真葵を守る為に(6)
今回は真葵の実の叔父である狩野が主役です。
「真葵ちゃん……どうして『早く殺せ』なんて……」
勇真さんの身体が小さく震えているのが分かる。
「後悔する事になるから」
「……真葵ちゃん?」
「人間を殺したくて堪らないの。それ以外は何もないの。あとは空っぽだから」
「……イヤホンをすれば変わるよ」
「気を遣わせちゃったね。でも大丈夫。ママに会いに行くよ」
「真葵ちゃん……葵様の心を聞く力は他とは違うんだ」
「うん。でも大丈夫。私の方が上だから」
「……上? 会った事がないのに?」
「見た事はあるよ」
「……え?」
「ママは小さくて色白でかわいかったよ」
「……いつ……会いに行ったの?」
「いつだったかな? もっとちゃんと施設を警備した方がいいよ。簡単に入れちゃったから。案外近くに住んでいたんだね」
真葵の綺麗な顔はずっと無表情のままだ……
何の感情もないのが伝わってくる。
でも……
瞳から滲み出る殺意……
……ゾクゾクする。
駿河の里の忍びが『駿河様』を崇拝する気持ちがよく分かる。
いつもの元気いっぱいな姿とは違う。
まるで生きていないような……
人形のような……
小田ちゃんに似たすらりとした長身。
葵に似た整った顔立ち。
あぁ……
見惚れてしまうほど美しい。
バンスクリップでハーフアップにされた、肩より少し長い癖のある黒髪……
いつもと同じ髪型、同じ服装なのに別人のようだ。
背中に寒気を感じるような恐ろしさを含んだ魅力……
これが『完全体の駿河』……?
「……真葵ちゃん。これからは普通に会いに行けばいい。いつでも会えるからね」
勇真さんがいつも以上に優しく話しているのが分かる。
真葵を刺激しないようにしているのか?
「別に会いたくはないよ。会って話したら何か変わるの?」
「……会いたいから会いに行ったんじゃないのかな? それとも見てみたかったの? 真葵ちゃんの母親を……」
「私には母親とか父親とか……そういうのに対しての感情はないよ。何も分からないから」
「……じゃあ……どうして会いに行ったの?」
「呼ばれたからだよ」
「……? 誰に?」
「駿河だよ」
「駿河……? いつも真葵ちゃんを守っている駿河かな?」
「違うよ。おじさんでもお兄ちゃんでもないよ」
「……じゃあ、葵様の施設にいる他の忍びの駿河かな?」
賢い真葵なら勇真さんが探りを入れている事に気づいたはずだ。
勇真さんを見つめる真葵の瞳が恐ろしいほど澄んでいる。
見る者を惹きつけて離さない瞳……
真葵は独りで駿河の殺意と戦っていたのか……
そんな事にも気づかずに俺は『普通の女の子に育ってくれた』と喜んで……
なんて愚かだったんだ……
「ひとつだけヒントをあげるよ」
「……? ヒント?」
「遥か昔……鎖国を迫られていた時の駿河は手足を折られても暴れ続けた」
「……そうだね。おじいちゃんも、そう聞いているよ」
「それには理由があったの」
「……真葵ちゃん……その話は誰から聞いたの? 一部の者しか知らない機密事項なんだよ?」
勇真さんの言う『機密事項』が、忍びの一部にしか知らされない秘密?
真葵は知っているのか?




