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真葵と猫と小犬丸(4)

「……でも、あなたは私の感情や感覚を取り戻そうとしていないように見えるよ?」


「……え?」


 暗殺部隊を率いる繋ぐ者が驚いたような表情になった……


「あなたは時間がかかる回りくどい事をしたくないでしょ? 本当は今のこの探り合いみたいなやり取りも面倒なんだよね? でもあなたは満足した。私が本物の駿河『様』についての真実を知っている事が分かったから」


「……」


「パパを消せば……私は暴走して、今はまだ完全覚醒していない『駿河様』があなたの言う()()()完全体の駿河になるかもしれないよ?」


「まぁ、そうだな」


「何が目的なの? あなたは駿河を蘇らせようとしているようには見えないよ」


「……お嬢ちゃんが俺の心を聞けば済む話だ」


「嫌だよ。私は『普通の人間』だから」


「そうやって自分自身に暗示をかけて人を殺さずに生きてきたのか」


「……一人殺したらもっと殺したくなっちゃうから」


「歯止めが効かなくなる……か。(さすが『理性のユリ』だな)」


『理性のユリ』……か。

 やっぱりこの繋ぐ者は駿河の亡骸の心を聞いたんだね。


「結局……私はパパの事が大切なんだよ」


「……」


「普通の人間の振りをして『偉いね』ってパパに髪を撫でて欲しかっただけなんだよ」


「まだ四歳の頃……か」


「あなたは私に関わらない方がいい」


「(少し待て……猫を抱け)」


「……え?」


 小声になった?


「(驚いたらかわいそうだからな)」


「(……え? かわいそう? ……モモちゃんおいで)」


 モモちゃんを抱き上げるとしっかり抱きしめる。

 あ……

 フワフワで温かい……

『柔らかい』が分からなかった昨日までとは全然違う抱き心地だ。

 

「ンニャッ? (どうした?)」 


 青く透き通る瞳が私を見つめている。

 ……?

 なんだろう……

 胸が温かい。

 これは昨日感じた『嬉しい』とは違うような……


「ンニャニャ? (小娘?)」


「どうしたのかな? モモちゃんを抱いたら胸が温かくなったの。ずっとこうしていたい……みたいな……」


「ンニャン(俺がかわいいからだろ)」 


「かわいい……?」


「ニャニャンミャ(俺はかわいいから溺愛されるのは当然だ)」


「これが『溺愛』……?」


 ……え!?


 繋ぐ者が襖を叩いた!?

 うわ……

 穴があいちゃったよ……

 

「ンニャッ!?」


 驚いたモモちゃんがバタバタ暴れている。

 抱っこしていてよかった……

 

「太ったネズミめ……害がなさそうな奴ほどずる賢いな」


「誰もいないけど……襖の向こうにいたのはおじさんなんだよね?」


「そうだな……」


「偶然立ち聞きしていたとかじゃないのかな?」


「……さあな。お嬢ちゃん……常に油断するなよ」


「……うん」


「で? お嬢ちゃんに関わらない方がいい理由は?」


「あなたが駿河『様』を崇拝していないから……かな?」


「……俺は駿河様を崇拝している」


「……あなたこそ自分自身に言い聞かせているんじゃないの? 『駿河様を崇拝しろ』って」


「……どうしてそう思う?」


「……心を聞かなくても分かるよ。あなたは顔に出やすいみたいだから。真実を知って崇拝できなくなったんじゃないの?」


「……俺は『あなた』じゃない」


「……え?」


「俺は小犬丸だ」


「……? こいぬまる?」


「丸い小犬で小犬丸……」


「……? 犬?」


「名字だ」


「名字? 小犬丸? 初めて聞いたよ」


「大型犬みたいな俺が小犬丸なんてな」


「小犬丸さん……」


「……俺をそう呼ぶ奴は少ない。まぁ、陰で呼んで笑ってる奴はいるだろうがな」


「じゃあなんて呼べばいいの?」


「好きに呼べ」


「……好きに?」


「イヤホンを持ってきてやる」


「……壊れちゃうからいらないよ」


「もっと高性能のイヤホンだ」


「高性能?」


「……じゃあな」


 居間から出た小犬丸さんの玄関を閉める音が聞こえる。

 帰ったのかな?


 穴があいた襖……

 どうするの?


「ンニャンニャ……(この穴……風が入ってきて寒い)」


「これ……もしかして私が弁償するの……?」


 あ……

 私の腕にいたモモちゃんがこたつに潜り込んだ。


 小犬丸さんがやったって言ってもいいのかな?

 うーん……

 おじさんが盗み聞きをしていたのは知らない振りをした方がいいんだよね?

 

「ンニッ! ンニャニャッ! (小娘! こたつが冷たいぞ!)」


 モモちゃんはずっと威張っているね。

 本当に叔父さんみたいだよ。


「もう……わがままなんだから」


「ンミャミャッ! (撫でろ!)」


「……威張るくせに甘えん坊なんだね」


「イニャッ! ((いな)!)」


 イニャ(いな)……?

 

「ンミャンミャン(上手く撫でたらゴロゴロ喉を鳴らしてやる)」


「……いや、別に鳴らさなくても……」


「ンニャッ! (早く座って撫でろ!)」


「……朝ごはんもほとんど作り終わったし。いいよ。膝においで」


「ンニャンニャ(偉そうにするな。撫でさせてやる優しさに感謝しろ)」


「……本当に叔父さんみたいにわがままだよ」


 でも……

 抱っこしたら柔らかい……

 温かくて、息をするたびにお腹が動いている。


 こんなに小さいのに生きているんだね。

 

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