四十四話
ここまでホイホイと信者達が投降するとは。
鷲を捕まえてきて良かった。
じゃなかったらコイツら全員薙ぎ倒して清明のところまで押し掛ける事になってた。
いや、それでも大した手間じゃないんだろうけど。
ケイも凛火も『超強力な身体』を手に入れた俺ほど本体は強くないんだろうけど、さすがにレベリングしたからそこそこは強くなってる。
黒ヒョウなんて敵にならないだろうし、ボクシングヘビー級王者くらいなら利き腕じゃない方の片手で秒殺できるだろう。
その上、ケイのテイムした獣達がいる。
正直、凛火を一人にしても誘拐出来る者はいないはずだ。
でもそれは『凛火が血の海に信者達を沈められるなら』の話だ。
それに相手が生身なら数千人くらいは相手が出来たって、相手が銃火器を持っていたらその限りじゃない。
それに家族を人質に取られたら?
寝ている間に襲撃されたら?
『三國志』の五虎将軍の一人、張飛は酒を飲んで寝ている時に仲間に裏切られて死んだと言う。
不死身じゃない限りいくらでも敵に付け入る隙を与えてしまうのだ。
そして、それは清明も同じ。
味方に裏切られるなんて、思ってもみないだろう。
そして『自分に全く人徳がない』と言う事実も清明は把握していないはずだ。
結局信者達は清明の父親、道満を慕っている。
道満の教えを絶やさない為に教団に残っている。
その考えを抱いている代表格が支部長なのだ。
「何でアンタは俺達に協力的なんだ?」と俺。
「道満様には『預言』の力があった。
教団は道満様の『奇跡の力』でここまで大きくなった」
「『奇跡の力』って何したんだ?」
「万馬券当てたり・・・」
「ショボっ!」
「とにかく道満様は手に入れたほとんどのお金を教団発展の為につぎ込んだのだ」
「『ほとんど』?
全てを注ぎ込んだ訳じゃないの?」
「道満様はカレーには目がなかった。
道満様のカレーに対する拘りは普通ではなかった。
『カレーとインドカレーは似て非なる物だ』それが道満様の口癖だった」
「先代ロクでもねーな!」と俺。
「わかるわ!」と凛火。
カレー好き同士は惹かれ合うらしい。
「今日、ここに私が来たのもカレーが私を呼び寄せた結果なのね・・・」と凛火。
「いや、俺達を誘拐した組織に乗り込んで来ただけ・・・聞いちゃいねーな」と俺。
誰も清明の事を敬っていないらしい。
「道満様の可愛がってた息子だから、自分らも可愛がらなくちゃね」程度の認識だったようだ。
道満の死後、教団は道満の遺言の通り教団の在り方を変えようとした。
『教団は民主制を敷き、教祖は置かない』
それが現在、清明が『指導者』であっても『教祖』ではない理由だ。
しかし道満の死後、権力を失う事を嫌がる者がいた。
道満の妻、清明の母親である。
清明の母親は徹底的に道満の遺言を無視して、教団の指導者の座には清明が傀儡として座った。
だが、実権を握っていたのは幼い清明の母親だった。
だが、信者達は母親の言う事に反発し続けた。
元々、信者達と母親の間には摩擦があった。
それが表面化しなかったのには緩衝材としての道満の存在があった。
全く言う事を聞かない信者達に愛想を尽かして、母親は教団の財産の一部を持って、若いホストとフィリピンに消えた。
残ったのは傀儡だった指導者の清明だけだ。
道満は清明を『普通の人間』として育てようとしていたし、清明の母親は清々しいくらいの俗物だった。
『子は親を映す鏡』とは良く言ったモノで、清明もまた清々しいくらいの俗物になった。
支部長は「自分が清明様に対する信者達の受け皿になろう」と努めた。
道満の教えを忠実性に守ろうとする支部長は信者達に慕われた。
清明本人は支部長を疎ましく思っていた。
だが、清明の言う事を聞く信者はほとんどいない。
だから何も考えていない誘拐犯を私兵として利用したのだ。
何故俺たちを誘拐したのか?
