↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
25/25

エピローグ 真冬の正午、宰相執務室より


 ランチを終えたギルバート=ウォルトンは、午後の予定の確認のために上司であるブルーノ=マスグレイヴの執務室を訪れた。


 だがノックをしても返答がない。念のためもう一度同じ動作を繰り返すが、やはり反応はなし。


 不思議に思いながらドアノブを下げると鍵はかかっていなかったので、そーっと扉を開けてみる。


 足を踏み入れる前に声をかけようと思っていたが、直前でそれを呑み込んだ。代わりに自然と出てきたのは、


「おや、珍しい」


 という独り言と、この光景を微笑ましいと思う穏やかな気持ちだった。


 素早く室内に身体を滑り込ませて、そっと扉を閉める。暖炉に薪がくべられた執務室内は真冬の廊下と違って暖かく、だからこの部屋の主であるブルーノと、先日正式に彼の恋人となったイリス=クロムウェル伯爵令嬢がソファに並んで座ったまま居眠りしていることにも、納得してしまう。お腹が満たされると勝手に眠くなってしまうのは、自然の摂理だ。


「……。どういう状況でこうなったんだろうか……」


 ソファの背もたれに身体を預けてイリスの方へ首を傾けて居眠りするブルーノと、そのブルーノの胸に寄りかかるようにして同じく座ったまま眠るイリスを見ていると、どんな流れでこの体勢に落ち着いたのかと不思議に思う。


 並んで座って仲良くお話しているところでブルーノが居眠りをしてしまい、そのブルーノに自ら寄りかかって眠ったのなら、イリスはなかなか大胆だ。だが慎ましく恥ずかしがり屋なイリスが、そんな思い切った行動を取るとは思えない。


 逆に、先に眠ったイリスの身体を抱き寄せて後からブルーノも眠ったのなら、ブルーノは相当はれんちだ。とはいえ彼にもそんな度胸と下心があるように思えない。


「まあ、〝あの〟ブルーノさまですもんね……」


 こんなにも整った外見を生まれ持ちながら、ブルーノはこれまで女性と付き合った経験がないらしい。周囲から堅物宰相と呼ばれているのも納得で、愛想は悪いし、機嫌は悪いし、女性の扱いなんて最悪に近い。


 幸いにもイリスが穏やかな性格であったことと、彼女にも事情があったことで事なきを得た。だが結婚適齢期の令嬢に、半年間も偽りの恋人役をしてくれと頼むなんて、普通なら頬を引っ叩かれても文句は言えない提案だ。結婚するつもりもないくせに、悪行もいいところである。


 そんな女性経験が浅く乙女心に疎いブルーノに、ついに初めての恋人ができた。聞くところによるとイリスにも恋人ができるのは初めてとのことで、現在二人は甘酸っぱくて初々しい恋愛を初体験中である。そんな二人を一番近くで見守っているギルバートの方が、勝手にドキドキしてしまう毎日だ。


「たまーに色っぽい空気は出てるんですけどね……」


 偽りの恋人から正式な恋人になったからといって、急に関係が進展するような二人ではない。政敵相手には一切物怖じないのにイリスへの接し方には慎重すぎるほど慎重なブルーノと、初めての恋愛に動揺するあまり、普段はお手本のように綴られる綺麗な文字があっさりと乱れてしまうイリスだ。


 今だって、ただ寄り添って眠っているだけ。これで手の一つでも繋いでいたらギルバートだってドキドキしちゃうところなのに、これでは仲良しの子猫の午睡と大差ない。


 やはりこの二人は、そう簡単に深い仲には到達しそうにない。まあ、そこがいいのかもしれないけれど。


 居眠りをする二人を改めて眺めていると、あまりの微笑ましさから勝手に笑顔になってしまう。どちらが先に眠ってどちらが寄り添ったのかなんて、すぐにどうだってよくなるほどに。


「これのどこが『堅物宰相』と『愛人令嬢』なのか、誰かのご意見を伺ってみたいところですね」


 窓に張りついた雪の結晶が水滴に変わるように、ギルバートの小さな呟きも静かに溶けて消えていった。



<*… 第一部/FIN …*>




* 完結までお読みいただきありがとうございました!

* よければ感想、評価、ブックマーク登録をいただけますと嬉しく思います。

* 投稿時期は未定ですが、いずれ第二部以降も執筆したいと思っています!^^


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。