三十九話
凛火のステータスを見て見る。
歌に関するバッドステータスが一切消えている。
適職の欄に『歌姫レベル1』というのがある。
今の職業は『学生レベル2』だが。
「試しに歌ってみせてよ」と俺。
「何の『試し』?」と凛火。
「治ったかどうかだよ」
ムッとしたベガが口を挟む。
「まだ完全には治ってないわよ!
1日二回薬をしゃぶらないと。
でも絶対それで完治するわよ!
私が信用出来ないの!?」
凛火が不安そうに口を挟む。
「ね、ねえ?
何て言ってるの?
何で怒ってるの?」
そうか、凛火はベガが何て言ってるかわからないんだった。
「大丈夫だよ。
ベガがスネてるのは俺に対してだから。
『私の薬の効果が信用出来ないのか!?』って憤慨してる。
ベガを宥めるためにも一曲歌ってよ」
「わかったわよ。
でも何を歌えば良いのかしら?」
「俺が小学三年生の時に作詞作曲した曲があるんだけどそれを歌ってくれない?」
「歌っても良いけど私、その曲知らないし。
しかし意外ね、貴女にそんな才能があったなんて」
「『能ある鷹は爪を隠す』なんて言うじゃん。
アレ?
『鷹』と『鷲』ってどう違うんだ?
出世魚みたいなモン?
出世鳥?
『出世鳥』とは言わないな。
は!?
『鳥貴族』!?」
「『凄い事に気付いてしまった!』みたいな顔してるけど多分違うからね。
教えてもらってもすぐには歌えないわよ。
譜面に起こしてよ」
「『フメン』?
何それ?
麺はお麩じゃなくて、小麦粉のほうが良いな。
身体に良い物って大体不味いよね?」
「何の話よ?」
「だから『麩麺』の話だよ」
「訳がわからないわ・・・」
「まぁ、歌うから耳で聞いて覚えてよ。
多分覚えられると思うよ?」
「わかったわ。
でも期待しないでね」
『♪新幹線はうんこ速い~
う~んこ、うんこ
う~んこ、うんこ
う~んこ、うんこ
うんこ速い
♪山手線はうんこ遅い~
う~んこ、うんこ
う~んこ、うんこ
う~んこ、うんこ
うんこ遅い』
俺の歌唱を聞いていた凛火が言う。
「コラ!
貴女は小学生男子か!」
「だからこれを考えた時は小学生男子だったよ」
「小学生だったかも知れないけど『男子』ではなかったでしょう?
何で男の子ってあんなに『うんこ』大好きだったのかしら?
犬の野糞見つけただけでテンション最高潮だったわよね」
「こちらとしたら女の子が『うんこ』を目の前にして冷静ていられる事の方が信じられなかったよ。
海賊が『お宝』を前に冷静でいられると思う?」
「どういう喩えよ・・・。
それはともかく山手線は『うんこ遅い』電車じゃないと思うわよ?」
ベガは俺の歌に全く興味を示さなかった。
失礼してしまうが『歌姫』の歌にはちょっと興味があるようだ。
凛火は嫌々俺の歌った『うんこの歌』を歌った。
・・・ベガが泣いている。
「言葉の意味はわからないけど素晴らしい歌声ね!」と。
俺は『うんこの歌』で感動して泣く人を初めて見た。
俺の歌に興味を示してたら、コレが『うんこの歌』だとすぐにわかっただろうに。
ざまーみろだ。
「よくわからないけど、魂を感じたわ!」
「まあ、魂を込めてひり出す人もいるかもね」と俺。
しかし凛火が『うんこの歌』ですら人の魂を揺さぶる『歌姫』である事に間違いはないようだ。
これで下準備は終わった。
「ちょっと付き合ってもらうよ?」と俺。
「『付き合う』って言っても晩御飯までには戻らないと。
あんまり遅くなるとママが心配するからね。
今だって『ブラブラ散歩にでも出掛けたのかな?』って思われてると思う。
まさか誘拐されたなんて思わないだろうし」
まあ、そうだろね。
天涯孤独なんてナオミさんくらいだろうね。
ナオミさんはあんまり話したがらないから聞かないけど、元々は天涯孤独じゃないっぽいんだよね。
お嬢様高校に通ってたんだし。
俺だって天涯孤独じゃなかった。
つーか、元々の俺の身体は死んだ事にされてるし、家族だってちゃんといる。
今の身体にだってちゃんと家族はいるかも知れない。
でもこの身体の身元は不明なんだし、俺にこの身体の記憶はないから結果として『天涯孤独』みたいになっている。
凛火に関しては両親だけじゃなく、妹もちゃんといるらしい。
そして今夜の晩御飯は凛火の大好物のカレー、との事だ。
「カレーはジャワカレーとゴールデンカレーのカレーのルーをを半々で混ぜるのが拘り。
隠し味でウスターソースを回しかけるのがポイント」
ぶっちゃけどうでも良い。
「大丈夫。
晩御飯までにはちゃんと戻れるから」
「良かった!
