パパは、こんなに話しても大丈夫なの? ~前編~
狩野さんと一緒におじいちゃんの畳屋に行くと氷のうとヤケドの薬が用意されている。
「真葵ちゃん。狩野ちゃんも薬を塗ろう」
おじいちゃんが耳に氷のうを当ててくれたけど……
冷たい……
でもヤケドしたはずの耳は痛くないから痛覚は戻らなかったんだね。
柔らかいとか硬いとかは分かるようになったみたいだけど……
「真葵……どうしたんだ? 何があった」
叔父さんが険しい表情で尋ねてきた。
「……駿河の声が聞こえて……」
「駿河の声!? まさか覚醒!?」
「あ……よく分からないの。おじいちゃんが駿河の声が聞こえなくなるイヤホンをつけさせてくれたんだけど熱くなって壊れちゃって……」
「不良品だったのか?」
「……たぶん私が他の覚醒者と違うからだと思う」
「……ヤケド……痛くないか?」
「大丈夫。痛みは感じないから」
「……そうか。狩野もヤケドしたのか?」
「狩野さんは壊れたイヤホンを耳から出してくれたの」
「……それで狩野もヤケドしたのか」
「小田ちゃん……もう葵から聞いた?」
狩野さんがママを呼び捨てにしている。
今までは皆の前で『葵様』って呼んでいたけど……
もう隠すつもりはないみたいだ。
「……『葵』? どうして呼び捨てなんだ?」
叔父さんはまだママから聞いていないんだね。
「……そう。じゃあ俺から話すよ」
狩野さんがママに話しかけた。
叔父さんは、ずっと険しい表情をしている。
パパとママが恋人だったとか勘違いしているのかな?
「……そうね。それがいいわ」
ママはずっと微笑んでいる。
年齢よりずっと若く見えるね。
あれ?
見た事がない男性が何人かいるけど誰なんだろう。
そういえばママが訪ねてきて私が混乱した時に声が聞こえたかも。
「駿河は里にいた時から一緒だったからもう気づいていたよね。……俺は……真葵が『パパ』と呼ぶ駿河だ」
『駿河』?
おじさんの事だよね。
これでもう皆の前で『狩野さん』って呼ばなくていいのかな?
でも、誰が敵か味方か分からないのにパパって呼ぶのはよくないか。
「……は? そんなはずない。真葵が見せた育ての父の写真は別人だった」
叔父さんに見せた写真?
あぁ。
パパの遺影かな。
あの頃のパパは今よりかなり身体が大きかったから別人に見えるよね。
「……整形したんだよ。事情があってね……葵の見守る者をしていた時、真葵を託されたんだ」
「事情? ……いや、やっぱり変だ。今の話だと二十二年前団体から俺を助け出した時、狩野は真葵の育ての父として暮らしていた事になるだろ?」
「……それは俺じゃない狩野だよ」
「……は?」
「狩野は何人もいる。誰か死んでも他の狩野がいれば問題ないからね」
……そこまで話して大丈夫なのかな?




