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ラベンダー畑と翡翠

新年明けましておめでとうございます!

月結びシリーズを読んでくださっている皆様、いつもありがとうございます( ˵・・˵ )

本年もよろしくお願いします。

「なんでお前ら、そんなにげっそりしてるの? 」

 不思議そうに首を傾げる男性陣から、私たちは何も言わずに目を逸らした。

 それというより、恥ずかしくてまともに顔を合わせられなかった、という方が正しいだろうか。


 昨晩、私たちは深夜のテンションに呑まれたまま、互いの好きな人を告白した。

 そうしてようやく床に就いた頃には、夜明け烏が鳴く刻限だった。

 恋バナ恐るべしだ。


「ええと、今日はどこに行くんだっけ? 」

 男女間に漂った変な空気を打ち消すように、明日香が尋ねる。

「今日はラベンダー畑に行って、その後近くの定食屋で昼飯食って、土産買う感じかな」

 ガイドブック片手に拓真が答えた。

 トレードマークの眼鏡が、生真面目な彼の性格を体現しているように見える。


【土産】という言葉を耳にした私の脳に、くるんくるんと回されるワイングラスが浮かんでハッとした。

(……あ、レオドール様のビール買わないと。忘れてた)

 そう心の中で呟くと、あのダンディな面相が脳内で不機嫌そうにしかめられた。


 それから一時間後。

 予定の確認を終えた私たちは、結構な道のりをレンタカーで移動し、お目当ての場所にやってきた。

 旅館周辺のおもむき深い雰囲気とは打って変わり、辺り一面が紫と緑に染まっている。

 爽やかな風が吹く度に、ラベンダー特有のしっとりとした甘い香りが漂っていて、心が安らぐのを感じた。


「私、ラベンダーの生花を初めて見ました。桃源郷にも花畑はありますけど、ここまでのは……。これは圧巻ですねぇ」

 葉月さんが感心したように言った。

 皆思い思いにラベンダーを堪能しており、傍に私しか居ないので、声量はふつうの大きさだ。


「桃源郷にはラベンダー畑はないんですか? 」

 そう尋ねると、葉月さんは残念そうに眉を下げて頷いた。

「ええ、残念ながら。ラベンダー自体は存在しているのですが、市場に出回るのは乾燥させたものばかりで」


 ふと、仕事帰りに立ち寄った天中の小間物こまもの屋さんのことを思い出した。

 確かにかんざしやくしに紛れてラベンダーや桜、きんもくせいの匂い袋が売られていた覚えがある。

 葉月さんから香るひのきが、趣味でいている香であることを知ったのもこのときだ。


「そういえば、薬草としてもお香としても使われているものってあるんですか? 」

 ふと思いついて聞いてみる。

 思えば、こうやって葉月さんから教えを乞うことも、現世に来てめっきり減ってしまっていた。

 質問を受けた葉月さんも同じことを思ったのか、「久々ですね」と微笑んだ。


「有名なものだとセイロンけい……英名でいうシナモンですね。洋菓子にも使われるので、わりと馴染み深い香りです」

桂枝茯苓丸けいしぶくりょうがんとか、五苓散ごれいさんにも使われるやつですよね! 」

 自信満々に言い切ると、葉月さんは「そうですね」と目を細くして首肯した。


 ちなみに、葉月さんが独自に配合して煎じたものを以前飲ませてもらったが、とても美味しかった。

 現世で飲むチャイティーよりもまろやかで飲みやすく、何度でも飲みたくなる味だ。


(また飲みたいところだけど……常世の安全が確認できたら、葉月さんは帰っちゃうんだよね。そうしたら、もう一生会えないのかな)

「……それは嫌だなぁ」

「え? 」

 聞こえるか聞こえないかというほどの声量で呟いたのに、耳ざとい彼には聞こえてしまったようだ。


「どうかなさいましたか? 」

 そう尋ねられて、私は目を揺らがせた。

 帰らないで欲しいと口にするのは簡単だ。

(でも…………)


「あの、結奈さ──」

「結奈! 麗! こっちに雑貨屋さん見つけたよ! 」

 何か言いかけていた葉月さんが、明日香の声に口を閉ざす。

 数秒ほどお互いに見つめ合うと、どちらともなく歩き出した。


「ビールを買わなければいけないこと、思い出しました」

 ただ一言、付け足したように葉月さんが呟いた。

 やはりビールは忘れられがちのようだ。


 明日香の見つけた雑貨屋さんは、丸太を積み上げて作ったような、小さくて可愛らしい外観のお店だった。

 中もこぢんまりとしていて、温かみのある雰囲気だ。


(わぁ! この石、葉月さんの神力と同じ色だ! )

 ゆっくりと店内を回っていた私は、木箱に入れられたエメラルド色のペンダントに引き寄せられるようにして足を止めた。


 水滴型に水晶の装飾があしらわれた、至ってシンプルなデザインだ。

「あれ? 結奈って緑好きだっけ? 」

 じっと覗き込んでいると、横から麗が尋ねた。


「え!? あ、うん。好きだよ」

 曖昧に笑いつつ、私は火照ほてる顔を俯かせた。

 いやに好きという言葉が口に残る。

(好きって、別にそういう意味で言ったわけじゃないのに。あぁ、もう! なんか恥ずかしくなってきちゃった!! )

 手にしているのも居たたまれないなり、元の場所に戻そうとしたとき。


「結奈さんに良くお似合いだと思いますよ」

「ひゃあっ!! 」

 耳元で囁かれて、私は飛び上がって驚いた。

 私の手元を覗き込んでいたのは、にこにことほほ笑みを浮かべている葉月さん。


 思ったよりも距離が近くて、心臓が驚きとは違った拍動を刻み始める。

(び、びっくりしたぁ。私にお似合いって……別に深い意味は無いってわかっているんだけど、どこか期待しちゃう自分がいるんだよね)


 意中の相手の些細ささいな言葉や行動で一喜一憂する自分の姿は、実に滑稽こっけいなことだろう。

 だが、これが恋だ。

 いつだって余裕はないし、心は不安でいっぱい。

 ときには自分の嫌なところを知ってしまうことだってある。


 自分の想いを伝えることで、優しいあのひとを困らせたくないと思うのに、この想いを一生背負って生きていくのも辛くてできない。

 巡ってはせめぎ合う二つの矛盾に押しつぶされそうだ。


 手にしていた翡翠を一つ撫でて、私はそっとペンダントを元に戻した。

(苦しいなぁ。いっその事、この翡翠と一緒に置いて行けたらいいのに)

 そんなことを思いながら、私は振り切るようにその場から立ち去った。


片思いは楽しいけれど辛いよねってお話。

告白をする側も、告白をされる側も、成功しない恋愛はどちらも辛い。

でも伝えなければ進むことはできない。

だからこそ思うのです。両想いって奇跡なんだなぁと。(結局これが言いたいだけ)

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