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リクルーター  作者: 海星
35/94

三十五話

 「ん?『どういう事』って?」とヨーダ。

 こんの野郎、本気で罪の意識がないらしい。

 ・・・まあ俺もポーションがなかったらコイツを蹴り殺してたかも知れない。

 人の事は言えないか。

 「・・・まあ良いや。

 サッサと指名しろ。

 御主人様(クズやろう)!」

 「じゃあ今日は君を指名するよ」

 「はああああああああああ!?」意味がわからない。

 「君の蹴りを受けた時、チラリと白いモノが見え・・・いや、君に運命を感じたんだ!」

 何か一瞬気持ち悪い事を言った気がしたが聞かなかった事にしよう。

 パンツを見せる事がそんなに恥ずかしい訳じゃない。

 しかしヨーダに欲情されてる現実が我慢ならない。

 我慢、我慢だ。

 コイツは俺に欲情して、俺を指名した・・・それだけじゃないはずだ。

 しかし全然考えが読めない。

 「注文はオムライスで。

 ケチャップで文字書いてもらえる?

 書いてもらう文字は・・・」

 「文字はこちらで決める。

 注文は受けない」

 「え、でもここのメイド喫茶じゃ・・・」

 「ここのルールは知らない。

 でも俺がルールだ。

 俺に従え!

 俺を崇めよ!」

 「そんな無茶苦茶な!」

 「何が無茶苦茶だ!

 刃物向けた相手を指名する事より無茶苦茶な話があるか!

 俺が通報しないのは大事にしたくないから、目的があってバイトが中止になったら困るからだ!

 テメーがあんな事あった後にここに来る事も、俺を指名するのも無茶苦茶だ!

 少しは申し訳ないと思うなら俺に従え!」

 この話が通じる相手なら、俺を指名したりしないだろう。

 「本当に山田ちゃんはツンデレだな」とヨーダ。

 全く伝わっていない。

 このバカどうしてくれよう・・・。


 話を聞いて、何で与田(バカ)が俺を指名したのかがわかった。

 昨日メイド喫茶に来た時、俺が与田(バカ)を睨んでいたのをゆかりお姉さまに「何でだろう?」と聞いたらしい。

 諸悪の根源はゆかりお姉さまのミスリードだ。

 「嫉妬ですよ、嫉妬。

 与田様が私を指名したから・・・」

 とんでもないミスリードだが、与田(バカ)与田(バカ)だ。

 ゆかりお姉さまは与田(バカ)が俺を刺し殺そうとした事実を知らない。

 しかし与田(バカ)は当然知っている。

 何せ刺し殺そうとした本人なんだから。

 それだけじゃなく俺に運命を感じたらしい。

 俺は危うく与田(バカ)を殺すところだった。

 むしろポーションがなきゃ与田(バカ)は死んでいた。

 力加減を間違える程度には俺は与田(バカ)を憎んでいる。

 つり橋効果だ。

 死の恐怖を恋愛のドキドキと勘違いするアレだ。

 だから俺に殺されかけた与田(バカ)は俺に『運命を感じる』という錯覚に陥ったのだ。

 その上、ゆかりお姉さまに焚き付けられたのだ。

 ・・・まぁしょうがないのかな?


 「でも指名を乗り換えて良いのかよ?」

 「どういう事?」

 「だって御主人様(カモ)の推しのメイドはお姉さまだったよな?

 推しを俺に乗り換えるんだろ?」

 「乗り換えないよ?」

 「・・・ちょっと意味がわからない。

 乗り換えないなら何で俺を指名してきたんだ?」

 「ゆかりちゃんも山田ちゃんもボクのハーレムの一員なのさ」

 ・・・今、何かとんでもない一言が聞こえて来た気がする。

 「え?

 何て?」俺は思わず聞き返した。

 決して感動して「もう一度聞かせて!」と言う意図で聞き返したのではない。

 「ボクは異世界で勇者になる男だ。

 勇者になってハーレムを築く!」

 ・・・見上げたクズ野郎だ。

 真っ昼間から働きもせずメイド喫茶に入り浸って、将来の夢は『異世界で勇者』だと?

 「御主人様(カモ)は他に『なりたいもの』はないのか?」

 俺は話を変えようとした。

 『これ以上テメーの与太話(ゆめ)は聞きたくない』と。

 「そうだな。

 YouTuberにもなりたいな」

 小学生か!

 現実から目を背けてるだけじゃねーか!

