真葵と猫と小犬丸(5)
感情を消して何も感じない私と違って、モモちゃんは自由に生きているんだ。
自分らしく、わがままに……
私らしさってなんだろう?
「ンミャ? (小娘、手が止まっているぞ)」
「あぁ。ごめん。ちょっと考えちゃって」
「ンミャン? (何をだ?)」
「私らしいって何かな?」
「ミャンミャ(知るか。さっさと撫でろ)」
「……そうだよね。私でさえ分からないのにモモちゃんに分かるはずないよね」
「ンミャミャンミャミャ(下僕が話していたな。小娘が苦しんでいた事に気づかないなんて父親失格だと)」
「……え?」
「ンミャンミャ(下僕は愚かだが小娘を想っている)」
「……うん」
「ンニャッニャニャン(下僕に話してみろ。下僕は小娘に頼られたいと思っている)」
「……叔父さんが?」
あ……
モモちゃんが喉をゴロゴロ鳴らし始めた。
……おじいちゃんが掃除を終わりにしたのかな?
誰かが玄関を開ける音がした。
「あぁ……寒い……ん? 襖に穴があいてるぞ?」
あれ?
この声は叔父さん?
分厚いコートを着た叔父さんが居間に入ってきた。
「下僕……」
あ……
叔父さんの事を『下僕』って呼んじゃった。
昨日はママの施設で寝たみたいだけど、本当に一日一度会いに来てくれるのかな?
「……は? 下僕?」
まずい……
怒られちゃう……
「叔父さん……早起きだね。いつもはお昼近くまで寝ているのに」
「……『下僕』をごまかしたな」
あ……
さっきまで私の膝でゴロゴロ喉を鳴らしていたモモちゃんが甘えた声を出しながら叔父さんの脚にすり寄っている。
……うわ。
ニャーニャー甘えた声に聞こえるけど『下僕、今の缶詰より前の物がいい。この役立たずめ。早く旨い缶詰を持ってこい』って言っている……
「モモちゃんが言ったのが、うつったの!」
「……は? モモ? 何言ってるんだ? こんなにかわいいモモが俺を『下僕』なんて言うはずないだろ」
すっかり騙されているね。
こんなので施設長が務まるの?
「それよりっ! ママのそばにいなくていいの?」
ごまかすんだよっ!
これ以上ネチネチ言われる前にっ!
「……ネチネ……はぁ……すぐ近所だからな。モモ……寂しかったな。一緒にこたつでゴロゴロするか」
早速こたつに入ってゴロゴロし始めた。
今、絶対私の心の声を聞いたよね……
うーん……
私に会いに来たっていうより、こたつに入りに来たんじゃ……
横になった叔父さんの肘を枕にしたモモちゃんがウトウトしている。
「ンミャンウミャ(仕方ないな。上手く撫でたから喉をゴロゴロ鳴らしてやる)」
「あぁ……モモは喉を鳴らしてかわいいな」
叔父さんはモモちゃんの甘えた声に騙されているけど……
まあ、幸せそうだからいいか。




