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リクルーター  作者: 海星
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六十九話

 「じゃあ行こうか?」と俺。

 「どこに?」と山神さん。

 「どこ、ってスラムに決まってるじゃん。

 あ、スラムに行くのは俺と有末さんとケイだけね。

 あ、アクアはテイムビーストだからケイがいなかったら動けないか」

 『そんな事はない。

 どうやら我らテイムビーストはケイから魔力を受け取る存在のようだが他から魔力や栄養を取れない訳ではないようだし、備蓄の魔力だけでもしばらくは自由に動ける。

 だから短い時間なら、ケイの元を離れられるぞ』

 「そうなのか。

 それはともかくちょっと女の子らを家にワープで連れて行くよ。

 厄介事に巻き込みたくないからね」

 女の子らは不満があるようだ。

 「足は引っ張らない。

 自分の身は自分で守れる」と。

 実際彼女達がスラムのチンピラに後れを取る、とは思えない。

 元から鍛えていたようだし、アクアを仲間にした時に入った経験値で彼女達は尋常じゃなくレベルアップした。

 そう言う話じゃない。

 それに圧倒的な戦力で、相手を圧倒したい訳でもない。

 大人数だと統率が取れなくて動きにくいのだ。

 四人パーティが丁度良い・・・はずだ。

 ドラクエⅤでも他のゲームでも大体沢山仲間になっても、パーティは四人と決まってるじゃんか。

 『幻想水滸伝』は6人?

 うるせー、例外を口にするんじゃねー!


 文句タラタラの女の子達を家にワープで連れて行く。

 泉の畔の小屋から連れて来た女の子達が家にはいた。

 大所帯になったな。

 「どういう事よ?

 家に戻って来たら知ってる女の子らが一人もいないし。

 知らない女の子らが沢山いるし!」

 ナオミさんが俺に詰め寄る。

 「ナオミさん、久しぶり」

 「『久しぶり』でもないでしょ?

 会ったばっかりじゃない?」とナオミさんは不思議そうな顔をする。

 そうか、俺が日本でしばらく生活していても、異世界じゃ一切時間が進んでいないんだった。

 「西の泉の畔にある小屋から女の子達を連れて来たんだよ。

 ここにいた娘達はレベル上げも兼ねて連れて行った」

 「何で連れて来たの?

 確か『西の泉』の周辺って非戦闘区域よね?

 そこにいれば安全なんじゃないの?」

 「今まではね。

 ケイが『西の泉』周辺の"パワーバランスの頂点"で小屋の主をヘッドハンティングしちゃったからね。

 しばらくしたら非戦闘区域じゃなくなるんじゃないかな?」

 「そんな事して良いの!?」

 「もしかしたら良くないかもね。

 でももうやっちゃったんだからしょうがないよね。

 それに『パワーバランスの頂点』も既に泉周辺にいるのに飽き飽きしてたみたいだし。

 良いんだよ。

 だからこの娘らと仲良くしてね!」

 「・・・わかったわ。

 って杏奈、どこに行くつもりよ!」

 「どこ、って街に行くんだよ。

 用事の最中に連れて行った女の子を家に連れ帰っただけだからね。

 詳しい事はカナ達から聞いてよ。

 じゃあね!」そう言うと俺は逃げるように街にワープで戻った。

 戻った先には山神さんとケイとアクアがいた。

 「杏奈さん、見られたらどうするの?

 偶然誰にも見られてないみたいだけど。

 ワープする場所を考えて!」とケイ。

 「ごめん、ごめん。

 待たせてるんじゃないか、と思って。

 じゃあ行こうか!」

 俺達は街を北へ、北へと向かった。

 高級住宅街が一般的な住宅街になり、貧乏長屋になりそれがなくなると壕に行き当たった。

 壕には一本の橋がかけられている。

 その橋を渡らないとスラムには入れないようだ。

 「・・・泪橋」俺はボソッと呟いた。

 「何?」とケイ。

 どうやら異世界人には泪橋は伝わらないようだ。

 日本人でも泪橋を知っている若者がどれだけいるかは怪しいが。

 「何でもない。

 じゃあ行こうか、丹下のオッサン」

 「『タンゲのオッサン』?

