八十六話
「異世界に伯父様を送り込んじゃっていいの?」とナオミ。
「『送り込む』て。
俺が一緒にワープしなきゃ、森に転送されるんだよ」
「その森って、大火災があったんじゃないの?」
「良く知ってるね。
俺がベガに最初に出会って保護された森だよ。
もう火災はおさまってるし、徐々に森に戻ってるし、『死の森』化はしていないから大丈夫。
なんせ戦闘なんてまるでダメのベガが生きていけてたところなんだから。
ベガが『モンスター避け』の薬を撒いていて、それはいまだに有効なんで現代日本人もなんとか生きていけるよ」
「そうじゃなくてそこにはヤクザを送り込んだんじゃないの?」
「あ」
「やっぱり忘れてたんだ。
伯父様、子供の頃から英才教育を受けたバリバリのインテリよ?
ヤクザに囲まれて生きていけるとは・・・」
「ま、まぁこれで『罰』って事にしとこう。
ヤクザに囲まれて肩身の狭い想いをするんだろうし。
ヤクザ達が、安全地帯を捨てて盛大に自爆してモンスターの群発地帯に突っ込んでたらわからないけど」
「『ヤクザ達が死んでても何とも思わない』って事?」
「あのねえ。
『俺のせいで善人が死んだ』『俺の目の前で人が死んだ』っていうんじゃなければ、無関係の悪人まで救おうなんて思ってないの!
自業自得で死に急いだヤクザを何で俺が救わなきゃいかんの?」
とにかく、ナオミさんの叔父から怪しげな連中の居どころは聞いた。
オッサンに案内してもらおうとしたが、オッサンは「勘弁してくれ!殺される!」と断固として拒否した。
そりゃそうか。
オッサンは協力者に怯えてたもんな。
しょうがない、教えられた住所に従って歩いて行くしかない。
「綾美は置いて行く?」とナオミ。
「いや、庇わなきゃいけないなら置いて行くけど綾美さんは『対呪い』と言う意味では俺らの中でナオミさんと並んで心配する必要ないんじゃない?
どちらかと言うとカナの方が心配だし『対呪い』って意味じゃ、俺とか有末とかケイの方が足を引っ張るかもよ?
ベガは不調者が出た場合、ナースとしていて欲しいし。
それにここに一人で綾美さんを置いてきぼりには出来ないよ。
よっぽど危険はないとは思うけど、連れて行った方が安心だ。
大丈夫!
マシンガン位なら俺でも有末でも弾は叩き落とすから!」と俺。
「私、いつの間にか人間やめてた!?」と有末。
やはりお姉ちゃん、いがみ合ってても妹の事は心配みたいだ。
「しかし交通機関、見事に全滅してるねー」と有末。
「そりゃ、大騒ぎになってるからね。
『毒ガス事件』って事になってるし」とナオミ。
「歩いて行くしかないか。
でも協力者、異変を感じたら逃げるかも知れないよ?
因みに『異変』って感じ取れるモノなんだろうか?」と俺。
「そりゃ、いつまで経っても大規模な呪いの効果が出ない。
『こりゃ、何か妨害があったな』と思うのが普通よ。
そうなった時に連中がどういう行動を取るのかはわからない。
現場に『呪具』である『壺』を回収しに来るかも知れない。
『岡田機械』にある祭壇に行って事実を確かめに行くかも知れない。
早く『協力者』のところへ行かないと、入れ違いになるかも知れないよ?」とナオミ。
「だったら急いだ方が良いね。
乗り物を出すね」
そう言うとケイは二匹の巨大なワシを虚空から呼び出した。
おいおい、確かにここら辺は人影はない。
でも空撮のヘリコプターは遠巻きに飛んでるんだぜ?
いくらなんでもこの大きさのワシはヘリコプターのカメラに映るだろう。
まあ良いや。
もう遠巻きにカメラに映っちゃったかも知れない。
遠巻きだから顔まではわかんないよね?
拡大すれば画像は荒くなっちゃうだろうし。
『怪鳥に乗る謎の少女達』って少しは話題になるかも知れないけど、きっと『CGだ』って結論になるはず。
だって常軌を逸してるもん。
つーか、実際にもう二匹の巨大なワシの背中に乗って飛んじゃってるから手遅れだよね。
顔に布切れ巻いて出来るだけ誰かわからないようにしてるけど、俺とか有末とか聖華の制服着てるし。
運悪くヘリコプターの横をワシが飛ぶ。
リポーターが唾をとばしながら何かを言っていて、マイクをこちらに向けている。
『何か言え』って事だろうな。
しょーがねー。
「見るんじゃねぇ、遊びじゃねーんだ!」とマイクに向かって叫ぶ。
音声はちゃんと録音出来ただろうか?
