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普通の人間と嘘(3)

 殺意が弱まった私は感情をなくす練習を始めた。

 パパが付きっきりで一秒も離れずに心を無にする方法を教えてくれた。

 今思えば……

 駿河の声が聞こえるまではよく笑う子だった。

 じゃあ、あの頃の私には心があったんだ。

 ……今はどうなんだろう?

 もう、私の中には心なんてないのかな?

 それとも駿河を抑える為に止まっているだけ?


 ……考えるのも面倒だ。


 純粋な真葵の振りをしながら成長する私と共に、駿河の殺意と力も強まっていった。

 もう少ししたら抑えるのが大変になるかな?

 そうなる前に……

 人間を殺さないって約束を守れるうちに……

 パパ……

 協力してくれるよね?

 その為に良い子にしてきたんだから。


 世界中の人間を殺したら……

 パパを殺して……

 私が死んだら……

 全て終わり……


 ……人間を殺す為に人間を殺すのを我慢しているなんて変かな?

 パパが『普通の人間は約束を守るものだ』って口うるさく言うから……

 約束を守って一人も殺さずにここまで生きてきたんだよ。

 

 でもその前に後始末が残っているね。

 人間が作り出した愚かで恐ろしい物を無害化させるんだ。

 残された生き物が穏やかに過ごせるように。

 何年かかるかな……

 一秒でも早く人間に消えて欲しいのに。

 でもそれを待っていたら何十年もかかるか……

 後始末をさせる人間を数人残せば問題ないかな。


「真葵……大丈夫か? 辛いか?」


 叔父さんが髪を撫でている……?

 撫でられている感覚はないけど……

 これは手の温かさ……


 ……厄介だな。

 温度を感じなければよかったのに……

 そうすれば……

 胸が温かくなるこんな妙な感覚にはならなかった。

 

 完全体の駿河に感情はないんだよね?

 私に心なんてないんだよ……


 じゃあ……

 この感覚は何?


 パパがいつも話していた『普通の人間』……

 嬉しいとワクワクして悲しいと涙が出る……だっけ?


 今の私のこの状態……


 もしかして私にはまだ心があるの……?

 それとも偽の感情を演じている間に心が育った?


 はぁ……

 ……どうでもいい。

 やっぱり何も感じない。

 虚しささえも分からない。

 

 閉じていた瞳を開いたら涙をこぼそう。

 何の感情もない涙……

 純粋な人間を演じる為の涙を……


「真葵……泣かなくていい。必ず俺が守り抜く」


「……守り抜く?」

 

 こんなに弱いのに?

 その辺にいる虫と同じ叔父さんが……

 この私を『守り抜く』?


「だから……安心して暮らすんだ」


 瞳を開くと涙がこぼれて止まらない……?

 ……?

 まだ泣く用意をしていなかったのにどうして?


「……私……どうしたの……?」


「真葵? 大丈夫か?」

 

「あ……うん……」


 ……?

 胸が……熱い。

 これは……何?


「真葵?」


 叔父さんが心配そうに私を覗き込んでいる。

 でも……

 本当に心配しているのかな?

 心を聞こうとしているのかも。


「……ううん。大丈夫……」


「……そうか? 疲れただろ。少し休め」


「……疲れた?」


 この涙が『疲労』?

 疲れた事がないから分からないよ……


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