店で動画のネタになりそうなものがあるのか?」

「SNSでここの料理は美味しくないっていう情報が出回っているんだけど、そのなかでもかなり面白そうなメニューがあるから来てみたの」

 「面白そうなメニュー?」

 俺がそう聞き返すと彼女は目線を宙に逸らした。

 「と、とりあえず中に入ろうよ」

 涼森は答えをはぐらかすように、再びカメラを差し出して撮影を促した。俺自身は撮影をとっとと終わらせたかったのでカメラを受け取って涼森と一緒に店内へと入っていった。


 

 

店内に入ると、先ほどのおばさんが店で待ち構えていた。おっさんの方は厨房の方に引っ込んだらしい。おばさんが注文を聞いて、おっさんが作るのがこの店の営業スタイルらしい。

「いらっしゃい。好きな席に座っていいからね」

高校生相手に敬語を使う気はないのか、おばさんがタメ語で俺たちに席を勧めてきた。

「涼森。どこで撮影をするんだ?」

あらためて店内を見渡してあらためて気づかされた。この店は個人で営業している飲食店とはいえ、あまりにも汚すぎる。

「えっとね……」

涼森は自分なりの撮影プランを練りたいらしく、ぐるりと店内を見渡していた。

「じゃあ、あっちにしよ」

彼女は店の座敷席に決めたらしい。乱雑に靴を脱ぎ散らかすと、手書きのメニューが書かれた壁沿いに腰を下ろした。

「中道くんはカメラだからそっちね」

「……わかった」

彼女に促されて俺はテーブルを挟んで向かいの場所へと座る。

「メニュー表はこれね」

おばさんが俺たちにメニューを差し出してくる。俺はそれをテーブルに置いて涼森に見えるようにしながら、自分でメニューを読んでいった。

親子丼、カレー、ラーメン。チャーハン。唐揚げ。

……メニューの内容に特に変わったものはなない。彼女はいったい何を頼む気なのだろうと、彼女の顔を仰ぐと彼女はメニューには目もくれず、びしっと親指を立てて答えた。

「横綱カレー」

彼女が注文した途端、おばさんの顔が驚きに変わった。

「え? おじょうちゃん。あれを食べる気なのかい?」

鼻のでかいおばさんが冷や汗をかいているのを、俺は横で見つめていた。いったいそのカレーには何があるのだろうか? 今日初めてこのお店に訪れたおれにはまったくもってわからない。

