今日は特別な日なの?
「結婚……? 真葵が……?」
パパの表情がどんどん険しくなっていくのが分かる。
「だって葵様は十七歳でぴよたんを産んでいるし……ぴよたんは、かわいいからいつ結婚してもおかしくないよ」
おじさんは、さっきまで泣いていたのに今はニコニコ笑っている。
泣いても笑っても肉を焼く手は止まらないんだね。
「許さないっ! 絶対に許さないっ! そんな奴が現れたら消してやるっ!」
……パパ。
暗殺部隊を率いる繋ぐ者がそんな事を言ったら冗談に聞こえないよ。
「あらあら。竜ちゃんたら、真葵も年頃なんだからそんな事を言ったらダメよ? カズちゃんも変な事を考えたらダメでしょ?」
ママが呆れながら笑っている?
でも叔父さんが変な事を考えているって……?
「……真葵は簡単に騙されるバカだからな。父親として俺がしっかり見極めてやる。見極めたうえでどんな奴だろうと相手は八つ裂きだ……いや、真葵に近づいた時点で八つ裂きより多く裂いてやる……何裂きだ?」
叔父さんは見るからに高そうなお酒を大量に飲んでいる。
支払いがおじいちゃんだからか……
あれ?
叔父さんがテーブルに突っ伏した?
酔い潰れたのかな?
「……真葵。俺はいつになったら『叔父さん』じゃなくなるんだ?」
「……え?」
「おかしいだろ。叔父の狩野が『パパ』なのに……父親の俺が『叔父さん』なんて」
「……!」
「結局真葵は……俺より狩野が大事なんだ」
「叔父さん……」
「あぁ……俺が真葵の本当の父親なのに……」
……まただ。
胸がキュッて冷たくなった……
「小田ちゃん? 寝たの? ……疲れているんだね」
パパが叔父さんに上着を掛けてあげている。
「……真葵? 大丈夫?」
ママが話しかけてきたけど……
「私……変だよ。また胸が冷たくなったの」
「……それは『心』よ」
「心? でも私には感情がないんだよ?」
「……あるわ。今は心が眠っているだけ」
「眠っている……?」
「このまま感情が戻ったら『駿河』が暴走しそうで怖いのね?」
「怖い? 私には『怖い』が分からないよ」
「……カズちゃんに言われたの。真葵が苦しんでいるから親として助けたいって」
「……え?」
「カズちゃんは真葵の父親で、私は真葵の母親……私も苦しんでいる真葵を放っておけないわ。だからカズちゃんと二人で繋ぐ者と四つの施設長にお願いしたの。真葵に会いに行きたいと」
「……ママ」
「でも今日だけ特別なの。四つの施設長が一緒だからママは外に出られたのよ」
「今日だけ特別?」
「真葵……ママに会いに来てね。かわいい真葵……愛しているわ」
ママの瞳が私を見つめている。
「ママ……『愛』って何?」
「言葉で表すのは難しいわね……でも……ママはね? 真葵が辛いと辛くなって、嬉しいと嬉しくなって……毎日駿河ちゃん達から真葵の話を聞くのが楽しみなの」
「楽しみ? 辛い……嬉しい? 私には、ひとつも分からないよ」
「少しずつ変わっていくわ。親子が揃ったんだもの」
「親子が揃った?」
言われてみれば……
確かにそうだ。




