真葵と猫と小犬丸(1)
翌朝六時___
おじいちゃんは、いつも通り畳屋の前を掃除している。
私は猫のモモちゃんに缶詰を開けているんだけど……
「ウニャウニャウニャ……(なんだ。またこの味か。この前の方が旨かったのに。小娘……いつもの下僕はどうした? モグモグ)」
……モモちゃん。
下僕って叔父さんの事だよね。
パパとの約束は『人間の心を聞かない』だから、モモちゃんの心を聞くのは問題ないはず。
「ンニャッ! (おい、小娘!)」
「もう……モモちゃんは文句を言わないの。私がモモちゃんのおやつを買いに行こうとしたら叔父さんにダメだって言われたんだよ」
「ンニャッ! ンニャン!(言い訳するな! 今すぐこの前の味のを持ってこい!)」
「……性格最悪だね。叔父さんが甘やかすからこうなったんだよ」
「ンニャッ! (おやつはマグロの刺身がいい!)」
「は!? 私だってなかなか食べられないのに!? 無理だよ! 家は貧乏なの!」
あれ?
でも、叔父さんもおじいちゃんもお金持ちなんだよね?
貧乏じゃないのかな?
「ンニャッ! (一度も冷凍されてないマグロにしろ!)」
「はあ!? 絶対高いでしょ!? 無理無理!」
「ンニャッ! ンニャニャ!(じゃあテレビでやってた最高級鰹節を持ってこい! そして削れ!)」
「……まったく。そんなの私だって食べた事ないよ……それに鰹節は食べ過ぎると猫には良くないって何かの本に書いてあったよ? だいたいモモちゃんは、おじいさんとおばあさんの家じゃカリカリを食べていたんだよね? すっかり贅沢になっちゃって」
「ウーニャー……(あの人間達か……)」
「……おじいさんとおばあさんに会いたい?」
「ウー……(別に会いたくはない。今の方がいい)」
「……そうなの?」
「ウー……(あいつらは小娘を家に呼ぶ為に俺を利用した」
「……うん。知っているよ」
「ニャー……ウーニャー……(本当は家にいるのに脱走したと言い小娘を呼び寄せた)」
「家にいたの?」
「ウーニャー……(あいつらは俺を閉じ込めた。高貴な俺を……)」
「……高貴?」
「ンナー……(ここは良い。こたつもあるし下僕もいる)」
「……この家にいればモモちゃんは王様だからね」
「ンニャッ! (分かったらさっさと旨い物を持ってこい!)」
「……どこかで見たと思ったら……叔父さんにそっくりだよ。猫か人間かの違いだけだね」
「……お嬢ちゃんは猫と話してるのか?」
……!?
この声は暗殺部隊を率いる繋ぐ者……
全然気配を感じなかった。
いつの間に背後にいたの?
……そうか。
昨日は焼き肉の帰りに飲み足りないからって泊まったんだっけ。
『普通の人間は嘘をつかない』ってパパが教えてくれたから、モモちゃんと話していた事を認めないと。
「……うん」
「『普通の人間』……か」
また私の心を聞いたんだね。
それを隠そうともせず声に出している。




