『優しい施設長』じゃなかったの?
お兄ちゃんが深刻な表情で走ってきている。
「お兄ちゃん……どうしたのかな?」
「……あぁ」
お兄ちゃんを見つめるおじさんの声が震えている?
「おじさん? 大丈夫?」
「……ぴよたん。家に入ろうか」
「……え?」
「巻き込まれたら大変だ」
「巻き込まれる? 何に?」
「はぁ……はぁ……真葵……無事か?」
目の前まで走ってきたけど……
息を切らしながら私の心配をしている?
「私は平気だけど……まさかママに何かあったの!?」
「……え? どうして知ってるんだ?」
「何があったの!? 赤ちゃんは!?」
「赤ちゃん? いや、大丈夫だ。葵様は一真さんと避難したからな」
「……避難? どういう事?」
「……施設長が……葵様の赤ちゃんを無理矢理覚醒させる準備をしてたんだ」
「無理矢理覚醒?」
「ぴよたん……とりあえず中に入ろうね。外で話して誰かに聞かれたら……ね?」
おじさんの言う通りだ……
「うん。お兄ちゃん……何か冷たい飲み物を……タオルも……」
「いや、大丈夫だ。中で話そう」
「……真理ちゃんを見守っている繋ぐ者のおじさんに聞かれても平気? 真理ちゃんはお昼寝しているけどおじさんは居間にいるはずだよ」
「すぐに耳に入るだろうから大丈夫だ」
三人で居間に行くと、やっぱり真理ちゃんのおじさんがこたつにいる。
お兄ちゃんの様子を見て、何かあった事に気づいたみたいだ。
おじさんの膝で、モモちゃんが気持ち良さそうに喉をゴロゴロ鳴らしている。
皆で座布団に座るとお兄ちゃんが話し始める。
「施設長……優しい人だと思ってたのに……」
「お兄ちゃん? 施設長は何をしようとしていたの?」
「赤ちゃんの物心がついたら……葵様と一真さんと真葵を……」
「ママと叔父さんと私を……?」
「赤ちゃんの目の前で……殺して……覚醒させようとしてたんだ」
「……え?」
目の前で殺す……?
「だから……施設で家族仲良く暮らさせようとしたんだ。その方が喪った時の衝撃が激しくなるから……」
「……どうしてそれが分かったの?」
「一真さんに……弱い毒を飲ませようとしたらしい」
「……弱い毒? まさか……飲んだの!?」
「いや、今朝葵様に会いに来た時の事だ。真葵を心配して慌てて帰ったから飲まなかったらしい」
「今朝……?」
「葵様が施設長の心を聞いて阻止した。でも『毒を飲まされそうだ』なんて言ったら一真さんが暴れるのは分かりきってるから『真葵が心配だから今すぐ帰れ』って言ったらしい」
「それで叔父さんとママはどこに!?」
「大丈夫だ。真理の兄がいる施設に一時的に保護された。勇真さんが手配した車で……」
「……真理ちゃんのお兄さんがいる施設に? でもおじいちゃんが手配した車って?」
「……俺にもよく分からない。でも……ほら、狩野さんの軍服姿を覚えてるか?」
「あ……うん。マントと軍服……繋ぐ者として活動する時の服だよね」
「狩野さんは黒だったけど……勇真さんが……あれと同じ軍服の紺を着てたんだ」
おじいちゃんが繋ぐ者の軍服を着ていた?
どういう事?