 ・・・病院で『ここではないどこかへ行ってしまいたい』と願った俺も大差ないのだろうか?

 与田(バカ)のステータスを覗いてみる。

 単純な興味だ。

 『与田(バカ)の適職は何なのだろう?』と。

 『適職:受刑者』

 俺は思わずむせ込んだ。

 コイツは塀の外じゃまともに生きていけないらしい。

 そういや、俺を刺し殺そうとしたな。

 ・・・まぁ『適職』は一番向いている職業、というだけの話だ。

 『適職』じゃない職業に従事している人だっていくらでもいる。

 ナオミさんは会社員だったし、ケイは武具屋に勤務していた。

 むしろ、『適職』に就いている人の方が珍しい。

 コイツも臭い飯を食わなくても何とかやっていける・・・かも知れない。

 俺は、コイツが殺人未遂を犯した時に警察に突き出さなかった自分を正当化した。


 俺は気を取り直して席に届けられたオムライスにケチャップで『今すぐ帰れ!』と文字を書いた。

 仕事は仕事だ。

 金を稼いでいる以上、嫌で嫌でしょうがなくてもメイドとして働かなくちゃいけない。

 「今日は特別に『あーん』してやろう」と俺。

 「えっ!?なん・・・」

 「喋るんじゃねえ!

 黙ってオムライスを喰わせやがれ!」

 俺は与田(バカ)の口にオムライスを詰め込む。

 「さぁ、喰い終わったら帰れ!」

 俺は与田(バカ)の口の中に残っているオムライスを熱々のコーヒーを飲ませる事で胃に流し込む。

 俺は目を白黒させている与田(バカ)と腕を組んで無理矢理立ち上がらせる。

 「そーかそーか。

 帰りたいか!」と。

 俺はメイド喫茶の扉から与田(バカ)を叩き出す。

 あ、塩を撒いてないがあんなヤツに塩はもったいない。


 それからは平和なバイトの時間が過ぎる・・・と思っていた。

 「山田様、足は閉じて座った方が・・・」

 「あん?御主人様(テメー)が見なきゃ良いだけの話だろうが。

 見るんじゃねーぞ?

 見たらしばく」

 俺はイライラしていた。

 「何か山田ちゃんイライラしてない?」

 「やっぱり与田様とケンカしたのかしら?」

 「『私だけを見て!』とか、そんな感じかしら?」

 メイド達のひそひそ話が聞こえる。

 そのひそひそ話が聞こえて来る度に俺は更にイライラしてくる。


 あーこれ以上は無理だ。

 今日は客商売なんてやってられる状態じゃねーや。

 本当は『ナツメグ』買えるだけの金があれば良い。

 でも『バイトをバックレる』のが癖になってしまうと、それ以降まともに働けなくなる、なんて話をよく聞く。

 これから真っ当に働くため、生きていくためには『与えられた仕事はやり抜こう』なんて思っていた。

 「体調不良なんで今日は早退させてもらうっす」俺は不貞腐れながらメイド喫茶の休憩室に入る。


 俺は有無を言わせずタイムカードを押して着替えると、メイド喫茶を後にした。


 ・・・と言っても昼間から何をして良いのかわからない。

 暇潰ししようにも金がない。

 昼飯はメイド喫茶のまかないをあてにしていた。

 自販機の釣り銭口と自販機の下を久しぶりにチェックする。

 お、ラッキー!

 500円玉ゲット!

 久しぶりに牛丼でも食おう!

 牛丼屋に入る。

 お嬢様女子高の生徒が制服で一人で牛丼屋に来るのが相当珍しいらしい。

 何か妙にジロジロ見られている。

 見せ物じゃねーぞ?

