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私……変だよ(4)

「パパ……また私の中の駿河を抑えつけるの? どうして私を見捨てないの?」


 見捨てちゃえばいいのに……


「その力は危険なんだ。もし暴走したら確実に真葵は殺されてしまう。真葵は大切な家族だからそんなのは嫌なんだ。分かるよね? パパがどれほど真葵を大切に想っているか」


 パパの想いが伝わってきてまた胸が温かくなった……

 この感覚……

 

 煩わしい……


 ……?

 煩わしい?

 これは私の感情なの?

 ……あり得ない。

 私には心なんてないんだから。


「……大丈夫だよ。しばらくは普通の人間の振りをするから」


 本当は今すぐ人間を皆殺しにしたいけど……

 どうしてだろう……

 もう少しだけこのままここで暮らしたい……

 どうしちゃったの?

 私……

 変だよ……


「しばらくは……?」


「変なの……」


「……え?」


「胸がね……冷たくなったり熱くなったりするの」


「……胸が?」


「泣こうとしないのに涙が出たりするの」


「……それは……心……?」


「私には心なんてないよ。あったとしても止まったまま動かないの」


「……止まっていた心が少しずつ動き始めたんだ……それで混乱しているんだね」


「……混乱?」


「もう大丈夫だよ。パパが守るから」


「……守る?」


「詳しい事情は話さずに『保護するから』と言って家を出よう。真葵が好きだったあの高級ホテルみたいな部屋に行こう」


「……あの部屋……本当は何とも思わなかったよ。普通の人間なら喜ぶと思って喜んだ振りをしただけ」


「今は落ち着かないとダメだ。真葵……分かるよね? 善悪の判断ができない状態の真葵が暴走したら……」


「……大丈夫だよ。約束だから。普通の人間の振りを続けるから大丈夫」


「真葵……このまま一緒に行こう……」


 パパの真っ直ぐ過ぎる瞳に今度は胸が冷たくなる。

 どうしてこんなに冷たくなったの?

 このまま二人で暮らしたら、四歳の頃より遥かに強くなった駿河の殺意と力でパパを殺してしまうかもしれないから?


 胸がモヤモヤする……

 自分の心が分からない……

 私はパパを喪いたくないの?

 でも…… 

 人間を殺したくて仕方ないんだ……

 パパとの『人間を殺さない』っていう約束をいつまで守り続けられるか分からない……


 これ以上一緒にいたらパパを殺してしまうかもしれない……

 あぁ……

 身体が凍りそうだ。

 このまま一緒には暮らせない……


「……おじいちゃんが駅前の焼き肉の予約をしたから独房には行かない。夕飯は焼き肉にするっておじいちゃんと約束したの。普通の人間は約束を守るんだよね?」


「真葵……」


「大丈夫だよ。私は落ち着いているから」


「……じゃあ……これからは、パパも勇真さんの家で暮らさせてもらうよ」


「パパも?」


「狩野としての役目はほぼないからね。勇真さんと小田ちゃんに、パパが葵の双子の弟だと話すよ」


「……いいの?」


「真葵の近くにいられるなら構わないよ。あの二人なら誰にも話さないだろうしね」


「真理ちゃんのお兄さんを保護している施設長がしてきた事を知られちゃうんじゃないの? そうなれば施設長は消されちゃうんじゃ……おばあちゃんは施設に隠されているんだよね?」


「……やっぱり真葵は優しいね」


「……え?」


「真葵には心があるんだよ。優しい優しい心がね」


「……私には心なんてないよ」


「……そう思い込んでいるだけだよ。大丈夫。施設長は処罰されないから」


「どうして?」


「葵とパパの母親は覚醒しているからだよ」


「……おばあちゃんは覚醒者だったの?」


「賢い真葵ならもう気づいているよね」


「……男が覚醒する時は苦しいけど、女は違う……かな?」


 私が覚醒した時も心地良かったし……

 考えてみれば、あれが最後に感じた『感覚』だったのかな?

 覚醒後は人を殺したくてかなり暴れたけど、苦しくはなかった。


「そうだよ。それから覚醒には二段階あるんだ。心を聞く力がある者は一段階目の状態で、そこから駿河の声を聞いても殺人をしなければ完全な覚醒者になる。人によって、心を聞く力がある者を覚醒者と呼んだり、駿河の『殺せ』の声に負けなかった者だけを覚醒者と呼んだりするんだ」


「覚醒者かどうかを決めるのは施設の長……」


「そうだよ。だから施設長は罰を受けないんだ」


「ママが産まれていたのを知っていたのに報告しなかったのは罪にならないの?」


「葵が産まれた時に覚醒していなければ保護する必要はないからね。そう言えば問題ないよ」


「……おじさんが『真理ちゃんのお兄さんを保護している施設長は信頼できる』って言っていたけど……あれはどうして?」


「真っ直ぐな人なんだ。困っている人を助けずにはいられないような……ね」


「……ふぅん」


 高級ホテルみたいな部屋でも同じ事を言っていたっけ。

 だから、施設長に育てられたパパも真っ直ぐなんだね。


「真葵……」


「……うん?」


「大丈夫だよ。これからは、ずっとずっとパパが一緒にいるからね」


 ずっとパパに抱きしめられているから身体が温かい。

 さっきまで凍りそうなくらい冷たかった胸が熱くなってきた。


 これからは、毎日一緒に()()()()んだね。


 ……?

 一緒に()()()()

 優しくて純粋な真葵を演じてきたから変な癖がついたのかな?


 それとも……

 本当に私の心が動き始めた……とか?


 

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