八十八話
俺は人殺しはしない。
でも悪人を更正はさせない。
だって別に正義の味方じゃないから。
それに面倒臭いし。
だから『悪人だ』と思った人間は漏れなく異世界の森の中に入れて来た。
だから見てはいないがオッサンの園が異世界にはあるだろう。
だがいくらオッサンを一ヶ所にかためてもオッサンは繁殖しないだろう。
だってアソコは腸だから。
「あの森は『オッサンの墓場』と名付けよう」
「私が住んでた思い出の場所に変な名前を付けないで!」とベガ。
「良いじゃない。
もう二度と行く事もないんだろうし」
「それはそうなんだけど・・・」思い出を汚されるのはイヤらしい。
暗く長い地下階段を進む。
異世界の夜は暗くて早い、街灯も少ない。
だからだろうか?
異世界の人々はみんな夜目が効く。
遺伝的なモノだろうか。
それプラス多分ビタミンAが夜目に効くんだと思う。
俺の指定している食生活を送っていると、異世界人の夜目が半端じゃなく向上する。
「お前は猫か!?コウモリか!?」とツッコミが入れたくなるくらい暗闇で活動出来るようになる。
地下階段は普通はライトを灯すのだろう。
なのに異世界人達は普通に歩いて行く。
俺とナオミと有末の日本人は綾美のスマホの灯りを頼りに足元を見る。
「先に行かないでよ」
俺が情けない声を出す。
「早くしてよね」とカナ。
最近わかってきた。
"優秀な奴には、出来ない奴が『何で出来ないか』すらわからない"
教師が優秀に越した事はない。
優秀だから教育が出来るのだろう。
ただ、出来ない人の気持ちを理解出来ない教育者に教えられる生徒は不幸だ。
そんな事を考えながら、カナに『何やってるの?』『まだチンタラしてるの?』とボロカスに言われる事にムカつきを抑える。
カナが俺を目の敵にするのは正直、目に余る。
ナオミだって俺だって、暗闇以外じゃかなり役に立ってると思うんだよ?
少し奥まで歩いた。
暗闇を歩いてたから、大した距離じゃないのに長く感じたのかも知れない。
ドラクエⅠの洞窟の中だって松明だけで入ると、広く感じるじゃん。
通路が終わり、広い空間に出た。
ようやくどこかの部屋に辿り着いたのか?
地下階段も地下通路も石畳だったが、ここはどうやら板の間のようだ。
ギシギシ足元が軋む。
「アンタは誰だ?」ケイが言う。
ケイは『翻訳スキル』を使って、目の前の誰かに話し掛けたようだ。
「気配を消していたのに、よく我に気付いたな!」暗闇の中で誰かが言う。
いや、この人ら見えてるからね。
それに『気配消した』とか言ってるけど、あまりにもお粗末な消しかただからね。
暗くて何も見えなかった俺にだって「誰かいるな。何かの気配があるな」って気付くぐらいバレバレだからね。
「アレで隠れてたつもりなの?
アホじゃないの?」
コラ、カナ!
異世界の言葉は伝わっていないとは言え、言い過ぎだ。
「よくここまで来た。
しかしここでお前らは終わりだ!」と男が言う。
部屋の四方八方から深い紫色のビームが俺達に向かって飛んでくる。
ヤバい!かわさないと!
かわすのはワケない。
それより非戦闘員の綾美とベガを護らないと!
・・・そう思っていると、ビームは俺達の前でかき消えた。
「え?」男が間抜けな声を出す。
「私と綾美が呪いをかき消したのよ」とナオミ。
「そんな事が出来るの!?」と俺。
「出来る訳ないじゃない。
私と綾美がかき消せるのは初歩の初歩の初歩の呪いよ。
今、消した呪いはそれ以下よ」
ナオミが呆れた声で言う。
「バ、バカな!
我々の呪具の効果が無効にされた、だと!?」
「『呪具』なんて言ったら、本物の呪具が怒るわよ」
「あのビームを発したのは"なんちゃって呪具"って事?」
「ロボットだってロボットって言えない部品だって、部分的にちょっとだけ動かす事は出来るでしょ?
アレも同じ。
とりあえず水鉄砲みたいなモノを発射出来る仕組みだけは取り敢えず数は揃えたみたいね。
でもそれは『呪具』なんて言えるモノじゃないのよ。
その証拠に水鉄砲を一発打っただけで、あの"呪具もどき"はもう使いモノにならないみたいよ?
結局、本物の呪具と呼べるようなモノは『壺』だけだったみたいね。
それは年代モノで、過去の誰かが偶然作ったモノ。
ようやく確信が持てたわ。
コイツらは『呪術師』を名乗っているみたいだけど、どちらかと言えば『インチキ霊能者』に近い存在よ」
「な、何を根拠に!」
「さっきの男が毒を使っていたでしょ?
断言しても良いわ。
コイツら、毒殺した相手を『呪いで殺した』って言ってたのよ」
「『ギクッ』」男が分かりやすく慌てる。
「遅効性の毒なんて、使ってる理由がわからなかったのよ。
おかしいと思わない?