大体、ヘリコプターの音がうるさすぎるんだよ。
取材に対するサービスは終わりだ。
ワシは並んで飛ぼうと言うヘリコプターを振り切った。
大体危ないじゃんか。
空中で、追突したらどうするつもりだったんだよ?
ワシは群馬の山奥の方に飛ぶ。
ある程度開けたところに行くんだったらワシに乗っているのは目立ってしょうがないが、群馬の山奥に行くなら見られる危険性も減る。
「大体、群馬が日本がどうかも怪しいしな」と俺。
「日本に決まってるじゃないの!
群馬県民に謝って!」と有末。
「そんないるか、いないかもわからないような神話上の存在みたいな連中に謝るつもりはない」
「群馬はそんなスピリチュアルな場所じゃないわよ!」
ワシは山間の神社の鳥居の前に降りる。
「ここで間違いないのか?」と俺。
「伯父様に教わった住所をスマホのナビゲーション機能に入力したらここだったのよ。
ね、綾美?」とナオミ。
「綾美さんのスマホかよ。
てっきり俺はナオミさんがスマホを使いこなしてるのかと思ったぜ」
「スマホを使えない訳じゃないのよ?
入院してて、異世界帰りだったらスマホ持ってなくて当たり前じゃないの・・・」
「姉さんは入院前からガラケー派じゃなかったっけ?」
「綾美!余計な事は言わないで!」
どうやらナオミはスマホ音痴、機械音痴らしい。
「苦手だけど使えない訳じゃないのよ?
ただ、霊障で精密機械は壊れがちなのよ」
ナオミは何か言い訳がましい事を言っている。
「そんな事よりここは神社なのかな?」
「元神社、神社の廃墟みたい。
そこに『呪術師』が住み着いたらしいわよ」
「『呪術師』?
そんなモノ、日本にいたんだ」
「自称『呪術師』ね。
本格的な呪術師なんて日本にはいないわよ。
『壺』は偶然が産んだ"悪夢"
日本人には同じ呪具を産み出す能力はないわ」
「何でそう言い切れるのさ?」
「言い切れるわよ。
もし、日本がそういったオカルト方面に強いなら、私が異世界でネクロマンサーの修行をするのもおかしいでしょう?」
それもそうか。
日本と比べて異世界は何でもアリのファンタジーな世界だ。
逆に日本はファンタジーは発達していない代わりに科学が有り得ないぐらい発達しているのだが。
そんな事を話しながら俺達は崩れかけた鳥居をくぐる。
鳥居をくぐると急で長い石階段が本殿、いや神社時代に本殿だった建物に続いている。
本殿の入り口には四角い"何か"が置かれていた跡がある。
何の跡だ?
「きっと賽銭箱があったのね」と有末。
そうか、賽銭箱の跡か。
有末は俺にはない観察眼があるようだ。
入り口から建物の中に入る。
建物は板の間になっている。
古い建物であれば床が腐っていそうなものだが、床には軋みはあるものの、磨きあげられている。
誰かがここに手を入れて、メンテナンスしている証拠だ。
かなり大きな建物だ。
部屋の数が多い。
それは『死角の多さ』を意味している。
どこから襲いかかってこられるかわからない。
気を引き締めないと・・・と思った瞬間に何か光るモノが飛んできた。
カナが人差し指と中指で"ソレ"を受け止める。
カナの指の間に挟まっていたのは『北斗の拳』なんかに出てくる太い針、『ガビシ』だ。
ガビシって漢字でどう書くんだろう。
「うわ、コレ、肌がピリピリする。
多分毒か何か針に塗ってあるよ!」とカナ。
そんなにレベリングしてないカナでも受け止められる程度の投擲、子供のお遊び程度の攻撃かと思いきや、かなり強力な毒がガビシに塗られているようだ。
念のためベガがカナの毒が触れた部分に毒消しのポーションを振りかける。
毒が触れたカナの指先から蒸気が上がる。
「大丈夫、なんともない。
ありがとう」
カナが手をヒラヒラさせて『大丈夫』というジェスチャーをした。
「綾美とベガを取り囲んで!