それは信者の一人が道満の『預言の書』を見つけたからだ。
『預言の書』は隠されていた。
これがあればテロ等を未然に防げたり、災害が起こる前にそこに住んでいる人々が避難出来たのに。
だが『預言の書』を隠した清明の母親は他人の人命などはどうでも良かった。
母親にとって見過ごせなかったのは『預言の書』の最後に書かれている『歌姫に教団は全てを渡し、その役割を終える』という一文だ。
道満の『預言』が外れた事はなかった。
だが道満はいつも言っていた。
「未来は変えられる」と。
「どうせ未来は決まっているんだから頑張ってもしょうがない」という信者の自堕落を戒めるために道満は言っている、と言う信者もいた。
だが「流れに身を任せるのは楽だ。流れに逆らうのは苦しい事だ。決まっている流れを変えようとするのだから未来を変えるのは苦しいに決まっている」と道満の言う事を信じる者もいた。
隠していた預言の書が発見され、道満の遺言、道満の預言が無視されていた事で糾弾される事を恐れたのだろう。
清明の母親は財産の一部を持ち、教団から消えた。
父親に甘やかされて育ったのもある。
母親が育児放棄していたのもある。
本人の性格もある。
清明の性格は終わっていた。
母親が出ていって荒れた清明は更に手がつけられなかった。
その清明が出した結論、それが『歌姫を拐え』だった。
支部長は悩んでいた。
侵入者に従う事は清明に逆らう事だろう。
しかし道満様は争いを好まなかった。
侵入者が『指導者に会わせろ』と言うなら、流れに身を任せるのが本当かも知れない。
それに清明様の母親が見つけたあの『預言の書』には「『歌姫』が来て、教団に終焉をもたらす」と書かれている。
『預言の書』は普通の信者達にその存在は知られていないが、支部長である自分は知っている。
何故なら清明様の母親に命令され、『預言の書』を土蔵の奥に隠したのは支部長自身だからだ。
「・・・わかった。
清明様のところに案内しよう」
上に逆らう意志はない。
だが、元々野心などはない。
元は病院勤務の薬剤師だった。
「多くの人の命を救いたい」と若い頃は希望に燃えていた。
だが現実の壁は高かった。
自分は医師の指示に従って薬を処方するだけだった。
そこに自分の意志などは存在しなかった。
それでも良かった。
人々が救われるのなら。
製薬会社から病院の関係者が接待を受ける。
そこには医師もいる。
患者の健康を二の次に考えて、賄賂を送った製薬会社の薬が取り扱われる。
何もかもが嫌だった。
こんな事のために薬剤師を目指したんじゃない。
そんな時に道満様に出会った。
教団に入ろうとする僕を道満様は拒絶した。
「自分は教団の力で世の中を良くしようとする。
君は薬剤師として患者を良くしようとしろ」と。
僕は道満様に心酔した。
勝手に薬剤師を辞め、教団に入った僕を見て道満様は少し呆れながら「勝手にしろ」と言った。
それからは教団のために身を粉にして働いて来たつもりだ。
あれだけ大きな鷲は何処かへ行っている。
目を離したら消えていた。
いや、消える大きさじゃない。
空へ飛んで行ったと考えるのが普通だろうか?
教団施設の奥へ一行は向かう。
一行の顔ぶれは僕、支部長と女の子達を誘拐しようとしたというアホの信者、そして『歌姫』の可能性が高い凛火と奇怪な『野菜地獄』とかいう歌を歌った杏奈と黒ヒョウにまたがっている少女だ。
おかしな顔ぶれだが、信者は相変わらず何も考えていない。
「見ろよ、あそこにも隠しカメラがあるんだぜ!」
だから教団の警備上の秘密をノータイムでバラすな!
「スゲー!ハイテクだな!」と杏奈が答える。
いや、ただの隠しカメラだ。
大してハイテクじゃない。
「早く、用事を終わらせないと・・・。
カレーに間に合わなくなるわ!」凛火が何かを呟いている。
カレーとは何の暗号だろうか?
コンコン
清明様の居室の扉をノックする。
「入れ」と偉そうな声が聞こえてくる。
一行がドカドカと清明様の部屋に入る。
「コラ!お前ら礼儀ってモノが!」と僕が言うが・・・。
清明様は別の事に気を取られていた。
「山田様?
山田様ですか!?」と。
『山田』と清明様に呼ばれた少女は少し考えた後に「角栄?角栄なのか!?」と言った。
「お前『働け!』って言っても『父親の遺産があるから働かなくても良い』とか言ってたもんな!
しかし『遺産』ってレベルじゃねーぞ!」
「いや、お恥ずかしい、ハハハハ」
「恥ずかしいと思うんなら働け!
親が泣く・・・ごめん、父親は亡くなってるし、母親は浮気相手と駆け落ちしたんだっけ?」
「気にしないで下さい、山田様!」
支部長はどう反応して良いかわからず、呆然とした。




