パパは、こんなに話しても大丈夫なの? ~後編~
「狩野になる為に整形したのか?」
叔父さんが険しい表情でパパに尋ねている。
「これはここだけの話にして欲しい。ちょうど若い駿河がいなくてよかったよ。心の隠し方を知らないから考えている事を聞かれ放題だからね。まぁおかげで情報が筒抜けで助かったよ」
「……ツクツク駿河には心を隠す方法を教えないとな」
「小田ちゃん……もうひとつ隠していた事がある。……俺は……真葵の叔父だ」
「……は?」
「……信じられないかもしれない。でも……葵は俺の双子の姉なんだ」
「……は?」
叔父さんは『は? 』しか言わなくなったね……
難しい事を考えるのが嫌いだから仕方ないか。
「真葵は俺の姪なんだよ」
「……姪?」
完全に叔父さんの思考が停止したみたいだ。
パパが話したなら私も話さないと。
どうせ私の考えている事は聞かれているだろうし。
隠しても無駄だよね。
「叔父さん……他の皆にも聞いて欲しいの」
「真葵……話すの?」
パパが険しい表情で話しかけてきた。
「隠したくても無理だから。ここにいる皆が私を完全体の駿河だって気づいているんだよ。考えている事も聞かれているだろうし」
「……そうだね。まさか……皆、真葵が完全体の駿河だと知っていたなんて……」
「私は四歳の時に覚醒したの。パパはそれを知られたら私が殺されると思って……私の中の殺意を必死に抑え込んだ。血まみれになりながら……」
「血まみれ?」
叔父さんが私の瞳をしっかり見つめながら呟いた。
私の言葉に嘘がないか『心』を聞いて確認しているんだね。
「私は……私の頭の中には……駿河の『殺す』っていう声がずっと聞こえているの」
「『殺す』? 『殺せ』じゃなくて?」
「……うん」
「今も聞こえるのか?」
「うん。おじいちゃんはその声を消す為にイヤホンをくれたの。でも駿河の力が強過ぎたみたいで、壊れてヤケドしたの」
「……駿河の力が強過ぎてイヤホンが壊れた? 真葵はずっとその声が聞こえていた? そんな……よく耐えられたな。俺でさえ駿河の声に負けそうになったのに」
「パパが教えてくれたの。全ての感情を消せば駿河の声に勝てるって」
「……なんだ……それ……」
「そうしないと全てを殺したくなるから……」
「全てを……殺したくなる?」
「殺意以外の全ての感情を失った私に……パパが感情や感覚の表現の仕方を教えてくれたの。『普通の人間に見える生き方』を……」
「『普通の人間に見える生き方』?」
「四歳の私は化け物だった……パパはそんな私を……普通の人間の振りができるようにしてくれたの」
「狩野はたった一人で完全体の駿河の感情を抑えつけたのか」
「あの時のパパはいつも血まみれで、一秒も私を離さなかった。ずっと抱きしめてずっとこう言ってくれたの。『普通の人間の振りをするんだ。誰にも真葵を殺させない』って」
「……そうか」
叔父さんはずっと私の瞳を見つめている。
嘘じゃないって分かってくれたかな?
そういえば、おじさんはママが施設に戻ってからずっと私を見守っていたんだよね。
いつ私が完全体の駿河になった事に気づいたんだろう。
覚醒はしていないと思っていたみたいだけど……




