本心
救護室の風景から打って変わって、畳の敷かれた部屋が眼前に広がる。
広縁から見えるライトアップされた日本庭園や、室内の柔らかい行燈の光が、何とも幻想的な雰囲気を醸し出していた。
非日常的な景色なのに、何故だか家に帰ってきたような気持ちになる。
「なんかさぁ、生まれてからずっと洋室で暮らしてきたのに、和室に居ると安心するのってなんなんだろうね」
だらりと敷布団に寝っ転がりながら、私の気持ちを代弁するように明日香が言った。
「うーん、やっぱり日本人だからじゃない? 」
続いて、麗が答えになっていない返答をする。
こちらも同じく布団に突っ伏していた。
「二人ともだらけすぎだよ〜」
そう突っ込んだ私も、やはり同じような格好で部屋を眺めていた。
「仕方ないじゃない。私たちは疲れているんだから。あんたが突然失踪したりするせいでね」
「うっ……面目次第もございません」
麗からの鋭い一撃に身をすくめつつ、私は数時間前のことを思い出した。
葉月さんと二人で話し合ったあと、麗たちと出入口の前で合流した。
ずっと救護室にいた私たちとは違い、彼らは一通り動物園を満喫したようで、腕や手にはそれぞれお土産の袋がぶら下がっていた。
「まったく。一番楽しみにしていた人が迷子になるなんて、一体どういうことよ」
「それとお前! 連絡先交換していないのに勝手に単独行動するなよ! 」
呆れたように私に言う麗と、一人で探しに行ってしまった葉月さんを叱る翔月。
皆には随分と心配をかけてしまったようだ。
(その割には楽しんでいたみたいだけど! )
こうして二人のお小言を頂戴しつつ、私たちは動物園を後にした。
あまり回れていなかった私に気を遣ってか、皆はもう少し居ようと言ってくれたのだが、丁重にお断りした。
日がだいぶ傾いてきたので仕方ない。
月が出れば葉月さんの神力が光ってしまい、それこそ旅行どころではなくなってしまうのだから。
そんなこんなで今、私たちは寝支度を済ませて、ピロートークなるものをしている。
夕食も温泉も素晴らしくて、そしてとてつもなく豪華だった。
ロビーの感じからして想像はしていたが、やはりここはかなりの高級宿のようだ。
因みに、男性陣は一つ下の階で、自室を持っている翔月以外の三人で泊まっている。
葉月さんがあの二人と馴染めるのか、少し心配だ。
「それで? 二人ともどうなの、最近」
藪から棒に、明日香が尋ねてきた。
ニヤニヤと意味深な笑みを浮かべているので、何を聞きたいのかはすぐに見当がついた。
旅先のガールズトークの内容など決まっている。
そう、恋バナだ。
「うわっ、ベタねぇ」
そう言いつつも、麗が体を起こした。
呆れたような表情とは裏腹に、結構乗り気なようだ。
「今回の旅行メンバーには男子が四人いるわけだけど……やっぱり優良物件といったら翔月じゃない? ほら、お金持ちだし」
「ちょっと麗、お金持ちだからって理由で選んじゃダメだよ。性格の悪い人だっているんだからね? あと翔月に失礼だぞ! 」
文句を言いつつ、私も上体を起こす。
「まあ、それはそうなんだけど。でも翔月は性格もいいでしょ? 」
両腕で枕を抱えながら、明日香が私に向けて言った。
「うん。翔月は優しいし、気配り上手だよね」
「じゃあ好き? 」
間髪入れずに聞かれて、思わず変な顔になってしまった。
【好き】という感情には二種類ある。
人としての【好き】か、異性としての【好き】か。
翔月のことは確かに好きだが、明らかに前者の方の【好き】だ。
それ以上でも以下でもない。
そう伝えると、二人は残念そうな表情を浮かべた。
「あらら、これは望み薄か」
「何が望み薄なの? 」
麗の呟きを耳が捉えて、私は首を傾げた。
「そりゃあ、翔月の恋心が成就する可能性が、よ。この感じじゃ気づいていなかったわね」
誰が誰の、とは聞かなかった。
ここまで来れば流石にわかる。
「それじゃあ、もしかして、この旅行って……」
真っ青になった私に、麗と明日香がニタリと口角を上げた。
「そう、翔月と結奈の恋愛成就への旅よ」
「たった今、失恋に向けてボンボヤージュしちゃったけどねぇ」
──翔月が、私のことを?
今度は顔が熱くなってきた。
異性に好意を向けられるという経験が乏しい故の、我ながら初々しい反応だ。
「二人はその……協力者なの? 」
火照る頬をぺたぺたと触りながら、私は二人に尋ねた。
「そうだよ。ようやく覚悟を決めたけど、引き返さないように背中を押してほしいって言われて仕方なくね」
「意気地がないわよねぇ。まあ、分からなくもないけど」
二人の言葉に、私は深く考える。
(いつから? 全然気が付かなかった。それどころか、恋愛成就の旅に好きな人を連れてくる私って一体……。しかも、動物園では葉月さんばかり見ていたし)
嫌な思いをさせてしまったか、と頭を抱えかけて、しかし思いとどまる。
私が葉月さんを好きなのは変わらない。
だから翔月の想いには答えられない。
(つまり、私はどうやっても翔月を傷つけちゃうんだよね)
そんなことをモヤモヤと考えている間に、いつの間にか理想の彼氏像の話題に移り変わっていた。
「私はやっぱり年下がいいわね。少し頼りない感じの」
姐さん体質の麗は、やはり引っ張っていきたいタイプのようだ。
確かに、今まで付き合っていた人たちは年下が多かった。
「うーん、私は年齢とか気にしないかなぁ。でも、落ち着いた性格の人がいいな。それでもって、皆のまとめ役って感じで……」
「おやぁ? 明日香さん、それってもしかして泰智のこと? 」
「あらあら、明日香も隅に置けないわねぇ」
すかさず横槍を入れる私に、麗が便乗してきた。
慌てて否定する明日香と、それをイジる私と麗。
こうやってキャーキャー騒ぐところが、ガールズトークの醍醐味と言っても良いだろう。
──ただし、楽しいのは自分に番が回ってくるまでだが。
「それで、結奈は? 」
まるで餌を見つけた鷹のように、二人の目がギラりと輝いて、私は途端に逃げ出したくなった。
ゆるゆる〜の内容の割に500字もオーバーしちゃいました(笑)
話の流れもかなりぶつ切り状態で、なんというか……閑話のようなノリになってしまったぁぁあ!
でも書いている本人は楽しかったデスヨ( ᵕᴗᵕ )
次回はとってもロマンチックなお話──の欠片のようなお話です!ワクワク




