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機械神の英断⑧

天津雅騎視点

「…………つかれた」

 なんとか今日のぶんの仕事は終了して、僕は楽屋でひといきついてくつろいでいた。

 コンコン。

すると、楽屋のドアをノックされた。すこし疲れていてしんどいけど、無視するわけにもいかないので応対することにした。

「どうぞ」

僕が入室をすすめて入ってきたのは一人の少女だった。

彼女の名前は(しろ)(がね)海鳴(みなみ)。僕と同い年であり、そして僕のマネージャーだ。

「天津くん。疲れてるとはおもうけれど、今日のことについてちょっと聞きたいの」

今日のこととは、やはりあの笑い(ラーフ)の仮面をつけたあの男を取り逃がしたことについてだろう。

「ごめん海鳴。あの男を追い詰めたあと、自首を勧めたんだけど。いつのまにか逃げられちゃって」

僕の謝罪の言葉に僕はかぶりを振って否定する。

「いいえ。そのことについてじゃあないわ。私のいっているのはトーク番組やモデルでの仕事についてのことよ」

彼女はキツイ口調で僕を責め立てる。

「インタビューもトーク番組もファッションモデルの仕事もあまりうまくいってないじゃない」

 今日の自分の収録を自分でもおもい返してみる。

たしかに芸能人としてはひどいものだ。

「……たしかにそうかもしれないけど、ぼくは能力をもってるけれど、普通の一般人ではないよ。テレビに出たいわけじゃ」

それでも僕は素直に彼女にいいわけせざるを得ない。

「…………ふぅ……聞いて雅騎くん」

そんな僕に彼女は短くため息をついてから僕に呼びかける。

 「……うん……」

 僕は黙って彼女と向かいあい、話を聞くことにした。彼女は自分のことを心配して言ってくれているのだと自覚しているので、ここは素直に聞くことにする。

 「あなたはもう、ただの高校生ではないの。日本中の人を守るスーパーヒーローになるためには、有名であり、人気を集めてみんなに支持されないといけない。そのためにはまず、テレビや雑誌。ほかのメディアで日本中の人間に知られないといけない。

誰も知らない。誰も支持しないヒーローなんて誰も望んでいないの。

ただ特殊能力のすごい能力をもっていても、人々は変人として扱い、疎まれるだけよ。

それだけじゃないわ。警察や父の会社のスポンサーにも信頼してもらうためにも……

あなたはヒーローであると同時に芸能人でなくてはいけないの。

……わかった?」

 そこで海鳴の話は一旦終わった。雅騎は彼女の真剣な眼差しを見つめなおしながら真剣に答えた。

「……わかったよ。確かにヒーローをやるためにはこの国の人たちの支持をうけなければいけないのかもしれないね」

海鳴の言葉に説得力はあるけれど、僕はそれでも我慢ならなかった。

 「でも僕はやっぱり普通の高校生なんだ。いきなり芸能人と同じようにやれと言われても経験が薄いんだから無理だよ」

 僕の必死の訴えに、今度の彼女は違う反応で応える。

 「わかったわ。それじゃあ経験の長い人に手伝ってもらいましょ」

 彼女はくすりと余裕のある笑みを浮かべてそう提案した。

 「経験のあるひと?」

 僕は海鳴の言葉の意味がよくわからず、聞き返してはみるものの、

 「準備が必要だから、また決まってから、ゆっくり話すわ」

 「……そ、そっか……わかったよ……」

 彼女の真意はよくわからないが、これ以上詮索するのも、なんだか気がひけたのでやめることにする。

 「それじゃあ、今日はもう収録は終わったんだから楽屋(こんなところ)にいつまでもいないではやく帰りましょ」

 彼女は気持ちを切り替えすようにそう言って彼女は携帯を取り出して車を呼んだ。

 「……そうだね。明日も学校だしね」

 謎の仮面の男に振り回されたあと、テレビ番組の収録を行い、そのあと雑誌の撮影を終わっても、僕は明日学校に行かないといけない。

 僕はヒーローで、芸能人で、モデルで、そして高校生なんだ。




 途方もないほど先が見えないほど濃い闇の中で。

 「――アッハッハッハーーーーーーーーーーー♪」

 その怪物は壊れた笑い声を、楽しそうに上げていた。

 僕はひたすら憎かった。その怪物に対する怒りと憎しみがこみあげてくる。

怪物はただひたすら声をあげながら笑い続けた。

「……やめろ…………」

言葉が出ない。力が出ない。

 目の前の存在を許せない。許してはいけない。

自分の心の奥底でマグマのように煮えくり返る熱い闘志が沸き上がる。

「――俺はこれから、俺から奪ってきた人間からすべてを奪って、手に入れてみせるっ!」

怪物は『誰か』を憎んでいる。それは僕なんじゃあないか?

