機械神の英断⑪
中道陽生視点
新たに建設されたショッピングモールの影響で活気を失った商店街。さらにそこから一つ外れた道沿いのビルに立地条件最悪の小さなオフィスがある。面向きはバーということになってはいるが俺たちの集合場所になっている。
まだ日も暮れていない夕方で明かりの少ない薄暗い店内に数人の男女がたむろっていた。
欧米人の白い肌に 金髪のアロハシャツにジーンズ姿の男が呆れながら俺に話しかけた。
「――それにしてもよく、あんな有名人がそばにいるっていうのに、何事もなく学校で過ごしているお前がすごいぜ」
彼の名前はローハン・ディロン。
色の抜けた白髪というより銀髪で細身と高身長、そしてラフな格好のわりに頭の上に布帛ハットをうまく被った洒落たファッション。
明るく気さくな性格で口もうまいのだがギャンブル中毒者である。
仕事が無い日は公営カジノ、パチンコ、スロット、競馬などのギャンブルで金を増やしている。今日もカジノで勝ったらしく、ここにいる人間にドリンクを奢っている。
「別に学校にいても、授業中も休み時間も寝ているだけだからな」
俺はディロンの皮肉に、同じように皮肉で返した。
「というよりもお前、学校で友達いないから、誰とも喋らないだけだろ?」
「うるせぇよ」
何気なく場を仲裁しようとしたのか、俺の前に筋肉隆々の男がコーヒーカップを置いた、
「それにしても天津くん、可愛いわよね」
そして頬を染めながら話に割ってはいった。
「テレビで喋るのは下手みたいだけど、それでもイケメンならテレビに出るだけで映えるわね」
この男は漢であって男ではない。オカマだ。
しかも今日はご丁寧にチャイナドレスを着ている。
男としての名前はシンイー。男としての名前はユーウェンだがその名前と本人が怒るので呼ぶことは禁止されている。一応このバーの店長をしているのだが、興味本意でここに来てしまった馬鹿な客は魂まで抜かれる。客が何をされるのかは知りたくない。
「俺の知っているヒーローっていうのはバットマンとかスパイダーマンとか、だいたい仮面をつけてるもんだと思ってたんだがな。ヒーロー活動をしたあとテレビの収録だなんて、夢があるんだか、ないんだかわからない話だな」
「なんだそりゃ? 仮面をつけたまま調査活動をしている変人研究者が言ってもひがみにしか聞こえないぜ」
俺は茶化すようなディロンの指摘に俺は反論できない。
「……たしかにそうだな。俺はバッドマンほど金持ちじゃあないしな」
「あら。スパイダーマンはスーツ脱いだあとにデートに行くし、ブルースウェインはパーティーに出席したりするじゃない」
「おまえ、やけに詳しいな……」
「あなたが詳しくないのよ。自分の夢中になっていること以外に、もうすこし興味を持ったら? そうしたら学校でも友達ができるんじゃない?」
「べつに作るつもりはない」
すると、三人のやり取りを聞いていた一人の女性が割りこんでくる。
「でも、あの子の本当の能力は誰にもわからないわ」
黒色のジャージを着た外国人女性がカウンターでノートパソコンをいじりながら、ぼそぼそ呟く。
「本当の能力ってなんだ? まだあのヒーローになにかあるのか?」
彼女の名前はルイズ・エレナ・ウォーカー。
きちんとすればかなりの美人なのだが、何日も風呂に入らない汚女だ。
毎日オンラインゲームをしており、ほとんどのゲームを制覇している廃人ゲーマーだ。
安物のブカブカのスエットを着こんでいて、ノーメイクでマスクをして顔を隠している。
「どうやら彼自体は自分の能力がなんで生まれたのかもわからないし、超能力の研究を行っている『東京超能力開発所』でもいまだ解明不能だそうよ」
『東京超能力開発所』と聞けばいかにも名前は大学の裏サークルやオカルト好きの裏サイトにありそうな名前だが実際には違う。
「あの『東京超能力開発所』っていう胡散臭い名前の割に、堂々と品川にある高層ビルの研究所か?」
「ええ、そうよ。なんでも天津くんの能力を解析して今度は人工的に彼のような存在ができるって……テレビやネットで話題になってるわ」
うさんくさい。
「それよりも今、その天津雅騎がテレビで記者会見を行うそうよ」
彼女は自分が操作していたパソコンのディスプレイを俺たちの方向へ向ける。
そこに映っていたのは……………………名前がわからん。
「こいつらたしか……今日学校に転校してきた二人だな」
「名前は?」
「しらん。あまり興味がないし、担任が黒板に名前を書く前になんか天津とごちゃごちゃ話してたしな」