暗殺対象に暴れる時間を与えるだけでしょう、遅効性の毒なんて」
「そう言われてみれば・・・」
「理由は簡単。
傷から毒が入った人がしばらく普通に活動してるわよね、遅効性だから。
突然、毒が身体に回ってきて後からもがいて倒れて死ぬのよ。
コイツらはそれを『呪いの効果で死んだ』って言い張るのよ。
コイツら呪いの力なんて大して使えないし、呪具だってまともに一つも作れないのよ。
トリックを使って周りを怖がらせてるだけ。
コイツらが行ってる暗殺は呪いなんかじゃない。
毒殺よ」
「何でそんな面倒臭い事を?」
「日本で"呪いを取り締まる法律"がないからよ。
『解剖したら呪いが伝染る』なんて、デタラメを解剖医に信じさせたら解剖だって誰も行えないし、呪いだって信じるしかない。
呪いを確実に信じさせるのは中途半端なオモチャみたいな呪いと、過去の遺物である『呪いの壺』だけ。
水鉄砲みたいな呪いはきっと殺傷能力が低いのよ。
だから、この部屋には大量の水鉄砲が仕掛けてあった。
あれだけあれば、水鉄砲でも私達を殺せる・・・はずだった。
でも私達は傷一つなくピンピンしている」
「つまりコイツは『詰み』って事?」と俺は目の前で、腰を抜かして倒れている男を顎で指す。
「そう。
でもこんな雑魚には興味はない。
岡田コンツェルン本社ビルを大惨事に巻き込もうとした黒幕に用事があるのよ」
「ざ、雑魚とは何だ!
我は呪術師協会の師長だぞ!」雑魚が喚く。
いきなり現れたコイツが大ボスな訳がない。
最初に大ボスが登場するのは初代ファイナルファンタジーくらいだ。
「嘘をつけ!
手下はどうした?
ボスは手下に囲まれてるんじゃないのか?」と俺。
「そ、それは・・・」雑魚が口ごもる。
「あ、わかった!」と綾美。
「何がわかったの?」
「小物が大物ぶる時、活動してる所を見せないのよ。
活動してるところを見られたら『コイツ、大した事ない』ってバレちゃうからね。
社交界でもこういう小物はいくらでも見たわ。
呪術師だっけ?
インチキ呪術師が威厳を保つためにはあんまり表に出ないようにするしかないのよ。
だからこういう役職の高い小物は自分が凡人である事がバレないように近くに側近すら置かない、ってのはよくある話なのよ」
まぐれで格ゲー大会で優勝したヤツが、自分があんまり強くないのバレないように大会に出なくなるみたいなモンか?
とにかく呪術師長が自分が凡人である事がバレないように、近くに側近どころかボディーガードすらも置いていない、という事か。
馬鹿馬鹿しい。
「日本にも『呪術師』なんてモノがいるんだ」と思ったら、実は呪術師なんて体系化されていないらしい。
呪術師長ですら水鉄砲みたいな、なんちゃって呪術しか使えない。
下っ端に至っては『呪術』とは名ばかりの毒殺を行う。
簡単に言えば、ほぼインチキなのだ。
かつて日本に『呪術師』はいた。
『呪いの壺』はその時に作られた物だ。
しかし『呪術師』の技術は時代と共にロストテクノロジーになった。
残ったのは呪術の家系と入門と呼ぶのもおこがましい水鉄砲もどきだけだ。
しかしコイツどうしてくれよう?
見逃したら、これからも命を狙われるだろうし面倒臭い。
コイツらのインチキを暴くのもアリか?
でもコイツらは元々表立って活動はしていないだろう。
その証拠に、今まで『呪術師』の事なんて聞いた事もなかった。
それにコイツら、実質的には『殺し屋』だよな。
コイツらの悪事を白日の下に曝すって事は、今までの『暗殺事件』を白日の下に曝すって事だ。
色んな大物、裏社会の者を敵に回す事になりそうだ。
片っ端から異世界の森に送り込んでも良い。
でも俺は『世直し』とか『正義の味方』とかに一切興味がない。
面倒臭い、コイツを異世界の森に送り込もう。
俺は何の説明もないままに、腰を抜かして倒れているオッサンの手首を掴んで、ワープでオッサンを異世界に送り込んだ。
これで『呪術師』の組織は事実上の壊滅。
唯一初歩の初歩の呪術が使えるオッサンは異世界へ行った。
残ったのは『暗殺者』達だけだ。
それに毒の作り方を知ってるのはおそらく呪術師長だけだろう。
何故なら、他のヤツは解毒剤の存在すら知らなかった。
本当なら毒を扱うヤツは解毒剤も持っているモノだろう。
しかし、俺は一つ大きなミスを犯した。
確かに日本で呪術はロストテクノロジーだ。
しかし、俺は呪術をかじった者を異世界に送り込んでしまった。




