真葵を守る為に(4)
今回は真葵の本当の叔父である狩野が主役です。
「完全体の駿河になった真葵には『殺意』しかありませんでした。他の感情は全て無く……俺は一秒も離さずに抱きしめていました」
まだ四歳だったからなんとかなったんだ……
成長した今の真葵が暴走したらもう止められない……
「……そんな暮らしをどれくらい続けていたんだ?」
勇真さんが震える声で尋ねてきた。
「駿河が……今も真葵を見守っている駿河が、家から出てこない真葵と俺を心配してお弁当をドアノブに掛けてくれたんです。真葵が風邪を引いたと思っていたようで風邪薬も入っていました。真葵の喜びそうなおもちゃも……」
「駿河……短パンの駿河か……」
「はい……だから、なんとか飢え死にせずにすんで……その暮らしが二週間ほど続きました。今になって考えると……真葵は賢い……恐ろしいほどに……だから、俺に『普通の人間になれ』と毎日毎日言われる事が面倒だったんでしょう。それで『普通の人間』を演じるようになったんです」
「……演じるようになった? 真理ちゃんのようにもうひとつの人格を作り出したのではなく演じていたのか?」
勇真さんも鈴木真理を解離性同一性障害だと思っているんだな。
「覚醒前のように笑ったり怒ったり喜んだり……あの姿が全て嘘だったなんて……でも……そうするしかないように仕向けたのは俺です……」
「……たった一人で駿河様の殺意を止めていたなんて……よく頑張ったな。だがなぜ真葵ちゃんは何年も被り続けた仮面を外したんだ?」
「小田ちゃんです……」
「一真? 一真が何かしたのか?」
「『普通の人間にならなくていい』と言ったようです。その言葉に混乱したようでした」
「……混乱?」
「今なんとか人を殺さないでいられるのは、いつか俺とそれをする日を待ちわびているからです。その気持ちを……『普通の人間の振りをする』という俺との約束を小田ちゃんは……否定した」
実の父親の言葉に心が動いたのか……
やっぱり育ての親より実の父の方がいいのか……
真葵は自分には心がないと言うけど、それは違う。
心があるから動揺したんだ。
「……はぁ。困ったな。もし真葵ちゃんが暴走したら……俺達に止められると思うか?」
「……繋ぐ者と暗殺部隊を総動員しても無理でしょう。たぶん……勇真さんが知らないような駿河の力も持っていますから」
「……そうか。これは俺達だけの秘密にしよう。もし知られてしまえば、暴走しなくても殺されてしまう」
「小田ちゃんには真葵を混乱させるなと言うつもりです。これ以上真葵の感情を揺さぶらないで欲しい……今の真葵はヒビが入ったガラスです。あと少しでも刺激を与えたら……演じられた姿は砕け散り、人を殺したくて堪らない本当の姿が現れてしまう」
「どうやってこれからも普通の人間を演じさせるつもりだ?」
「まずは小田ちゃんから引き離さないと……」
小田ちゃんの存在は害にしかならない……




