駿河への執着? ~前編~
「私にも分からないの。育ててくれたパパが私は完全体の駿河だからそれを気づかれないようにするんだよって言ったの。力を使わないようにするやり方とか痛みがどういうものかとかも教えてくれたよ」
パパは、かなり苦労したはずだよ……
「痛みがどういうものか? なんだ、それ? まさか殴られたりしたのか!?」
お兄ちゃんが少し怒ったように尋ねてきたけど……
「違うよ。私は痛みを感じないの。疲れたとかも分からないし。だからそう見えるやり方を教えてくれたんだよ。あ、寒いとか暑いとか冷たいとか熱いとかは分かるよ」
「……駿河様は手足を折られても動き続けたんだよな? 真葵は完全体の駿河様だから痛みを感じないのか? でも……おっさんの父親も手足を折られても動き続けたんだよな? あ……ごめん。おっさん……嫌な気持ちになったよな」
「大丈夫だよ。事実だしね。それに皆が持っている情報を出し合った方がいいと思うんだ」
おじさんが優しく微笑みながらお兄ちゃんに話しかけた。
「うーん……」
「……? どうかした?」
「……俺はおっさんより長く里にいただろ?」
「そうだね。二年前まで里で暮らしていたよね。俺は二十年近く帰っていないかな」
「里には未成年と仕事を辞めた高齢者がほとんどで、あとは泊まりで施設とかに働きに出てるだろ? 俺……見てて思ったんだけど」
「うん?」
「高齢者は駿河様を崇拝してる。でも若い世代はそうでもない……」
「それは俺も思っていたよ。だから里を出ている若い世代だけで繋がって、それぞれの情報を共有しているんだ」
「……でもさ」
「ん? どうかした?」
「いや……さっきのおっさんの話を聞いて思ったんだけど」
「うん?」
「俺には心を聞く力はない。でも、里の若い世代の奴から目をしっかり見つめられる事があったんだ」
「それって……心を聞いていたのかな?」
「今思えばそうなのかも……俺がしようとしてる攻撃を先読みされたり、話す前から今の施設にスカウトされた事を知ってたり」
「うーん……確かに心を聞かれていたのかもね」
「初めからある施設で働く事を知られてからは、同世代の奴らから嫌がらせされる事もあって……その時、陰で『何の力もない奴が』とか『駿河様の価値を分からないくせに』とか言ってるのを聞いたんだ」
「駿河様の価値?」
「たぶん……若い世代の奴も駿河様に執着してるんだ。都会で暮らし始めてずる賢くなったから上手く隠してるんじゃないかな。それと……心が聞こえない人は真葵を見ても駿河様の完全体だって分からないし、駿河様に執着もしてないんだと思う。俺がそうだし……」
「心を聞く力がある人だけが駿河様に執着している……?」
「それと……里にいる人の方が執着が強いみたいに感じたかな。葵様の施設にいる俺以外の忍びは心を聞けるんじゃないか? でも……皆、葵様を大切に想ってるけど執着とは違う気がするんだ」
「確かに……それは俺も思っていたよ。里にいた頃、駿河様にかなり執着していた人がいてね。でも数年前偶然里の外で会った時、別人のようになっていたんだ。憑き物が落ちたみたいに執着心が消えていた。うーん……どういう事なんだろう」
おじさんが考え込んでいるけど……
心を聞く力がない人は駿河に執着していない?
執着している人が里から出ると執着しなくなる?
でも今のお兄ちゃんの話だと、里から出て働いていた忍びが高齢になって里に戻るとまた執着するようになるっていう事だよね?
分からない事ばかりだ……