 人間の不幸を楽しんでいるかのように、そして他人の死を弄んでいるかのように邪悪な怪物。

 「そう。俺の名前はこれから……『ロキ』だっ‼」

 動いてほしい。声を出したい。能力を使いたい。

そしていますぐに『ロキ』をとめなければいけないんだ。

義理の父さんが死んだように、たくさんの人間が死んでしまうんだ。

昔の僕には能力がなかった。でも今の僕には目覚めた能力がある。

「僕は……スーパーヒーロー天津雅騎だっ‼」

掌に力をこめてとびかかろうとした瞬間。――目の前の景色が反転した。

体の感覚が宙を浮き、地面に叩きつけられた。




寝ぼけてベットから落ちたのだ。

いったい何がおこったのかを理解するために、自分の部屋を見渡して

ようやくそう気づいた。

 「……夢か……」

 嫌な夢だった。冷や汗があふれてくる。

 ため息をつきながらゆっくり気持ちを落ち着かせて、身体を起こした。

「おにぃちゃん。もう朝だよ。起きて」

部屋の外からぼくを起こそうとする聞きなれた声が聞こえた

天津(あまつ)真理子(まりこ)。血は繋がっていないけれど僕の義理の妹だ。

心配性の僕の妹はいつも目覚ましが鳴る時間近くに僕を起こしにくる。ふとベッドの枕元にある安物の目覚まし時計を見るともう二分ほどで目覚ましが鳴り始める時間だった。

「ありがとう真理子。今日はもう起きてるよ」

ノックに応えながら、これいじょうの小言を言われないように目覚ましのスィッチを切り替えた。

「はいるよ」

しかし目覚ましを枕元に戻す前に妹は俺の部屋へと入ってきた。

妹は花柄の髪飾り(ヘアピン)で短くまとめた髪と小学五年生らしい小柄な体格の少女だ。

ぼくには両親がいない。

僕は四年前にこの天津家に引き取られるまでは施設で生活をしていた。

しかし天津家に引き取られてからは養子として引き取られ、姉と妹と、そして母親の三人暮らしだ。

僕と満里奈は血のつながりこそないけれど、本当の家族のように支えあっている。

「お母さんがもうごはんできているってさ。お姉ちゃんももう起きているよ」

「わかった。それじゃあ着替えてから下におりるよ」

満里奈は「わかった」とみじかく答えて彼女は俺の部屋からすぐに出ていった。

ベッドから起き上がって寝間着から学校の制服へと着替えていく

俺の名は天津(あまつ)雅樹(まさき)私立葦森(あしもり)高校に通う見た目はどこにでもいる高校生だ。

だけど僕には他人にはない特別な能力(ちから)がある。

でも僕の能力をいまだに自分でもよくわかってない。

時々『東京超能力開発所』というところで身体検査や能力実験を行って自分の能力がいったいなんなのかを調べている。

ある日の事件を境に僕は能力を使えるようになっていた。

最初の頃は自分で隠していたんだけど、次第に隠しきれなくなり、義理の家族や友人や周りの人間に打ち明けていった。

そして中学からの友人で財閥の令嬢の城鐘海鳴からの助力を得て日本で初めてのヒーローとしてデビューした。

二年前に義父さんを殺されたあの無力感をもう味わいたくない。

そのために強くならなければいけないんだ。

俺は天津雅樹。この日本を守るスーパーヒーローだ。


 