だがおばさんの心配など、知ったものかと言わんばかりに涼森はびしっと親指を立てて答える。

「だからいいんでしょ? 動画のネタにはぴったりだよ」

彼女の発言におばさんは数秒ほど唖然としていたが、すぐに満面の笑みを浮かべてオーダー表を書き込みながら答えた。

「わかったわ。じゃあそっちの彼氏は何にするんだい?」

「……そうですね……」

俺はメニュー表を眺めて軽く思考する。この店の内装と彼らのやる気。そして涼森の謎の目論見から察するにおそらくこの店の料理はどれを頼んでも美味しくはなさそうだ。

「チャーハンでお願いします」

ならばここは素人でも簡単に作れそうなメニューを頼んでおくのが無難そうだ。

「あいよ。チャーハンね」

注文の確認に俺はうなずくだけで応対すると、おばさんはそそくさとおっさんのいる厨房に入っていった。俺がその姿を観察していると、ふいに涼森が説明を始めた。

「じゃあここらへんでわたしから、中道くんにお願いがあるんだよね」

「なんだ?」

「動画撮影中は喋らないこと。わたしに彼氏がいるってネットで流れたら、私の評判がガタ落ちに――」

俺は身を乗り出して腕を伸ばし、テーブル越しに彼女の顎を鷲掴みにした。

「……誰が『彼氏』だって?」

そのまま手のひらに軽く力を入れて彼女の暴言を訂正してやった。

「いたたたたっ! いたいいたい。ちょっと言いすぎました‼ ごめんなさい。ごめんんさぃぃ‼」

素直に謝ったようなので、俺は指の力を抜いて彼女を開放した。

「ふつう女の子にアイアンクローかますっ⁉ ありえないよ‼」

彼女が顔をさすりながら抗議してくるが俺は全く反省していなかった。

「おまえが変なことをいうのがいけないんだろうが」

「そんなんだから、友達がいないんだよ」

「お前もいないだろうが」

 「もういいもん。とにかくわたしはカメラに向かって話しかけることもあるけど、ロッキーは喋らないでよね」

 彼女がむくれていると、厨房の奥から料理が運ばれてくる。

「あいよ。おまちどう様。これがウチの名物。横綱カレーだよ」

おばさんが涼森の前に置いた料理をみて俺はその大きさに仰天した。

直径三十センチほどある赤色の器に盛られたご飯の上になみなみと溢れんばかりにカレーののルーがはみ出るほど盛られ、さらにまるで生け花のように揚げ物が刺されていた。

俺はその大量のカレーライスを前にする彼女に問いただす。

「……こんなにもたべれるのか?」

「なんとか大丈夫。……まぁいざとなったら編集でうまくごまかすから」

「……いまなんて言った?」

「いいから、いいから。撮影をはじめるから、ここからは喋らないで」

俺は彼女に言われたとおり、俺はここからは喋らずに黙ることにした。

「はいどうもー♪ リンリンチャンネルにようこそぉっ! さぁ今回参りましたのは、創業三十年で評判だった父親が亡くなり、そのあとを継いだ息子さんの料理が『すごく不味い』と別の意味で評判がたって客足がピタリと止まってしまったここめし処に来ました」

彼女がそう説明した途端、厨房の方から、

「うるせぇよぉ!」

 とおっさんの叫び声がした。

 俺はカメラをそのまま涼森に向けたまま、首だけをひねって振り向くと、あのおっさんが調理台を叩きながら、叫び声を上げていた。どうやらこのおっさんが店を継いでダメにした息子らしい。おばさんも戸惑い始めたが、涼森の放送は続いていく。

 「そして、苦肉の策の謎の名物「横綱カレー」。これもただインスタント食品を盛り合わせただけのバカ盛りメニューで、完食しても、特に意味はなし!値段は

一杯三千八百円と無駄に高い!」

そんなネタメニューをおごらせる気だったのか。というよりもそんなことを

 そう思わず大声で怒鳴りたくなるような気持ちを押し殺して、撮影を続けていく。

 「な、なんてこと言うのこの子は……」

 あれだけ優しかったおばさんもさすがに怒りで顔を真っ赤にさせていた。

「さぁ、ということでいただこうとおもいまーす♪」

彼女はスプーンを手に取って、下のほうからすくって口へと運ぶ。

「……もぐもぐ……うむ……」

そしてよく咀嚼して、確かめて味の感想をひとこと。

 「完全にレトルトカレーだね」

 「うるせぇ! だまって食えっ‼」

厨房にいるおっさんが怒鳴り声をあげる。

「お湯であっためるだけなのにわざわざカレーなんか作らねぇよ!」

 料理人とはおもえれないほど、料理に手を抜いているようだった。

「さらにカレーのルーの色が微妙に違います。これはいったいなぜでしょうか?」

涼森がカレーの皿を傾けてカメラへ向ける。たしかに涼森のいうとおり

「仕方がないだろうがっ‼ おなじ種類のカレーがなかったんだよ!」

正直で実に結構だな。

「……はい彼氏。チャーハンね」

おばさんは苦虫をつぶしたような嫌そうな顔で俺のよこに注文のチャーハンを置いてきた。

俺は右手でカメラを構え、もう片方の手でそのチャーハンを一口味見した。

濃い味付けとねっとりとした油の後味が舌に残った。あきらかに冷凍食品の味だからうまいも不味いもなにもないのだが、やはり個人店で食べるものではない。

「それじゃあ、味の感想を言ったところで、どんどん食べていきましょうっ!」

そうして彼女は周りの反応などお構いなしに、バカ盛りメニューを食べ進めていった。




そしてそれから数十分後のこと。

「うおぇええぇぇえっ!」

クリーム色の塗装が黄ばみ始めてているトイレのドアから、年頃の女子高生とは思えれないような嗚咽音が響き渡る。

彼女はカレーを無理に食べ過ぎたせいで店のトイレで嘔吐していた。

テーブルに残されたカレーはおよそ三分の二以上も残っていた。予測はしていたが、普通の一般の女子高生にあれほどの量は食べれはしなかったのだ。レトルトの寄せあわせとはいえ、かなりもったいない。

