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私……変だよ(2)

「真葵ちゃん? ……大丈夫?」


 おじいちゃんが畳屋に行くと、狩野さんが話しかけてきた。


「……大丈夫だよ。狩野さん……私の為に団体を消してくれたんだよね。ありがとう」


「……真葵ちゃん。少しバーで話そうか」


「……うん。おじさん、お兄ちゃん。少し出てくるね」


 これでやっと『約束』の話ができる。

 早く話して楽になりたい……

 人間がいなくなれば……

 そうなれば、この胸の熱さや冷たさから解放されるよね?


 ……?

 私は何を焦っているの?


 焦る……?


 何の感情もないんだから焦るなんてあり得ない……

 どうしちゃったの?


 不安……?


 これが?

 何に対する不安?

 私が私じゃなくなるような不安?

 今まで感じた事がない感覚への不安?


 ……落ち着いて。

 大丈夫……

 落ち着こう。

 

 誰とも目が合わないように下を向いている私の視界の端に狩野さんが見える。

 表情までは分からないけど心配しているのは伝わってくる。


 ()()……か。


 パパ……

『こう見えたら心配している』っていう例をいくつも教えてくれたよね……

 その中のひとつに当てはまるから今のパパは私を()()している。


 他人の感情は分かるのに自分の感情は分からないなんて……

 おかしな話だ……


「狩野さんと真葵二人で? でも……おっさん……いいのか?」


 お兄ちゃんが心配そうにおじさんに話しかけている。


「狩野さんなら大丈夫だよ。ぴよたん、行っておいで。でも一応畳屋の前で不審者が出入りしないかは見ておくよ」


 やっぱり、おじさんは()()()()が誰か知っているんだね。

 私が狩野さんと話がしたいって分かっているから協力してくれるの?


「ありがとう……」


 こうして狩野さんとバーに向かう。

 外のひんやりした風に、後ろで結んでいる狩野さんの長い髪が揺れている。

 バーの扉を開けるといつものカランコロンの音が鳴る。

 

「真葵……大丈夫? パパだよ。分かる?」


「パパ! 会いたかった……ずっと違う人が狩野さんだったから」


 パパに抱きつくと……

 温かい……

 ……?

 胸も熱くなってきた……?


「ごめんね。やっと団体を消し終わって……これで非公認の奴らが真葵に手出しする事はなくなったよ」


「ニュースで政治家が何人か病死したって言っていたけど……」


「非公認の団体を操っていた政治家だよ。それより……元気がないね……」


「叔父さん達が……私が完全体の駿河だって知っていたみたいなの」


「……え? 小田ちゃん達? 『達』って……誰?」


「……叔父さんと駿河の里のおじさんと真理ちゃんを守るおじさんだよ。ずっと前から知っていたらしいの」


「ずっと前から? それを知っているのに真葵は保護されなかったの?」


「他にも……心を聞く力がある人には分かるみたい」


「……どういう事?」


「……うん。心を聞く力がないお兄ちゃんには分からないらしいんだけど……忍びの半分以上にその力があるみたいで……」


「……駿河の里の忍び……確かにそうだね。心を聞ける人が多くいたよ」


「力がある人が私の瞳を見ると完全体の駿河だって分かるみたいなの」


「瞳を? ……ゾクゾクするあの感じの事かな? でも……訓練して隠せるようになったはずなのに……」


「……おじいちゃんも知っていたんじゃないかな?」


「勇真さんが? パパ以外は気づいていないと思っていたのに……でも小田ちゃんが気づいていたのに、勇真さんが気づかないはずがないよね……」


「今日……真理ちゃんのおじいさんとおばあさんが……」


「……偽者だから捕らえられたんだね」


 パパは知っていたの?


「……偽者の母親まで現れたの」


「偽者の母親? ……はぁ。よほど鈴木真理が欲しかったんだね。でも大丈夫だよ。悪い団体は消したからね。詳しい事は聞いていないからまだ分からないけど、所属していたのが非公認じゃなくて正規の施設だったとしても勇真さんがなんとかしてくれるから大丈夫だよ」


 パパはおじいちゃんを信頼しているんだね。

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