パパとの内緒話(1)
「真葵ちゃん……大丈夫だよ。少しずつ感情を取り戻そうね」
おじいちゃんの優しい声……
……あぁ。
普段は聞かないようにしているけど、今は精神が不安定だからかな?
おじいちゃんの心が聞こえてくる。
私には、瞳を見つめなくても心の声が頭に流れ込んでくる力があるんだ。
これを知っているのはパパだけなんだけどね。
おじいちゃんに抱きしめられている私の瞳を見たパパの表情が険しくなっていく。
また殺意が溢れちゃったかな?
抑えないと……
パパには教えてあげた方がいいよね?
じっとパパの瞳を見つめる。
ねぇ……
パパ……
おじいちゃんは嘘つきだよ。
こんな綺麗事ばかり並べて本当は私を『駿河』にしようとしているの。
人間は愚かだね。
パパ……
……人間なんて殺しちゃった方がいいと思わない?
おじいちゃんに色々話した事を後悔しているの?
でも、もう話しちゃったから仕方ないよね。
……?
胸が冷たくなった?
どうして?
何かが悲しかったとか?
あ……
パパの身体が震えている。
私は普通の人間だからパパの心を聞かないの。
ねぇパパ……
私、偉い?
パパ……
誰の事も信じたらダメだよ。
叔父さんがいつも言っているでしょ?
でもね……
パパじゃない狩野さんとおじさんは『おじいちゃんの事は信じていい』なんて言っていたの。
すっかり騙されているよね。
って言うより、あの二人も私を駿河『様』にしたいのかな?
だから『おじいちゃんを信じろ』なんて言ったのかな?
叔父さんはおじいちゃんがどんな人かをずっと見てきたから信じていないんだよ。
パパだっておじいちゃんの話の全てを信じてはいないんでしょ?
パパが静かに頷いた。
でもおじいちゃんに話したのは正解だったかもね。
色々情報を得られたでしょ?
普段はしっかり心を閉ざしているから、パパにはおじいちゃんの心の声が聞こえてこないんだよね?
私は普通の人間だから他人の心の声を聞いたりしないし……
叔父さんが言っていたの。
『こちら側の情報は渡さずに相手の情報を引き出せ』って。
おじいちゃんは私が持つ力を知らない。
だから油断して私に心を聞かれたの。
おじいちゃんは、私を『駿河』にする為にこれからも『優しいおじいちゃん』を演じるんだね。
私もパパもそんなの嘘だって分かっているのに……
こういうのを『滑稽』っていうんだっけ?
……あれ?
また胸が冷たくなった?
「真葵ちゃんへのご褒美は何のぬいぐるみがいいかな?」
おじいちゃんが話しかけてきたけど……
私を見張る為のぬいぐるみ……か。
そろそろいつもの『かわいい真葵』を演じようかな。
おじいちゃんは『完全体の駿河の私』にどう接したらいいか分からないみたいだし。
パパ……
約束通り普通の人間の振りをするね。
そうすれば、いつも通りのおじいちゃんに戻るよね。
「私には何がいいか分からないよ……」
「そうか……じゃあモモちゃんみたいなかわいい猫にしよう。遊び相手にもなってくれるぬいぐるみだからかわいい方がいいだろう」
「猫? ……うん」
「ははは。真葵ちゃんはすっかり落ち着いたね。そろそろ畳屋に戻ろうか」
「うん。今ならおでんの味が分かるかも! 早く帰ろう!」
「ははは。それは楽しみだね」
「パパも早く!」
手を差し出すと……
あ……
握られた感覚がある……
これが手を繋いだ感覚か。
それにしてもパパの手は冷たいね。