とはいえ、俺は自分が注文した(冷凍)チャーハンを食べ終わったが、たいして美味しくもないレトルトのカレーに手をつけようとも思わない。

「なぁ彼氏さん」

振り返るとさっき厨房にいたおっさんが睨むように俺に声をかけてきた。

「お会計なんだけど、迷惑料込みで一万五千円払ってくれ」

迷惑料? 何言ってんだボッタクリバーかよ。

「迷惑料って……トイレの汚染迷惑じゃあなくて、彼女の動画投稿での迷惑のことですよね」

よく酔っ払いがゲロを吐いてトイレを汚染して代金を請求される場合があるが動画の投稿でどうこう言われるのは聞いたことがない。

「そうね。いきなりやってきて、うちのお店を良いように紹介してくれるのかと思ったら、悪いようにしか言ってなかったじゃないっ⁉」

おじさんにつづき、顔が小さくて鼻がでかいおばさんもかなり彼女の暴走ぶりに腹を立てているようだ。

「た、たしかにそうですけど……」

二人の威圧感に押されて、普段からラーフとして仮面をつけて、ふざけた口調で話す俺も言い淀んでしまう。

「……………………………………」 

肝心の涼森は嗚咽音がしてからというものの、それからなにも話さなくなった。

「俺も何も知らされていなかったんですよ。彼女の動画を手伝うのも、今回が初めてです」

俺はなんとかそう言い訳をした。

「男なら、付き合っているおんなのぶんまでしっかりと払うのが責任っていうもんだろ?」

「……いやべつに付き合ってないんで……」

「あらそうだったの⁉ まぁ男女二人で遊んでいれば、そう見えるのも仕方ないわよ」

悪びれもしないおばさんに更なる苛立ちを

「わかりました。払います。……彼女の動画を流すかどうかに関しては彼女にまかしてもらっても大丈夫ですか? 正直のところ俺もここの料理はまずいとおもいます」

俺がそう提案すると、おっさんとおばさんは少し押し黙ったあと、しぶしぶ了承した。

「……わかったよ。どうせ今の時代、情報の拡散なんて止められやしねぇしな。こんな店にきたのも、おやじの味じゃあなくて、俺の料理のまずさが目当てできたみたいだしな」

「どういう意味ですか?」

「あの女の子が言ってたとおり、この店はもともと、おやじが一人でやってた店だったんだが、そのおやじがこのまえ心臓発作で急に死んじまって、急遽俺が後を継ぐことになっちまったんだ」

「料理の経験はなかったんですか?」

「ああ。俺たち夫婦はもともと、コンビニのバイトで生計を立てていたんだが、料理はあまりしたことがないんだよ。おやじが死んだあと、この店を継いだんだけどよ。俺は飲食店のバイトをすると、なぜかシフトを一方的に減らされて、実質クビ扱いにされるような男なんだよ」

「聞いてもいない経歴にツッコミどころが満載ですね。それでおやじさんのお店でその料理の味の再現に失敗してしまったのですか?」

「ああ。正直おやじとはうまくいってなかったんだ。料理は『美味しんぼ』で勉強したんだけど、おやじの評判が良かったからしばらくは安いレトルトで儲けができるかなと思ってたんだが…………」