それ以外の人で毒を受けた人は必ず申し出て!」とナオミ。
一応、俺がリーダーなら指示を出さなきゃいけないのかも知れないけどこういう場合、俺は置物より役に立たない。
だからカナにため口で話されるのかな?
再び暗闇で何かがキラリと光る。
「そこだ!」俺がアイテムボックスから取り出した"何か"を投げつける。
再び投げつけられたガビシと俺が投げた"何か"が衝突する。
『ギャアアアアア!』
凄まじい断末魔の声が聞こえる。
あ、やべ。
何か生き物投げちゃった?
そんな訳ないか。
生き物はアイテムボックスに入れられないもんな。
だからテイマーはテイムした獣やモンスターを『テイムボックス』に入れてるんだ。
俺はガビシが突き刺さってポトリと床に落ちた"何か"を見る。
あ、トレントの実だ。
俺は最初の頃、トレントの群生地で『実が狂暴化して手がつけられない。何とかしてくれ』って依頼を受けたんだった。
あの頃、とにかく金がなかった。
『食えるかな?』とトレントの実を拾っておいたんだ。
食えない事はない。
不味くもない。
ただ食おうとすると全力で抵抗してくるし、食おうとかぶりついた時に実があげる断末魔の叫びが、とにかくうるさい、うるさすぎる。
トレントの実はジャムに出来るんで、捨て値で売れる。
でも普通にモンスターが狩れるようになった今では、トレントの実がアイテムボックスに大量に入っていた事すら忘れていた。
全く役に立たないアイテムだ。
しかし、敵はトレントの実の絶叫に面食らっている。
チャンスだ!
・・・と、俺が行動する前に有末がガビシが投げられた方に飛び出す。
有末は元々アスリートだったが、異世界でレベリングされ本気の移動速度は最早、人間が目で追える速さじゃない。
「ぐええ!」有末が何者かの腹に蹴りを入れる。
「おい、こら、殺しちゃいかん!」と俺。
「『殺す気はない』って言ったらダメだよ。
脅しにならないじゃん。
殺さないように手加減してるのわからないの?」
カナが呆れたように言う。
ムキー!
本気でやってないのぐらい俺でもわかるわ!
でも、今の有末の力ならちょっと力加減を間違えたら、簡単に人を殺せちゃうよ・・・って話だよ。
ダメだ、俺はカナ苦手だ。
何で俺に何でも食ってかかって来るんだろう?
ナオミがテキパキと後ろ手に気絶している男を縛る。
「縄はどこから出したの?」と聞いたら「アイテムボックスから」とナオミは答えた。
俺と一緒じゃなくてもみんな、様々なスキルを身に付けてアイテムボックスを持ってるんだな、としみじみしてしまう。
『俺がいなくてもつよくなれる』という事実が、カナのような反抗的な者も生んでしまっているのだな、と。
でも別に問題ないんじゃないかな?
独裁国家を作りたい訳じゃない。
俺以外にリーダーに適任の者がいれば、いつでもリーダーの座は譲る。
むしろ俺はリーダーには向いてないし、柄じゃない。
もっと好き勝手に色々したいし、責任は背負いたくない。
後ろ手に縛られた男が意識を取り戻す。
どう声を掛ければ良いのやら。
「おはよう、良く眠れた?」俺は爽やかに声をかけてみる。
「な、何だ!?
テメーらは!?
俺をどうするつもりだ!?」
毒を塗ったガビシを突然投げつけて来る男に言われたくない。
「何でいきなり攻撃されたのかわからない。
板の間に土足で踏み込んだから、かとも思ったんだけどアンタも土足だよね?」
「それ以前にお前らは勝手に建物の中に忍び込むのかよ!?」
「だから攻撃したのか?
そうじゃないでしょ?
だってこの建物だって廃墟になった神社をアンタらが勝手に使ってるんだよな?
その時に前の神社のオーナーに『お邪魔します』って許可取ったか?
ここが廃墟だと思ってアンタらと同じように誰の許可も得ないで建物内に入った俺らにアンタが攻撃を仕掛ける筋合いはないんじゃないか?
・・・そんな話はどうでも良いんだよ。
アンタはどこの誰なんだよ?」
「・・・・・・」
「だんまりか。
じゃあ質問を替えるぞ。
アンタら、どこでこの壺を手に入れた?」
男にカナが抱えている『呪いの壺』を見せる。
男の顔色が瞬時に変わる。