 どう言う事?」ケイの頭の上には沢山の『?』が浮かんでいる。


 俺達が連れ立って木の橋を渡る。

 橋を渡るとスラムの入り口がある。

 入り口にいるのは入り口の門番兼、用心棒と言った感じのいかつい男だ。

 男は俺達を一瞥すると、一言「帰れ」と言った。

 「何でだよ?

 金が必要なら払うよ?」

 「そうじゃねぇ。

 ここに来る女は物好きな貴婦人と、スラムに落ちる女だ。

 お前らは金持ちには見えない。

 ・・・悪い事は言わない。

 お前らみたいな若い娘がスラムに近付くな!」

 「忠告は有難い。

 でもスラム内で働いてる若い女だっているだろう?」

 「いるにはいる。

 カジノや闘技場で働いてる女もいるし・・・お前ら若い娘が知る必要のない汚い仕事についている女だっている」

 「俺らだって働きに来たって考えられないのか?」

 「わからねーのか?

 俺はロクデナシだけど、俺みたいな男にでも娘がいるんだ。

 娘がスラムに自分から入る事を考えたら気が狂いそうになる!」

 どうやら入口の男は善意で「入るな」と言っているらしい。

 でもそれじゃ困ってしまう。

 キチンとスラムのボスと話を着けた上で「女の子らに手を出すな」と言っておきたい。

 入口の男と少し話をして、スラムに連れて来られた女の子がどうなるのか、を少し垣間見た気がしたから尚更だ。

 しかし、入口の男は俺達をスラムの中に入れてくれないみたいだ。

 困った。

 ここで足止めするのは男の善意だろう。

 暴れたくはない。

 無理矢理通って責任を問われるのはこの男だろう。

 前にも言ったが俺は、俺に関わった全ての人に不幸になって欲しくない。

 俺達のためを思って立ち塞がったこの男を傷つけたくはない。


 「何をやってるんだ?」スラムの入口でもめている俺達の後ろから声がかかる。

 「あ、兄貴!」入口にいた男がわかりやすく焦る。

 「もう一度聞くぞ?

 『ここで何をやっているんだ?』」男が静かに言う。

 言葉に凄みがあり、"嘘は許さないぞ"と入口の男に暗に言っている。

 現れた男の見た目は『歴戦の中年』といった風情だ。

 左頬には古く深い傷跡がある。

 首筋や両腕にも傷跡があり、若い頃は"切った張った"の殺伐とした世界の中で生きてきたのだろう。

 「は、はい。

 この女達が中に入りたい、と」

 「へえ。

 それで?」

 「"それで?"と言うと?」

 「『何でお前はこのお嬢さん達を中に入れなかったのか?』って聞いてるんだよ」

 「そ、それは・・・」

 「もしかして、オメー、このお嬢さん達を追い帰そうとしてたんじゃねーだろうな?」

 「・・・・・」

 男は『嘘をついてもどうせバレる』と思ったんだろう。

 肯定も否定もせずに押し黙った。

 「図星か」中年男はボキボキと指を鳴らしながら男に掴みかかろうとした。


 まがりなりにも俺達を庇おうとした男が危害を加えられそうになっている。

 「何か勘違いしてるんじゃねーか?

 俺らはこの人に道を聞いていただけなんだが?」と俺。

 「わざわざスラムの入口で道を聞いてたのか?」中年男が胡散臭そうに言う。

 「知らねーよ、こっちに来るのは初めての冒険者だ。

 ここらへんに俺らに"冒険の依頼"を出したクライアントがいるはずなんで、場所を聞こうとしてたんだよ」

 「お前らはどこに行こうとしてたんだ?

