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金の兎

 はて、と私は首をかしげる。

 いったい何が私の意識を引き上げてくれたのだろう。

 辺りを見渡しても、暗闇と湿った岩肌だけ。

 葉月さんもまだ帰っていない。

 もしやと思って恐る恐る振り返るが、洞窟の奥に動きはない。


(そもそも、何か危ないものがいるのなら、耳のいい葉月さんが先に気づくはず)

 では一体何が?

 再度沈潜(ちんせん)しようとしたとき、リンと洗礼された鈴の音が聞こえた。


「な、なに!? 」

 ぎょっとして、今度は入口の方を見つめる。

 見えるのは、星のまたたく夜空と、蛇のように(ねじ)れたツタ。そして──

「金の……ウサギ?」


 明らかにこの世のものでは無い、金のモヤをまとった手のひらサイズのウサギが一羽、結界の前にいた。

 中を覗こうとするように、後ろ足だけで器用に立つ姿が可愛らしくて、思わず気が緩みそうになる。

(ちょ、ダメだって。どう見てもあれ、術玉だし。危うく(ほだ)されるところだった)


 頭を軽く振って、改めてそのウサギを見つめてみる。

 葉月さんと同じように、神力で輝くウサギ。

 鼻をピクピクさせて、つぶらな二つの瞳がこちらを見ている。

 子うさぎほどのサイズなのに、ほっそりとした顔つきは大人のそれだ。


(ウサギってことは、送り主はそういう系統の妖ってことだよね?うーん、妖の種類とか詳しくないんだけどなぁ)

 パッと思い浮かぶのは、やはりアルミラージだろう。

 葉月さんの義兄弟、タウフィークさん。

 そういえば、彼の神力も金色だった気がする。


(じゃあ、タウフィークさんから?でもウサギの妖って他にもいるだろうし……)

 どちらにしろ、葉月さんが帰ってこない限りは行動に移すことができない。

 それにウサギが前足や鼻先を洞窟内へつっこむたびに鈴が鳴るので、結界がウサギの侵入を(はば)んでいることが見て取れる。

 じゃあ、気にしなくても良いか。そんな気持ちで座り直す。

 けれど、世の中はそんなに甘くないらしい。


 なんと、小さなウサギが結界の中に入ってきたのだ。

「えっ、あれ!?なんで!?結界が通用しないってことは、まさか本物……って、そんなことあるかぁ!!」

 金ぴかのウサギなど、存在してたまるか!

 パニックに陥った私の、怒涛(どとう)のノリツッコミが洞窟内に響き渡る。


 先ほど投げ捨ててしまった思考が戻ってきた。

 タウフィークさんか、否か。

 同色同種の妖も存在するのか。

 そして……そして……

 近寄ってくるウサギの避け方。


 葉月さん曰く、この手の術玉は転送術が施されており、触れてしまうと術者の元に全身丸ごと送られてしまうらしい。

 私は術玉と連絡符の見分けがつかないので、もし仮に葉月さんのいない所で遭遇しても、けして触ってはいけないことになっている。


(約束したっていうより、禁止されたって表現の方が正しいか。何度も『いいですか?いくらモフモフしていても、触ってはいけませんよ!』って言われちゃったもんね)


 師匠の言葉は絶対なので、私はモフりたい欲を抑え込んで立ち上がった。

 だが、そのまま重い体を引きずって洞窟の奥に後じさりすると、ウサギもヒョコヒョコとついてくる。

 右に左に歩くと、やっぱりその後ろをついてくる。


「か……か……可愛い!!」

 うん、負けた。完敗した。

 一歩ごとに揺れる、丸い尻尾のモフモフ感に完全敗北した。

 だって仕方ない。可愛いんだもん。

『見るだけ!あくまで見るだけですから!』

 そう心の中で師匠に呟くと、とうとう私は逃げるのをやめて、ウサギの前にしゃがみ込んだ。


 私の動きにつられたように、狐火も降下する。

「あっ」

 明かりに照らされた金ぴかウサギを見て、私は小さく声を上げた。

 光沢のある黒い毛並みと、紅色の瞳。

 よく知っている色と、まるで攻撃するつもりのない雰囲気で確信した。

 タウフィークさんだ。


「えっ?」

 不意に、とても戸惑ったような声が聞こえた。

 顔を上げると、枝やら何やらを抱えた葉月さんが、口をポカンとさせて佇んでいた。

 大きく見開かれた目線の先には、あの金ぴかウサギ。


「なぜタウフィークの連絡符がここに……」

 すっかり困惑している葉月さんの元に、ウサギがピョコピョコと近づいていく。

 その様子を見守りながら、私は首を傾げた。

「もしかして、結界って顔見知りの妖には効かないんですか?普通に入ってきちゃいましたけど」

「いえ、そんなはずは……」


 ──ないのですけど。尻すぼみになった声が、確証のなさを表していた。

 かといって結界が不発だったわけでもないようで、二人してしげしげとウサギを見下ろす。


 しばしの沈黙ののち、葉月さんは膝をついてウサギに手を伸ばした。

 その手に乗っかったウサギが、瞬時に紙片へと変わる。

(あぁ、モフモフが……)

 少し残念な気持ちになったことは内緒だ。


 紙を懐に忍ばせた葉月さんは、荷物を抱え直して立ち上がった。

「連絡符のことは一旦置いておきましょう。まずは傷の手当をしなければ」

 その言葉に頷いて、洞窟内の入口に戻る。

 いつの間にか、私の周りを舞っていた狐火は仕舞われていた。


島のお話長いなぁ( *¯ㅿ¯*)

あと3話ですので、もうすこ〜しお付き合いくださいませ。


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