真葵と真理と愛しい気持ち(1)
「うーん……まだ眠い……あれ? 襖に新聞が貼ってあるぞ?」
七時になると真理ちゃんと、真理ちゃんを見守るおじさんが起きてきた。
小犬丸さんがあけた穴をとりあえず新聞で塞いだんだけど……
おじいちゃんは、かなり怒っていたね。
「おはよう。今日の朝ごはんは鮭だよ。眠そうだね」
「鮭? 魚は骨が邪魔……」
「あはは。鮭は大きい骨しかないよ。私が取ってあげるからね」
「うん! 真葵……抱っこ……」
「真理ちゃんは甘えん坊だね」
あ……
抱きしめた真理ちゃんが柔らかい。
お兄ちゃんもおじいちゃんも硬かったけど、真理ちゃんは女の子だから柔らかいんだね。
「真葵は一緒にいると気持ちいい」
「……? そうなの?」
「……ニンニクの匂いがする」
「昨日の夕飯は焼き肉だったんだよ。真理ちゃんは仕事で食べられなかったから今日のお昼に高い肉を買ってくれるっておじいちゃんが言っていたよ」
「肉! 肉は骨がないから好きだ!」
「あはは。真理ちゃんは骨が嫌いなんだね」
「喉に刺さると痛いんだ。ふわぁぁ……」
やっぱり真理ちゃんには痛覚があるのか……
「眠そうだね。塾の仕事が大変なのかな?」
「塾は十時には終わるから大変じゃないぞ……でも……声が……」
「……声? どうかした?」
「真葵は……俺が鈴木真理になっても仲良くしてくれるか?」
「……え? どういう事?」
「……俺は覚醒者じゃなかったって聞いたんだ」
「……そう」
「鈴木真理が酷い実験から逃れる為に作り出された人格……それが俺だった……」
「真理ちゃん……」
「最近……俺の役目が終わったみたいに感じる事が多くなってきたんだ」
「……え?」
「もう消える時がきたのかもな……」
「……消える?」
「まだすぐにじゃない。一人邪魔者を消さないとだからな」
「……邪魔者?」
「……真葵が本当の鈴木真理だと思っているのは……偽者だ」
「偽者? どういう事?」
「……あいつも俺と同じ、作り出された人格」
「……え?」
「凶暴で他人を陥れるのが好きな奴だ」
「……凶暴で他人を陥れるのが好き? だから埼玉で会った時の真理ちゃんは今の真理ちゃんとは別人みたいだったんだね」
「……別人? そうか?」
「今の真理ちゃんは優しくてかわいくて甘えん坊だから。埼玉で会った真理ちゃんは私を傷つけて喜んでいるように見えたの」
「……あいつはそういう奴だ。本当の鈴木真理はあいつに抑えつけられているんだ」
「……真理ちゃんは凶暴なもう一人の真理ちゃんをどうするつもりなの?」
怪我をするような事にならないといいけど……