 お前らのクライアントってのはどこにいるんだ?」

 「確か名前は『アルテ』、冒険者ギルドに行方不明の少女達の捜索を依頼してた男だ。

 今日は依頼の進捗の報告に来た。

 オッサン、そのアルテとか言う男を知らねーか?」と俺。

 「・・・お前らがボスの依頼を受けたのか?

 ある程度の実績を残してる冒険者じゃなきゃあの依頼は受けれないはずだが」

 「知らんよ。

 ギルドマスターに『この依頼を受けろ』って強制されたんだから。

 そんな話はどうでも良いんだよ。

 俺が用事があるのはアルテとかいう男だ。

 アンタらじゃない」

 「・・・わかった。

 じゃあついて来な」男が先導してスラムの中に入って行く。

 俺はこの時知らなかった。

 スラムに入る時に手の甲にスタンプを捺さないと、スラムからは出れない事を。

 手の甲にスタンプを捺さないでスラムに入ったモノは二度とスラムからは出れない事を。

 例外はある。

 アルテの手下達は左肩に刺青をしている。

 その刺青があるモノ達は自由にスラムから出入り出来る。

 高額の金を払った者もスラムから出れる。

 簡単に言えば『身請け』された遊女はスラムから出れる。

 他にも例外はいくつかある。

 だが、基本的に一度スラムに落ちたら二度と脱出不能なのだ。

 「バカ!、行くな!」入口の男が小声で言う。

 男が"兄貴"と呼ぶヤツに聞かれたらマズいんだろう。

 コイツは本当に根っからの悪者じゃないな。

 "心配するな"と俺は手で入口の男を制す。


 『コイツの魂の色は腐りきってる。

 多分コイツは"アルテ"とかいう男の元に我らを連れて行くつもりはないぞ?』

 「だろうね」と俺。

 「"だろうね"って・・・。

 騙されてるってわかってるのにわざわざ罠にハマったの?」と有末。

 「山神さんは"ルーラ"って呪文知らない?」

 「呪文!?

 異世界では呪文は当たり前かも知れないけど、私は呪文なんて見た事ないわよ!」

 「この異世界は魔法は一般的みたいだけど、呪文は俺も見た事ないよ。

 呪文っていうのはゲームの中のモノね」

 「ごめん、私、ゲームってよく知らないのよ」

 「そうか。

 わかりやすく説明しようと思ったんだけど。

 "ルーラ"っていうのは"一度行った事がある場所に自由に行けるようになる呪文"なんだ。

 俺の使う"ワープ"も同じ性格のモノなんだよ。

 でも行った事がない場所には行けないんだ。

 つまり一回、スラムに入っておけば何時でも出入り自由になるんだよ。

 だからいっぺんスラムに入った今はコイツは用なしなんだ。

 用なしではあるけど、ついでにスラムの案内させようかな、って。

 スラムの事何も知らないし、"何時でも入れるし出れる"ってだけで、すぐに迷子になっちゃいそうだからね」


 「テメーら何をブツブツ言ってるんだ?」と俺らを連れて来た男が言う。

 「会話ぐらいしても別に良いだろ?

 罪人じゃねーんだし」と俺。

 「そんな減らず口を叩けるのも今のウチだ。

 ・・・ホラ、ここに入れ」

 俺達が連れて来られたのは鉄格子が嵌められた小屋だ。

 俺達はいつの間にか男達に取り囲まれている。

 何もかもが想像通りだ。

 男達がクズ過ぎて清々しい。

 『どうする?

 コイツらをひき肉にすれば良いか?』とアクアが物騒な事を言う。

 アクアがいなくたって、男達を殺すのは簡単だろう。

 でもここで憂さ晴らしに虐殺をするのは下策だ。

 「まぁまぁ、ここは大人しく捕まっておこう」

 俺達は鉄格子つきの小屋の中に放り込まれた。

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