「ひとことも会話してないからわかんないだけでしょ。ぼっちなんだから」
「痛いところをつくな。まぁでもテレビでちゃんと名前が出てるな」
学校で空気のような扱いのような人間がきちんと人の名前を聞いていなくても、有名人ならテレビで放映される。……なんとも妙な話だ。
男のほうは七瀬葉介。女の方は八武崎ヒカルというらしい。
二人ともカメラに向かって堂々と挨拶している。
「はじめましてみなさん。ぼくの名前は七瀬葉介といいます。ぼくは生まれてから手足がない先天性横軸形成障害で生まれてきて、それから機械の義手をつけています。この義肢は城鐘財閥の特製でパラリンピック用の義手ではなく、特殊なモーターにより常人の何倍もの筋力を出すことができるんです」
七瀬が強化された義肢を使い、カメラに映るような位置で、バーベルを持ち上げてアピールする。
「すごいっ‼ あんな巨大なバーベルを持ち上げるなんてっ⁉」
報道陣の人間が驚きの声を上げた。
「これからはこの力と天津くんのサポートをしながら、この国を守っていきます」
今は八武崎ヒカルが愛想を振りまく声色で報道陣に手を振る。
「みんな。これからも『イザナギ』をよろしくー♪」
同時に動きを連結させているヤクモはすぐ近くで連動した動きをしはじめた。
そして七瀬と八武崎に囲まれた天津がカメラに向かって宣言した。
「みなさん。これからは自分ひとりではなく、特殊能力をもった人間が集まってスーパーヒーロー集団『イザナギ』として、活動していきたいとおもっていますので、これからもみなさんよろしくお願いします」
イケメンと美少女、そして報道陣の役者が三文芝居を演じていた記者会見が終わり、動画が終了する。
「……天津だけじゃあなくて、正義のスーパーヒーロー戦隊『イザナギ』? いよいよわけがわからなくなってきたな」
天津雅騎だけじゃなくてあの二人とも戦わなくてはいけないということだ。
「……そもそもスーパーヒーローって必要なのか?」
ディロンの何気ない質問に対して、珍しく俺も同様のことを考えていた。
「おれもそうおもう。日本の治安維持は世界でも優秀だ。警察、消防、自衛隊とあるのに、ヒーロー組織なんて必要ないんじゃないのか?」
その時、粗末な呼び鈴とともにバーの入り口から一人の中年サラリーマンが入ってきた。
「いやぁ、やっとおつまみ買えましたよ。やっぱりこれがないと、はじまりませんね」
ハゲ上がった頭頂部から汗を垂らしながらコンビニ袋に入ったおつまみを広げる。
鈴木一。元は会社の営業マンをしていたがリストラされたサラリーマンのおっさんだ。
二年前に勤めていた会社を解雇されていたところを雇い入れた俺の部下の一人だが、特にたのんでもいないのに俺を『社長』と呼んでいる。そしてほかの人間は鈴木を『課長』と呼んでいる。
一番の年長者であり、おれたちの組織のナンバーツーであり、みんなを仕切っている年長者だ。
「遅かったわね課長。……何かあったの?」
シンイーがつまみの中身を確認しながら課長を心配したが、課長は自慢げに語りだした。
「いえ、ちょっとそこの若いのに説教をしてやっただけです」
彼の言葉に全員イヤそうな顔を浮かべた。
「またかよ」
「老害はこれだからめんどくさいのよね……」
ディロンとエレナが二人そろって、酒で不快感を拭おうと酒に手を伸ばした。
「な、なんだよ。私はすこし――」
「はいはいごくろう様。ご褒美のビールよ♪」
課長の長話を遮るように、シンイーが彼にグラスを握らせもう片方の手でビール瓶を差し出す。
「う、うむ……ありがとう」
色っぽいオカマの圧力におされて、課長は注がれたビールをあおぐ。
「ぷはーっ♪ うまいっ♪」
「……おっさんね」
「うるさい。いいから風呂に入れっ‼」
課長が戻ってきたことにより、場が盛り上がってきたので、これいじょう『イザナギ』の話題を蒸し返すのはやめにして、黙々と一人で考えることにした。
『ヒーロー』なんてものは現実のこの社会には必要ないものだ。
なら、なぜ天津雅騎とイザナギは活動する必要がある?
天津のあの能力はいったいなんなんだ?
なぜ急に天津のサポート役のために八武崎と七瀬が現れたんだ?
…………いやまてよ?
イザナギはあるのに………。
………イザナミはないのか?
もしかしてヒーローというのは…………そういうことなのか?
もしそうなら、何人も人が死んでしまうかもしれない。
それが本当に正義と呼べるものなのか?