じゃあ少しくらいなら付き合っても大丈夫よ」
「しばらく俺と一緒に寝泊まりして・・・」
「人の話聞いてた!?
『晩御飯までに戻りたい』って言ったのよ!?」
「だから晩御飯までには家まで送るってば。
でもその前に一週間だけ俺と一緒に鍛えて欲しい。
理由は『歌姫』にオマケでついてる『鳥集め』ってサブスキルを上げて欲しいからだよ。
凛火さんには確実に鷲を呼べるようになって欲しいんだ」
「スキル?
『歌姫』?
『鳥集め』?
意味がわからない・・・。
そんな事より一週間後の晩御飯に間に合ってもどうしようもないのよ!
私は『今晩の』晩御飯までに戻りたいの!」
「だから『今晩の』晩御飯までに間に合わせるってば。
それに間に合わせように一週間、スキル上げに付き合って欲しいんだよ」
「?????
貴女自分が如何におかしな事を言ってるか気付いてないの?」
「あ、そうか。
まだ何にも説明してなかった。
ごめん、ごめん。
じゃあ簡単に説明するね。
ここ、地球じゃないから」
「へ?
貴女、今、何て言った?」
「だからここは地球じゃないんだよ。
『異世界』って聞いた事ない?」
「ない・・・」
「ないんかい!
まぁ良いや。
ここは地球とは違う世界なんだ」
「言ってる意味がわかんない。
地球とは違う星って事?」
「この世界が星で出来てるのかどうかも正直わかんないよ。
『科学』ってモノが全く未発達だからね。
自分が今いるところが球体なのかどうかもわかんない。
電気もないよ。
照明は『魔術』って呼ばれるモノで作られているんだ」
「・・・その話を私に信じろ、と?」
あ、俺、今、何でも信じちゃう凛火に疑われてる。
「信じてもらうしかないね」
「それは一旦置いておいて・・・。
『ここで一週間過ごす』って事と『今晩、晩御飯までに戻る』って矛盾をどう説明するのよ?」
「異世界と地球の『時間経過』は連動してないんだよ」
「意味がわからない・・・」
「ここで数時間過ごしたでしょ?
昼頃アパートにいたじゃん?
今、何時くらいだと思う?」
「何時くらいって・・・もうすぐ夕方じゃないの?」
「今、こっちは昼飯時だよ」
「?
何でよ?
そんな訳ないじゃない?」
「そう思うじゃん?
でもこちらは『真っ昼間』なんだよ。
それで日本も今、昼過ぎなんだよ」
「時差があるから日本と時間が
違うのはわかるわ。
でも日本の時間が全く進んでいないのは訳がわからないわ。
そもそも移動時間なんてほとんどないじゃない?
手を繋いで数秒目隠しただけ。
『一瞬目隠しするだけ』で『ワープ』するには充分な時間なんだよ」
「そんなバカな・・・」
「考えてみなよ。
拉致されてワゴン車の中にいたでしょ?
それが一瞬目を閉じたら知らないアパートの中にいたんだよね?」
「・・・そう言えば・・・」
「車の中からアパートに『ワープ』したんだよ。
日本から日本へのワープだから、時間経過には影響はなかったけど、今日本にワープしたらワープする前の時間だよ」
「だったら一旦日本に戻ろうよ」
「だからダメなんだってば。
教団の脅威があるのに無策で日本に戻る訳にいかないでしょ?
その対策をするために特訓しなきゃいけないんだよ。
大丈夫。
何週間異世界にいようが、何ヵ月異世界にいようが晩のカレーには間に合うから。
むしろ安心してカレーを味わうためにも、異世界で特訓すべきなんだってば」
ここまで説得しなくても、凛火に一人で日本に戻る手段はない。
でも凛火には納得の上、特訓に励んで欲しい。
凛火は渋々頷いた。
俺を全面的に信用した訳じゃない。
でも自分を拉致から助けてくれた目の前の少女を信じたいんだろう。