リビングでは義理の母さんがキッチンで料理を作り、妹が料理の盛り付けや朝食の準備をしていた。

そして義姉さんはリビングでテレビを見ていた。

天津(あまつ)虹子(にじこ)。僕の義理の姉であり、仕事は雑誌の編集者だ。

また深夜まで残業していたらしい。いつもはきれいにまとめられている髪の毛はぼさぼさでTシャツと短パンというだらしない姿だった。

テレビで注目されていたのは昨日の事件のニュースだった。

「……あらためてみるとはずかしいな」

「どこがよ。ずいぶんとノリノリだったじゃない」

僕は謙遜してみたが、姉は容赦なくつっこみをいれられた。

「義姉さんは昨日も夜遅くまで残業?」

「そうだよ。どっかの誰かさんがスーパーヒーローになっちゃったから、私たちのところにも他の会社から取材がきて断るのが大変だったのよ」

義姉さんは新入社員だがもううでに何稿かまかされているだけあって編集力と実力はたしかなものである。そのため激務で夜遅くまで会社で仕事をしている。そのため帰りが遅く、下手をすれば泊まり込みで何日も家にいないこともあった。

「確かにそうだね。ごめん義姉さん」

僕があやまると姉さんは肩をすくめて付け足した。

「……まぁ記者は私がやりたかった仕事だったし、ヒーローは雅騎がやりたかったことだからしかたないことだけどね」

本当は僕がヒーローやっていることに対して何かと思うことがあるのかもしれないが、姉としてそこを飲み込んで僕を励ましてくれる。その気づかいがとても嬉しかった。

「そうだね。俺も姉さんもなりたいものとやりたいことが一緒なだけだよね」

「ご飯、できたわよ」

俺と義母さんと義妹が朝食をテーブルに運んできた。

天津(あまつ)日名子(ひなこ)。僕の義理の母であり、事故で夫を亡くしてからは女手一つで僕たちを育てている。

もっとも、この家は購入済の高級マンションで、この家はお金には困っていないので働いていない。専業主婦でもう子供もかなり大きいのでヒマを持て余しているのだという。

義姉さんもテレビを消して食卓へと向かった。

「はい、それじゃあ――」

母さんの掛け声で朝食が始まる。

「「「いただきます」」」

『今』は三人だけどぼくたちは家族だ。そしてこの家族を守るためにも、僕は戦わなければいけないんだ。




「「行ってきます」」

「行ってらっしゃい。気を付けてね」

朝食を終えて準備を整えてから、義理の母親と姉に声をかけ、彼女たちに見送られながら義妹と一緒にいつもの時間に家を出た。

中学生である義妹とは途中まで通学路が一緒だ。だから自然と会話をするようになるのだが、今日の真理子はどこか言いづらそうだった。

「……今日さ。おにぃちゃん。すごくうなされてたね」

「えっ⁉ も、もしかして聞こえてたの?」

「うん。『ロキ』って言ってたよ」

「…………そっか」

「……ロキってさ。お父さんを殺した怪物のことだよね」

僕は正直に言うのをすこしためらったが母と姉にその名前の怪物の話をしたことがあるので、どちらにしても知ってしまうだろう。ならここで話したほうがいい気がする。

「そうだよ。あの事件でたくさんの人を殺した怪物だよ」

「そいつはいったいなんだったの?」

「わからない。二メートル超えるうような巨大な怪物だったのに、デパートで暴れた後はあとかたもなくいなくなったんだ。どこかに逃げたらしい」

「ふーん。……まるでこのまえ、おにぃちゃんが逃がしたあのラーフってやつみたいににげるのがうまいんだね」

僕は真理子にそう指摘されて、たしかに似ている点に気づいた。

「……たしかに、あの仮面男も黒色で、しかもいつのまにかいなくなっていた。似ているのかもしれない……」

僕がぶつぶつと思考にも、想像にもならないことをつぶやいていると。

「……おにぃちゃん……」

 不意に真理子に呼び戻された。僕ははっとなって我に返る。

 「……かお、こわいよ」

女の子特有の甘い香りがした。義理の妹なのに、そんなふうに感じてしまった自分が情けない。

「……ヒーローって大変だとおもうけど、無理……しないでね?」

僕はむりなどしていない。こともないけど、それを家族や他人に悟らせたくない。

その僕の気持ちをどこか幼い彼女も感じ取ったのだろうけど、

「大丈夫だよ。僕は死なない。僕はヒーローだから」

そう強がってごまかすことしかできない。。

「……応援しているからね。にいさん」

家族に、みんなに信じてもらうことしかないんだ。

「ありがとう」

そして僕たち二人はそのまま並んで学校へと向かった。


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