 料理をしろよ。漫画呼んでレトルト食品あたためてただけじゃねぇか。

「つくづく立派なカスのような営業方針だとおもいますけど……お客さんがあっというまに離れちゃったんですね」

「だいたい一週間だよ。SNSやら掲示板とやらで、バカどもが書き立てたおかげで一週間足らずで店は閑古鳥が鳴くような状況になっちまったよ」

「全国の飲食店に謝れ。というよりもうここまできたんならいっそのこと閉店にしてしまえ」

 「……あなた、途中から言いたい放題ね。……まぁ、確かにやっぱりわたしたちには飲食店は向いてなかったかもね」

なんだかよくわからないけれど、急に悟りだした鼻でかババァが鼻ミニおやじを。

 「……そうだな。いくらマンガを読んでも料理はちっともうまくならないしな」

 「でしょうね」と俺は容赦なく口を挟む。

 「お義父さんのお店を潰してしまって申し訳ないけれど、お義父さんの料理はお義父さんしか作れないのよ。このまま、このお店は畳んで新しい事業をはじめましょうよ」

「そうだな。最後にこのカップルから材料費が千円以下の安い飯で儲けさせてもらったからな。今日から店じまいにして、夜に焼肉でも食いに行くか」

「ヤケクソだからってぶっちゃけ過ぎだろ……」

「いいからはやく払いな」

 殺意が芽生えたが、ぐっと堪えた。

 「…………わかったよ」

俺は渋々ながら納得し、手持ちの黒い長財布をバックから取り出して紙幣札から一万五千円をおっさんに渡した。

 「……最近のガキは金を持っているんだな。本当に出すとは思わなかったぜ」

 おっさんはしげしげと金を数えながらつぶやき始めた。

 「もしものために入れておいたんですよ。もしかしたら、相当の出費になるんじゃないかとおもい、あえて彼女に隠したまま」

それは涼森に他の何かをおごられないようにするためではあったが、なぜかおっさんは異常なほど納得していた。

「なるほど! ホテル代はデート代とは別にいるもんな! わかるぞ少年! 俺も昔、デート代に力言えすぎてホテル代がなくて青姦を強要しちまって女にふられちまったぜ!」

なんだかよくわからないがどうやらおっさんは『予想以上の出費』という言葉を別の解釈で理解したらしい。

だがそんなおっさんに対しておばさんが険しい顔でおっさんに詰め寄っていた。

「あなた……それって、いつのこと?」

おばさんの怒りの声で自分の失態に気づいたおっさんは狼狽しはじめた。

「だ、だいぶまえのことだよ!」

奥さんの知らない交際関係のことを口走ってしまったらしく、おっさんは慌てた様子で弁解を始めている。

「ちょっと、あなたこっちに来なさい‼」

おばさんが勢いよくおっさんのクビ根っこをつかむ。

「な、なんだよっ⁉ べつにいいじゃんかっ!」

おばさんと二人で店の奥の方へと引っ込んでいった。

「……おい。おっさんたちはもういったから、いい加減出てこい」

俺はトイレに向かって涼森を呼びかけるとトイレからカギを開錠する音がきこえてきた。

そこからゆっくりとドアが開いて、おそるおそる周りを見渡しながら涼森が出てきた。

「……おじさんたちは?」

「奥の方にいる。……もう代金は払ったから、とっとと出るぞ」

ぶっきらぼうな言いかたで退店することを急かせながら、彼女のトートバックを手渡そうとしたが、彼女はなかなか受け取らない。

「う、うん。そのまえに口をゆすぎたいんだけど……」

彼女は口元を隠しながらそう言ったのでふとくる途中に公園があったのを思いだした。

「なら、もう一回あの公園に行くぞ」

「うん。はやく行こ。ここのトイレ汚い」

「汚したお前が言うな」

そんなやりとりをしながら、あの夫婦に気づかれないように、そそくさと店内をあとにした。




店からしばらく離れたあと、街中にある公園には走り回ったり、遊んでいる子供の集団でごった返していたが、幸いにも手洗い場は空いていた。

「とっととゲロをゆすげ」

生臭い女を手洗い場まで誘導したあと、

「そんな言い方ないじゃん。……ほんと女の子の扱いが雑だよね」

俺のぞんざいな扱いに涼森が不服そうにしながらも水飲み場の蛇口を捻った。

「言われたくないんなら、ゲロなんか吐くな」

涼森はしばらく口のうがいをおこなったあと、蛇口を閉めて口元を手で拭った。

「それじゃあ、そろそろ天津くんのドッキリをしかけるところに向かおうか」

俺もその言葉を聞いて、ようやく今日の目的の場所に行けるのかと安心した。

「そうか。それならはやく行くぞ。俺も忙しいんだ」

「はいはい。あんまり遅くまでいたら、ホテルに連れて行かれそうでこわいものね」

「行かねぇよ。絞め殺すぞクソ女」

 そんなやりとりをしながら、俺たちは二人そろって目的地へと向かった。



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