四話
「にわかには信じがたい話ね」
「ベガを恩人だと思ってるから正直に話した。
これが話の全てだ。
信じてもらえないならそれ以上はどうしようもない」
「貴女の格好を見た時に思ったのよ。
『この世界の服じゃないな』って。
この世界にも他の世界からの『迷い人』が少数ではあるけど存在するわ。
噂じゃ勇者は『迷い人』らしいし。
貴女が他の世界から来た事は疑っていない。
『帰れる』って話も疑う要素がない。
『絶対帰れる』って言ってるんじゃなくて『帰れるんじゃないか?』って言ってるだけだし。
たとえ帰れなくたって嘘をついてる事にはならない、『見通しと違った』ってだけよね?
疑ってるんじゃない。
『私を連れて行ける』と確信している根拠を聞かせて?」
「俺はおそらく『スカウト』なんだよ。
色んな世界を巡って、元いた世界に『他の世界じゃ居場所がない人間』を連れて行くのが役割。
それが俺のスキル『適材適所』と『世界旅行』なんだよ。
つまり俺がこの世界に来たのはベガを俺が元いた世界にスカウトするためだよ」
「私にも『調剤』ってユニークスキルがあるわ。
貴女にユニークスキルがあったとしてもそれを疑う事はないけど。
・・・何にしてももうしばらくこの森の中で体力回復につとめないとね。
二人で元の世界へ行ける保証なんてどこにもないんだし、この体力状況で一人で元の世界に帰っても困るでしょ?」
「確かに」
俺はベガの言葉に従って森の中で更に一月リハビリをした。
『万能薬』など薬の類いをベガはマジックボックスに入れていた。
マジックボックスとは『ドラ◯もん』の四次元ポケットのようなモノだ。
ベガは逃亡生活を続ける中で物はマジックボックスに入れておく習慣ができているみたいだ。
女神が言った通りだ。
この身体は身体能力が高い。
その上、ステロイド紛いの『筋力向上の薬』と『身体能力向上の薬』を毎食後欠かさず飲んでいる。
「この薬があれば『薬学がこの世界で用済み』にはならないんじゃないか?」
「この薬が『誰にでも手に入る』なら薬学は発展したかもね。
アンタが一回に飲んでいる薬で城が三つ建つだけの金貨が必要性なのよ。
魔法薬が広まったのは、その『安価さ』なのよ。
いくら薬学が優れていても、素材集めに莫大な費用がかかる以上、絶対にある程度以上は安くならない」
そうか、費用対効果で薬は魔法薬に惨敗したのか。
その上魔法薬では『毒』は作れない。
安価、安全、安心・・・そりゃ世論は魔法薬に流れる。
俺が『薬最高!』と思っているのなんて、使っている薬が全部タダだからだ。
しかも副作用がないのはベガの折り紙つきだ。
そろそろ元の世界に戻ろうかな?・・・と思っていた時に事件は起こった。
いやベガは「遅すぎた」と言っていた。
森が燃えている。
何事か?
「ついに私への追っ手が来たのよ。
私への懸賞金はDEAD OR ALIVE、いや、私に『王殺し』の罪を擦り付けるためには死体の方が都合が良いでしょう。
今までも、遠慮なく殺しに来たわ。
もう逃げ切れない。
貴女だけでも逃げなさい」
「逃げ切れるの!?」
「この世界に逃げ場所はないわよ。
でも貴女は『元の世界』とやらに帰れるんでしょ?
今が元の世界に帰るタイミングよ」
無茶を言う。
「念じれば帰れるんじゃないか?」なんて言うのは推測だ。
本当に帰れるとは限らない。
帰れなかったら襲撃に巻き込まれるしかない。
推測ついでだ。
俺が身に付けていた服は一緒に異世界に転移した。
俺と繋がっていれば一緒に元の世界に行けるんじゃないか?
・・・とは言うものの、点滴や尿道カテーテルは異世界に転移して来なかった。
元の世界に固定されているモノは転移されないのか。
そうじゃなけりゃ、触れてるんだからベッドだって一緒に異世界に転移しないとおかしい。
試して見ないとわからない。
「元の世界に帰る。
帰れるかわからないけど。
その時に一つ試したい事があるんだけど協力してくれないか?」
「まあ、いいわ。
これでお別れになると思うから。
最後に協力しましょう。
・・・で、何をすれば良いの?」
「抱き付いて下さい」
「貴女、そういう趣味なのか?」
「そうじゃなくって!
いや、恋愛対象が女性っていう意味ではそうなのかな?
・・・そういう意味じゃなくて、予測じゃ転移する時に密着してないと・・・ええい!上手く説明出来ねえ!」
「わかった。
貴女の言う事を聞こう」
そう言うとベガは俺に抱き付き「いままでありがとう」と言った。
俺は「礼をするのは俺だ。
礼なんてされる覚えはない」と。
「一緒にいてくれてありがとう。
一人ぼっちの逃亡生活で孤独に潰されそうだった私が貴女にどれだけ救われたか」そう言うとベガは俺に更に強く抱き付いた。
俺はベガを助けたい。
日本に戻らなくても良い。
俺が助からなくても良い。
何とかベガを連れて別の世界に行けないか?
『世界旅行』の発動条件がわかった。
強い願いだ。
俺とベガは日本へ戻ってきた。