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普通の人間と嘘(2)

『人間を殺さずに仲良くできたら。普通の人間の振りを続けられたらどんなご褒美でもくれる』っていうパパとの約束……


 全く違う人格を作り出して暮らしているから皆、私の事をお人好しの優しい女の子だと思い込んでいる。

 完全体の駿河だという事を必死に隠して、家族や周囲を守ろうとする健気な子……

 それをさりげなく心の声として聞かせていた。


 皆、簡単に騙されるんだ。


 真理ちゃんの祖父母が偽者だとバレないように心を隠していたなんて言っていたけど……

 初めて会った時から偽者だという事は分かっていた。

 私は()()()()()だから()()()()の心を聞いたりしない。

 パパと約束したのは『人間の心を聞かない』だった。

 だから猫のモモちゃんの心を聞くのは問題ない。


 あの二人が見張っていたのは真理ちゃんじゃない。


 私だ。


 探偵の私に関われるようにモモちゃんを飼い近づいてきた。

 家にある監視カメラもモモちゃんを捜す依頼を受けに来た私を撮影する為に仕掛けられた物……

 

 簡単な奴らだったな……

 もう消された頃か……


 ……パパ。

 人間を殺さずに暮らしている私にご褒美をくれる約束……

 守ってくれるよね?

 私が望むご褒美をくれるんだよね?


 百七十年前の駿河も望んでいたはずの事。

 私には分かる。

 だって私は完全体の駿河だから……


 

 私の望みはただひとつ。




 人間がいない世界___




 人間が世界を汚し、人間が世界を破壊している。

 世界は美しいはずだった……

 人間さえいなければ……

 別にこの世界が美しかろうが汚かろうがそんなのはどうだっていい。

 でも……

 人間に対しての嫌悪感……

 他の感情はないのにそれだけはあるんだ。


 人間が生きている気配……

 呼吸の音……

 たったそれだけの事なのに気分が悪くなる。

 何の感情もないはずなのに……

『人間の存在』だけが大嫌いなんだ。


 パパが教えてくれた駿河の殺意の抑え方……

 感情をなくして無になる事でその殺意を抑える。

 

 私はそうやって生きるうちに感情をなくしたのかな?

 それとも元々感情がなかったの?


 考えても分からないや。


 私が初めて駿河の殺意を感じた時の記憶……

 真夜中に目が覚めると電気が消えていて……

 自分の手を見ようとしても真っ暗で何も見えない。

 本当に自分に身体があるのかも分からなくて……

 でも不思議と怖くなかった。

 

 すごく落ち着く。

 何の音も聞こえないし……

 心地良い温かさに包まれている……


 しばらくすると声が聞こえてきた。


『……す……殺す……殺す……』


 男性の低い声……

 頭の中でその声が響き続けた。

『殺す』の意味が分からないから怖くもなんともなかった。


 パパの話によるとこれは私が四歳の時だった。

 朝、目を覚ますと今までとは瞳が違うように感じたと言っていたかな。

 それからの私は視界に入る人間を殺したくて仕方なくて……

 パパはすぐに私が覚醒したと分かったらしい。

 あまりに殺したがるから覚醒に失敗したと思ったパパは、私が暗殺部隊に殺されないように必死に殺意を抑えようとした。

 日に日に強まる殺意……

 瞳から溢れる妙な気配……

 パパは気づいたんだ。



『完全体の駿河』



 それからは毎日パパに言われ続けた。


「普通の人間として生きるんだ。普通の人間は人殺しなんてしない」


 でも私は人間を殺したくて仕方なかった。

 それはパパに対してもだった……


 何度も殺そうとした。

 何度も何度も殺そうとしたけど……

 まだ幼かった私には無理だった。

 パパはすごく強かったから……


 そうやって力で押さえつけられるうちに私の殺意は弱まっていった。

 ていうより、面倒になったんだ。

 私の為に傷だらけになりながら『普通になれ普通になれ』って言うパパの相手をするのが嫌になった。

 何の感情もないはずなのに……

 とにかく煩わしかったのを覚えている。

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