やっぱり皆で一緒には暮らせないのかな?
「……え?」
赤ちゃんはママと施設で暮らして、私は外で暮らす?
「真葵は自由に生きるんだ」
叔父さんが真剣に話しているけど……
「赤ちゃんは……施設の中でしか……暮らせないの?」
「……俺だって外の世界を知って欲しい。だが……」
「私も……何度も拐われそうになったんだよね?」
「……そうだ。だがそれは十一歳になってからだった。それまでは真葵がパパと呼ぶ駿河が完璧に守っていた」
「……完璧に?」
「俺でさえ気づかなかったほど……完璧に」
「……うん」
「だが……これから産まれてくる子は違う。葵が妊娠した事を多くの者が知る状況での出産だ。……赤ん坊を安全に育てるのは難しいだろう。幼稚園か保育園、義務教育……病気になれば病院にも行く。いつ拐われてもおかしくない」
「……ずっと外の世界を知らずに育つの?」
「……それが一番幸せな暮らし方だ。一度でも外に出てしまえば閉じ込められている事に気づいてしまう」
「……だから叔父さんは辛そうな表情をしていたんだね」
「……授かるべきでは……」
「やめて!」
「真葵……」
「それ以上言ったら赦さないから! 赤ちゃんは皆から祝福されて産まれないといけないの! それに叔父さんは父親なんだよ……それ以上言ったらダメ……」
「……それは」
「赤ちゃんの未来を……幸せに暮らせる方法を皆で考えよう?」
「真葵……」
「だから……今は赤ちゃんが産まれてくる事を喜ぼうよ」
「……そう……だな……」
「私はちょっと狩野さんの所に行ってくるよ」
「狩野? 何か用なのか?」
「狩野さんが近くにいれば、叔父さんは安心してママに会いに行けるでしょ?」
「……そうか。狩野のバーは畳屋の目の前だからな。駿河と行ってこい」
え?
おじさんがいたら話ができないよ……
「あ……うん。そうだね」
「まだ寝てると思うが」
「それもそうだね。バーの仕事をしているからまだ寝ているよね。やっぱりやめておこうかな」
「……じゃあ俺は葵に会ってくる」
「うん。気をつけてね。あ、タッパーにおでんを入れないと。ちょっと待ってて」
キッチンに行くとため息をつく。
はぁ……
困ったな。
パパに相談したかったんだけど……
このままママと暮らせたら嬉しい……
でも施設で検査されて私が駿河の完全体だってバレたら困るし……
私一人で勝手に決めていいのかな?
やっぱりパパに相談してから決めた方がいいかも……
居間に戻ると叔父さんにタッパーを渡す。
「叔父さんの分も入っているからね」
「ああ。真葵……一旦葵に会いに行くが……俺は帰ってくるからな」
「……そのままママのそばにいても大丈夫だよ?」
「……真葵を独りにはしない。絶対に……だから待ってろ」
叔父さんの優しさに心が痛む。
心から私を想っている気持ちが伝わってくる……
「……うん」
こうして叔父さんはママが保護されている施設に向かった。
うーん……
施設は近所にあるのかな?
「ぴよたん? 大丈夫?」
おじさんが心配そうに話しかけてきた。
「うん。大丈夫。おじさんはママが妊娠した事を知っていたの?」
「今聞くまで知らなかったよ。葵様が妊娠したなんて……ぴよたんは、お姉さんになるんだね」
「……うん。ママの体調はどう?」
「普段と変わらないかな……ねぇ、ぴよたん?」
「……うん?」
「……絶対に施設に行ったらダメだよ?」
「……え?」
「施設は安全だし快適だよ? でも……行ったらダメだ」
「……おじさん?」
「その理由はぴよたんが一番よく分かっているはずだよ」
「……え?」
「狩野さんに会いに行っておいで。気晴らしも必要だよ。外の空気を吸ってくるといい」
「おじさん?」
繋ぐ者のおじさんがいるのに『施設に行っちゃダメ』なんて言っても大丈夫なのかな?
「大丈夫。離れた場所から見守っているから」
「……でも」
「大丈夫だよ」
「……うん」
もしかして、おじさんは私の事を全部分かっているの?
そんなはずないよね?