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パパとの内緒話(3)

「……え!? 駿河の身体の一部が施設にあるって!?」


 パパのこの様子……

 嘘みたいな話だけど信じてくれるのかな?

 

「私……駿河『様』に呼ばれてあの施設に行ったんだよ」


「それってさっき勇真さんに話していた……」


「うん。おじいちゃんは知らないみたいだから、さっきは話さなかったの」


「……駿河に呼ばれた……駿河の亡骸に? でも……あの施設は二十二年前に建て替えが終わって……じゃあ誰かが亡骸の一部を持ち込んだのか……? そんな事ができるのは施設長くらいしか……まさか……父さんが……?」


『父さん』?

 そういえばあの施設長は実の父親の振りをしてパパを育てていたんだっけ。


「……信じられない?」


「いや、真葵が言うなら信じるよ。真葵は嘘をつかないからね」


「……私は嘘つきだよ?」


「違うよ。真葵は嘘つきなんかじゃない」


「……パパ」


 今度は胸が温かくなった?


「それで駿河は真葵に何を話したの?」


「……これ以上は話せない」


「え?」


「パパの心を誰かに聞かれたらパパが殺されるかもしれないから」


「……パパの心配をしてくれるの?」


「……心配? 分からない……でも……話したくない」


「真葵……」


「これだけは……話しておくよ」


「……え?」


「駿河は崇拝されるような奴じゃない」


「……それは?」


「結局皆騙されていたっていう事」


「騙されていた?」


「でも皆それに気づかなかった。だからこの百七十年駿河は崇拝され続けた」


「……? よく分からないよ」


「パパ……これ以上駿河『様』の秘密に近づいたらダメだよ。殺されちゃうから」


「真葵……」


「崇拝者は危険だよ。駿河『様』の為なら何をしても『正義』だから」


「……何をしても正義?」


「パパは私の為に非公認の団体を消した。でも、繋ぐ者は違う。駿河『様』復活の為に当たり前みたいに人を殺している」


「……それは……そうだけど……」


「気をつけて。駿河の里の忍びを信じたらダメ」


「……真葵。それは小田ちゃんも含まれるの?」


「……さぁ。分からないよ。でも叔父さんは『叔父さんも含めて誰も信じるな』って言っていたよ」


「……誰なら真葵を守る仲間になってもらえるんだ。葵は身重だからこの状況を話せないし……」


「……ママの事も信じたらダメだよ?」


「……え?」


「あの優しい笑顔は作られたものだから」


「え?」


「ずっと特殊な環境で育ってきたから心が壊れているんだよ。パパだって気づいているんでしょ?」


「……それは」


「ママの心を聞く力は確かにすごい。でも……私には敵わない。パパはママの瞳を見ない方がいいよ。色々知り過ぎたから心を聞かれたら大変だよ」


「……真葵」


「これ以上は話せない。パパの為だよ」


「……ずっとこうやって生きてきたの?」


「え?」


「辛かったね……真葵……」


 パパに抱きしめられると……

 ……パパの匂いだ。

 パパの胸に顔を押しつける。 


 ずっとずっとこのままでいたい……


 ……え?

 どうしちゃったんだろう……

 私……

 変だよ……

 今は『素直でかわいい真葵』を演じなくていいのに『ずっとこのままでいたい』なんて…… 

 ……?

 あれ?

 今度は殺意が込み上げてきた? 

 そうか……

 パパの匂いで昔の事を思い出したんだ。

 私が覚醒した四歳の時に流れ込んできたパパの心……

 パパは、家族を不幸にした完全体の駿河である私を殺したいほど憎んだ。 

 ……胸が冷たくなってきた。

 もしかして……

 これが『悲しい』なの? 

 今は心の声を聞かないからパパが私をどう思っているのかは分からないけど……

『姉であるママの娘だから私を救いたい気持ち』と『殺したい気持ち』で揺れているのかな? 

 でも……

 殺されていないんだからパパは私を大切に想っている……?

 あ……

 今度は胸が温かくなってきた。


 ……あれ?

 ずっと聞こえていた駿河の『殺す』の声が聞こえなくなった? 

 こんなの初めてだ……


 本当にどこまでも甘いよね。

 私が完全体の駿河だって気づいた時に殺しちゃえばよかったのに。


 ……え?

 頭の中に私の声が聞こえてきた?

 何これ……

 ここには私とパパしかいないし……

 もしかして私の心が話している……とか?


 聞こえなかったの?

 四歳で覚醒した時に私を殺せばよかったって言ったんだよ?


 ……パパがそんな事するはずないよ。

 あなたは誰?

 私の心なの?

 どうして普通に会話しているの? 


 ……皆嘘つきでしょ?

 おじいちゃんもパパも私の事が嫌いなんだよ。


 ……違う。

 二人とも私を大切に想っているよ。

 あ……

 胸が温かくなった……

 これが『心』……なのかな?

 

 違う。

 私には心なんてない。

 ……『心』って何?


 ……分からない。

 私には分からないよ……


 心がないから分からないんだよ。


 心がないから分からない……?


 そうだよ。

 私は化け物なんだから心なんてないんだよ。


 化け物……?


 ……はぁ。

 これからも健気でかわいい真葵を演じようね。

 パパだって優しい人を上手に演じているんだし私にもできるよ。


 パパを悪く言わないで。

 パパは本当に優しいんだよ。


 優しい?

 私には『普通の人間になれ』って言うくせに自分は他人の心を聞いたりしているよ?

 それって普通の人間なの?


 それは…… 


 でも……

 少しヒントをあげ過ぎたかな?

 真実に辿り着いたら面倒かも……


 やめて……

 パパを巻き込まないで……


 巻き込む?

 駿河の血を引く者でしょ?

 生まれた時点で巻き込まれているんじゃないの?


 ……生まれた時点で?

 それはそうかもしれないけど……

 これ以上パパを苦しめたくない……


 制御できなくなってきたな……


 ……?

 制御?

 あ……

 駿河の『殺す』の声が聞こえ始めた。

 あれ……?

 さっきまで話していた声が聞こえなくなった……?

 私……

 誰と話していたの?

 私の『心』?

 それとも真理ちゃんみたいにもうひとつの人格を作り出した?

 いや……

 違う。

 今の私の方が作り出された人格なのかも……


 ダメ……

 これ以上混乱したら、また暴走しそうになっちゃう……

 落ち着かないと……

 あの頃みたいにパパを傷つけたくない……


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