2.
会計はそこそこな額になってしまった。旅情に当てられて飲み過ぎたのか、それとも噂通り都会の物価が高いのか。そんな事を酩酊した頭で考えながら店を出た。恐らく前者らしい。
雨はまだ降っていたけれど、人が減った街から傘の層は消えている。
喫煙所へ視線を向けると、あの下品なライターと悪戯な笑顔がこちらを待っていた。
「なんや、まだ居ったんか」
「お兄さんが煙草吸えないと可哀想だなって思って。てか急に関西弁じゃん。ウケるんだけど」
「ああ、ワイ実は関西出身ですねん」
流石に日常でも聞かないようなコテコテの関西弁で返しつつ、煙草を取り出す。彼女は笑って火をつけた。
「どう?二万とホテル代、払う気になった?」
「ならんよ」
強い口調で言ったものの、その先に詰まってしまった僕は、煙を吐いて時間を稼いだ。
「キミみたいな子らって、タイパだのコスパだの言うて結局損する事してるイメージやったわ。結構粘り強く待てるんやな」
何とか皮肉を捻り出したが、これではSNSの作り話に出てくる悪役のオジサンである。
「なんか、この前のおぢさんみたいなこと言うね」
「いや誰やねん、そのオッサン」
実在するのかよ、悪役のオジサン。
笑ってしまいそうになった僕に、少女は真剣そうな顔で続ける。
「タイムは無駄にしたかもだけど、どうせやることないなら一緒だし。コストは立ってただけだから全然でしょ」
「煙草代」
「それはお兄さんいなくても吸ってた」
僕はもう一度、彼女をあしらう言葉を考えた。しかし、ここで安易に「家に帰ればいい」と言うのが違う事くらいの察しはついた。少なくとも彼女は、僕がそう答えるであろう事を予想したうえで、「帰るとこない」と言っている。
その方向へ思考が向くと、少女に対して何処か同情のようなものが湧いてきた。ほんの数秒前まで如何に嫌味を言おうか考えていた人間の思考とは到底思えない。
「そもそもキミ、いくつなん?」
「ハタチだよ?」
「ええて、そういうの」
少女は一度僕の顔を見て、それから開き直ったように笑った。
「十七」
「それは、あかんやろ」
「今更?」
僕は返事をしなかった。彼女の手にある煙草を見て、少し前から分かっていた筈の事を、今になって重大な発見のように考えていた。
そうして黙ると、少女は僕を見上げた。
「お兄さんは?」
「二十三」
「若いじゃん」
だから何なのだろう。その続きを問う事も出来ず、僕は彼女に釣られるようにヘラヘラと笑った。
少女は煙草を消すと、雨脚を確かめるように庇の外へ手を出した。
「とりあえず、濡れるのやなんだけど」
気づけば僕は彼女に手を引かれ、繁華街の少し外れへ向けて歩き始めていた。