 「並と卵」

 俺は注文をする。

 汁だくにはしない。

 汁だくにするなら卵は注文しない。

 何故なら汁の熱さで卵が煮えてしまうからだ。

 卵が煮えてしまうと生卵の旨さが半減してしまう。

 最初は普通に牛丼を食べる。

 1/3を食べたところで七味唐辛子をかける。

 『味変』というヤツだ。

 2/3食べた頃に紅生姜をかける。

 最初に山ほど紅生姜をかけるヤツがいるが。

 敢えて言おう『ド素人である』と。

 『味変こそ牛丼の"華"である』と。


 しかしこの身体の燃費の良さは異常だ。

 牛丼一杯で腹一杯になってしまう。

 腹一杯になって少しイライラが収まった。

 少し散歩でもしよう。

 良く考えたら、明るい時間に日本の町をブラつくのは久しぶりだ。

 細かい"やるべき事"はある。

 『ナツメグを買う』がそれにあたる。

 しかし『長期目標』がとりあえず今はないのだ。

 悠々自適、俗に言う『スローライフ』を楽しまなくちゃいけない。

 俺は世界を救わない。

 でも身の周りの人は幸せになって欲しい。

 どこにでもいる小市民だ。

 牛丼屋から出て来ると、男に声をかけられる。

 「牛丼を食べる姿を見て直ぐに気付いた。

 お前は"喰う側"の人間だな?」

 わーい、変なヤツが寄って来た。

 「何故そう思った?」

 「最初から真っ赤になるほど紅生姜をかける輩が最近多い。

 全く・・・義憤に耐えぬ」

 義憤って。

 紅生姜のかけ方に『正義(ジャスティス)』があるのかねえ?

 しかし暇だし少し付き合うとしようか。

 「ならば一つ問う。

 『ネギだく』は是か非か?」と俺。

 「考えるまでもない。

 牛丼の主役はあくまでも肉、ネギなどは肉を引き立てる脇役に過ぎない。

 『ネギだく』は邪道だ!」

 男もまた真の"喰う側"の存在。

 俺は男とガッチリ握手を・・・しなかった。

 だって怪し過ぎだろう?

 いきなり人を呼び止めて牛丼について熱く語ってるんだぜ?

 料理について熱く語って良いのは『美味しんぼ』の世界の中だけだ。

 それ以外の世界で料理についてマジで語ったらアホだと思われるよ。


 「それじゃ、俺はこのへんで・・・」俺はその『変なオッサン』からそそくさと離れようとした。

 「ちょっと待て!」

 俺はオッサンにワンボックスカーの中に引っ張り込まれた。

 俺はワンボックスカーの後部座席に投げ込まれた。

 後部座席と運転席は完全に仕切られている。

 後部座席の扉は内側から開かない。

 『拉致仕様のハイ◯ース』みたいなモノか。 

 別に抵抗しようと思えば抵抗出来る。

 なんなら後部座席の扉を蹴破って外に出たって良い。

 でも無理に外に出る必要なんてない。

 その気になればワープで家に帰れるんだから。

 暗いワンボックスカーの内部を見渡すと、俺の他にもう一人女の子がいる。

 『連続誘拐犯』ってヤツだな。

 別に『変なヤツ』が連れて行こうとしているところに付き合っても良かった。

 『一度行った事があるところ』が増えるという事は『ワープ出来る箇所』が増える、という事だ。

 『変なヤツ』が『十人組の悪党』だとしてゴブリンの集落ほどの脅威じゃないだろう。

 つまり俺の敵じゃない。

 だからコイツらが遠くに俺を連れて行ってくれるならメリットしかない、と思っていた。

 もしコイツがアジトに金を置いてるなら、ふんだくって『ナツメグ』買って異世界に戻れば良い。

 『敵から強奪するのか?それが正義なのか?』

 誰が正義なんだよ。

 そんなモンに興味はないんだよ。

 目の前のヤツを救うのは、救えるだけの余裕があるから。

 救えるのに救わないと喰う飯が不味くなるから、だ。


 だから同じ後部座席に乗り合わせた女の子を気まぐれに助ける。

 理由は『簡単に助けられたから』だ。

 俺は震えている女の子の掌を握る。

 女の子は余程怖いのだろう。

 瞳をギュッと閉じている。

 好都合だ。

 俺は女の子と二人でナオミさんのアパートの部屋にワープする。

 女の子はまだワンボックスカーの後部座席に座っていると思っているようだ。

 実際にはナオミさんの部屋のソファに座っている。

 そっとしておいてあげるべきかも知れないが、ここでは俺は居候だし言わなきゃいけない。

 「そろそろ部屋の中じゃ靴脱いでくれるかな?」

 「へ?

 ここどこ?

 どうして?

 あの人は?」女の子はキョトンと狐に騙されたような顔つきだ。

 『狐に騙された人』を見た事がある訳じゃないがきっとこんな顔なんだろう。

 「もう大丈夫。

 もう車の中じゃないし、安全な場所だから」

 「え?どうして?どうして?」

 普通だったら安心して泣き出す場面だろう?

 何故か余計に混乱してしまったようだ。

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