真葵と真理と愛しい気持ち(2)
「……あいつと……もうひとつの人格と一緒に消えるつもりだ」
私に抱きしめられている真理ちゃんが声を震わせながら話しているけど……
「……え? 消える?」
「鈴木真理はもう大丈夫だ。真葵もいるしな」
「真理ちゃん……」
「でもまだ先の話だ。あいつ……消えたくないからって鈴木真理を表に出さないようにしているんだ」
「そんな事ができるの?」
「鈴木真理に言い続けているんだ。『外に出ると恐ろしい奴らに酷い目に遭わされるぞ』って……」
「……そうだったの」
「俺は鈴木真理に『外は良い所だ』って話しているんだ。『もう誰からも傷つけられないから大丈夫だ』って……」
「……真理ちゃん」
「俺は……本当は……ずっと真葵と一緒にいたい……でも……ダメだから……俺は鈴木真理が絶望から抜け出したら消える存在だから」
「……」
なんて言ったらいいか分からないよ……
「繋ぐ者のおじさんに今の話をしたら鈴木真理の母親に会いに行ける事になったんだ」
「……え?」
「鈴木真理は母親とすごく仲が良かったらしいんだ。だから会えば何かが変わるはず……その時に……もう一人の真理と……消えるつもりだ」
「そんな……」
「上手くいくかは分からないけど……あいつを抑えるのが大変になってきたんだ……日に日に凶暴になっているから……」
「ずっと抑えつけていたの?」
「……俺はあいつの『殺す』の声が駿河だと思い込んでいたんだ」
「……真理ちゃん」
「俺が消えて……鈴木真理に戻っても……仲良くしてくれるか?」
「……」
なんて言ったらいいの?
「真葵は優しいな……まだ先の話だけど……その時は『外の世界は怖くない』って鈴木真理に教えてやってくれ。真葵なら安心して任せられるから」
「私はそんな立派な人間じゃないよ……」
「真葵は立派だ。俺が……鈴木真理が生きていられるのは真葵のおかげだ。暗殺部隊に殺されそうだった俺を守ってくれただろ? 俺を車から引きずり降ろして馬乗りになって……あの時『普通女はこんな事しない』って言ったら『私に普通なんて通用しないんだ』って言って……その後一緒に独房に入ったよな。独房は楽しかった」
『私に普通なんて通用しない』?
そんな事、言ったかな?
ずっと普通の人間の振りをしてきたけど……
普通の人間になりきれていないって自覚していたの?




