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普通の人間と嘘(4)

「……真葵……これからは俺が真葵に色々教えてやる。寒いと暑いだけじゃなくて……この世にある全ての感覚や心のぬくもりを教えたい……俺は父親だ。父親として……俺ができる事は全てやるつもりだ」


 叔父さんの言葉に、また胸が熱くなった。

 これは疲労?

 それとも……

 パパが教えてくれた『感情』?

 これは……

 悲しい? 

 嬉しい?

 寂しい?

 辛い?


 涙がこぼれるのは悲しい感情だって言っていたよね。

 じゃあこれが『悲しい』?


「私……悲しいの? 涙が止まらないの」


「……え? 悲しい? ……嬉しくて涙が止まらない時もあるんだ」


「……嬉しい?」


「……そうか。感情が分からないのか……」


「……分からないよ。何も分からない……」


「ずっと笑ったり怒ったりしてたから気づかなかった」


「……普通の人間はそうやって生きているってパパが教えてくれたの」


「普通の人間……『普通』……か」


「皆と同じにしないと怖い人に殺されちゃうからって……」


「これからは同じにしなくて大丈夫だ。真葵は真葵らしく生きればいい」


「私らしく?」


「皆同じに見えても違うんだ。人それぞれ考え方が違うから『普通』なんて誰にも決められない」


「……? よく分からないよ」


「ゆっくり知ればいい。俺と葵で教えていく」


「叔父さんとママで?」


「大丈夫だ。もう泣かなくていい。真葵……俺は世間一般で言う『普通』なんてものをお前に押しつけない。本当の真葵が今と違ってもいいんだ」


「……叔父さん」


 叔父さんの胸に顔を押しつける……


 そんなの嘘だよ……

 本当の私には心がない……

 害虫を殺すみたいに人間を扱う化け物なんだ。

 叔父さんはそれを知らないからそんな事が言えるんだ。

 私の中の駿河を抑えさえつける為にパパがどれほど苦労したか……

 

 今すぐここにいる全員を殺しても構わない。

 でもパパとの約束を守らないといけないから……

 約束は守る為にあるってパパが教えてくれたから……

 今はまだ人間を殺したらダメ……


 ……本当にそうなの?

 本当にそうなのかな?


 本当はずっとこのままでいたいんじゃないの?

 叔父さんがいておじいちゃんがいて真理ちゃんと繋ぐ者のおじさん、駿河の里のおじさんとお兄ちゃんがいるこの家に……


 ずっとここにいたいんじゃないの?


 心がないって勝手に決めつけているんじゃないの?

 本当は心があってずっとこのまま……

 ずっとここで暮らしたいんじゃないの?


 ……違う。

 違うね……

 はぁ……

 やっぱり私は普通の人間になんてなれそうにない。

 ここにいる全員を今すぐ殺しても、私の空っぽの心は動かない……

 ずっとずっと止まったままだ。

 

 これからも今まで通りお人好しのかわいい真葵を演じよう。

 一から感情を教えられるのは面倒だから……

 私より劣る人間に偉そうにされるのは一度で充分だ。


 あぁ……

 煩わしい……

 

 早く全てが終わればいいのに。

 でも……

 そうだよ。

 私はパパとの約束を守ったよね?

 じゃあ、もうご褒美をもらってもいいんじゃないかな?


 パパに会いに行かなくちゃ。

 どこに行けば会えるかな?

 今は非公認の団体を消しているから忙しいって言っていたし……

 もうしばらく待たないといけないか。

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