駿河への執着? ~後編~
「少なくとも俺と弟には心を聞く力はない。父ちゃんと母ちゃんにもないはずだ。だとしたらさっき真理の偽母ちゃんが言ってたみたいに、心を聞く力は遺伝なのかもしれない」
お兄ちゃんがおじさんに話しかけているけど……
忍びの中に駿河の末裔がいたの?
「……やっぱり遺伝なのかな。だとしたら駿河の里にいる忍びの半分以上が心を聞く力を持っているはずだよ。ほとんどが里の忍び同士で結婚するからね」
おじさんの話が本当なら心を聞く力がないお兄ちゃんは珍しい存在なのかな?
「……心を聞く力を持ってる人同士で結婚したらいつか駿河様の完全体が産まれるかもしれないから、忍び同士で結婚してる……とか?」
「……里の外で産まれた覚醒者を保護するのは、里とは違う駿河様の末裔の血が欲しいから……? 里だけの血だと駿河様は産まれなかった。だから、いろんな場所で暮らす末裔同士に子を授からせて確率を上げようとしている……とか?」
「……そこまでして完全体の駿河様を誕生させて何をさせるつもりなんだ? 俺には意味が分からない……」
「それは一部の人しか知らない秘密なんだろうね。里の人のほとんどが分かっていないんじゃないかな? 幼い頃から『駿河様駿河様』って崇拝するような環境で育ったからそれが当たり前になっているんだよ。でも里から出ると崇拝しなくなるのはどうしてなんだろう?」
「環境? 何も分からないのに崇拝して……そのせいで真葵も真理もこんな風にしか暮らせなくなったのか……」
お兄ちゃんは優しいね。
私と真理ちゃんを気遣ってくれるんだ……
「一部の偉い人は何か知っているみたいだけど……」
「真理を守ってる繋ぐ者は何か知らないか?」
お兄ちゃんが尋ねたけど、教えてくれるのかな?
「そうだね……確かに駿河様を崇拝する風潮があるのは事実だね。でも……俺は駿河様が復活するだなんて信じてはいなかったよ」
「そうなのか?」
「気味が悪くなるほど崇拝するような人達がいるのは事実……かな? でも里にいる全員がそうではないんだ」
「何か知ってるのか?」
「酷く執着していたのは一部の人だけだった。たぶん他人の心を聞く力がある人……かな? 里にいた時『駿河様を復活させて何かを終わりにしたい』みたいに感じた事があったけど……うーん。それが何かって訊かれたら分からないね」
「何かを終わりにしたい?」
お兄ちゃんが真剣に考えている。
もしかして……
駿河の里を終わりにしたい……とか?
でも……
そうだとしたら完全体の駿河を復活させる意味はなんだろう?
駿河の里を終わりにしたいなら駿河の子孫を全員消せば済む話だよね。
施設に保護されている覚醒した駿河の子孫は贅沢な暮らしをしている……
でも里にいる子孫は忍びとして施設にいる覚醒者を守っている。
私の事を完全体の駿河だと知っている、心を聞く力がある人達はどれくらいいるんだろう?
それに、暗殺部隊を率いる繋ぐ者の狩野さんとおじいちゃんは私を施設に閉じ込めようとはしなかった。
もう一人の暗殺部隊を率いる繋ぐ者は私が完全体の駿河だって知っているのかな?
他の繋ぐ者は?
忍び達は?
どうして私を閉じ込めないの?
閉じ込められる人とそうじゃない人の違いは何?
「……真葵。大丈夫か?」
叔父さんが心配そうに私を見つめている。
「……うん。大丈夫」
「難しく考えるな。狩野は四十代くらいだろうから里の偉い奴らだけが知る『何か』を知らされてないのかもしれない」
「……え?」
「だが親父は年齢的にも地位的にも知ってるはずだ」
「……うん」
「それでも真葵を施設に閉じ込めなかった。それは真葵が閉じ込められる必要がないからなんだろう」
閉じ込める必要がない……?




