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ムーンライト荘

私達は現在寮の廊下を歩いている。

寮にはエレベーターがついているが、私の部屋は三階なので階段を使っている。それに角部屋の為、階段からの方が部屋に近いのだ。

おっと、イメージを膨らませて貰うために少しこのムーンライト荘について説明しておこう。


ムーンライト荘は、6階建ての寮だ。前回マンションに例えたが、どちらかと言えばホテルに近い。一階はロビーで、個人の部屋は二階からだ。女子魔法学園には色々な寮があるが、このムーンライト荘はその中でも一番シックで上品な印象の寮だ。私はこの落ち着いた雰囲気が気に入ってここを選んだのだ。

寮の周りにはぐるりと堀が掘られていて、透き通った水がその中を満たしている。夜になると水底がライトアップするので幻想的な感じになる。

そして廊下と言っても壁と天井があり、絨毯が敷かれている。私達が今歩いているところもそんな感じである。


「へぇ…秀美さんは305号室なんですね!私は一階上の405号室なんです。」

私が鍵を開けていると、綾香がそう言った。

まさか上の階が綾香だったとは。たまにバタバタうるさいのを注意した方が良いだろうか?

 エレベーターに近い部屋から順に、301、302…といった風に続き、各フロアは五部屋ある。つまりこの寮には25人が住めるということだ。


「では、また明日。」

綾香と別れ、部屋に入って一息つく。

私はソファに腰を下ろし、明日の時間割を確認すべくクラスで配布されたプリントを手に取った。そのときだった。


「たっだいまーーー!」

バン!と突然私の部屋のドアが開き、一人の少女が入ってきた。

……しまった。鍵をかけるのを忘れていた。

少女はフンフンと鼻歌を歌いながらそのまま中へ侵入してきた。そしてハタと私を見て固まった。


「ああーっ!間違えたっ!ここ違う人の部屋じゃん!私一個隣だ。ごめんなさーい!」

その少女はピンクのショートカットに赤い目をしていた。その容姿を見た瞬間、私は彼女にリーダーの素質があることを見抜いた。何故かって?魔法少女に限らず、戦隊モノでもリーダーはピンクか赤のキャラだと決まっているからだ。

謝ったにもかかわらず、少女はすぐ部屋を出ようとしなかった。そしてこれも何かのご縁と言って私に手を差し伸べた。

「驚かせてゴメンねー。あたし、進藤里奈(しんどうりな)!あなたは?」

「…気にするな。私は佐藤秀た…秀美だ。宜しく。」

私もその手を握り返して答えた。お隣さんだ。仲良くしておいた方が良いだろう。

里奈はフフフと嬉しそうに笑った。

「うんうん。宜しくね!」

そして何かもの言いたげにじっとこちらを見つめる。


「どうした?何か用があるのか?」

里奈は俯いてボソボソと「青色のクールキャラ…これはいける…。」と独り言をつぶやいた後、パッと私の方に顔を向けて言った。


「初対面でいきなり悪いんだけど…私とチームを組んでくれない?」



○○


私は適当に紅茶を入れ、里奈と向かい合わせに座った。

「あ、この紅茶おいしー。」

里奈がズズズと一口飲むのを待ってから、私は口を開いた。


「それで…チームとはなんだ?」

「あれ、知らないの?チームっていうのはね…」


 里奈の話をまとめるとこうだ。

この学園の一年生は、色々なことで動きやすくするため必ず最初にチームというものを組まされるらしい。とりあえず三人以上八人未満だそうだ。ちなみに学年が上がるごとにチームを崩しても良くなり、二年は二人以上、三年は単独行動が可能になる。

チームにクラスは関係なく、里奈は1-Aだが私と組むことは出来るらしい。


「多分明日にでもチームを組まされると思うよー。ぼっちだったら辛いから、今日中に何とか三人集めたかったの。秀美ならキャラ被りもなさそうだし、同じ寮だしいいかなって!」


この子は何を言っているのだろう。しかし、向こうから誘ってくれるなら願ったり叶ったりだ。

「ああ、いいだろう。私も何もあてがなかったところだ。」

私が了承すると、里奈は

「やった!これで三人揃った!待ってて、もう一人のコも呼んでくる!」

と言って立ち上がった。待て、もう既に1人いたのか。


「うん、私の隣の部屋の子。303号室のね!あ、もしかして秀美、もう一緒になる子決めてた?八人までオッケーだし、心当たりがあるなら連れてきていいよ!」


 心当たりか……。ふと綾香が思い浮かぶ。一応誘ってみるか。

 

 里奈は303号室、私は405号室へそれぞれ呼びに言った。ドアベルを鳴らすと、すぐに綾香がひょこっと顔を出した。

「まぁ、どうしたんですか?」


私はかくかくしかじか、これまでの事を説明した。


「それは知らなかったです。誘ってくれてありがとうございます!」

そしてまた綾香を連れて自室に戻った。



○○


私は紅茶を追加した。部屋には私を入れて四人が座っている。

里奈が連れてきたのは、くるくると巻いた紫の髪をした少女だった。


「この子は山城未優(やましろみゆう)ちゃん!」

と里奈が紹介する。

「はぁーい!みゆみゆでーす!宜しくねっ♪」

と未優が立ち上がって目の横でピースする。…すがすがしいほどのぶりっ子キャラだった。


「うふふ、未優ちゃん!あんまりぶりっこしてるとシバくよ?あたしそういうの嫌いなんだー♪」

「いやん、りなりな恐ーい!」


この二人のやり取りはなんだ。仲が良いんじゃないのか?


「ああ、うん。一昨日間違って未優の部屋に入っちゃったんだ。その時に会ったの。」

と里奈が説明する。おい、何度部屋を間違えるんだ。


綾香がオロオロしていたので私も彼女を紹介した。


「綾香ちゃんか!よろしくね!」


どうやら皆仲良く出来そうだ。



○○


その後は色々と雑談していたが、私は明日以降の懸念事項、魔法について皆に尋ねることにした。皆は何故魔法が使えるのか。いつどこで習ったのか。


「私はお母さんに教えてもらいましたよ。」

と、綾香が言った。


「あたしは塾―。」

「みゆみゆも塾だよ。」

そんな塾があるのか。初耳だ。

私は正直に、実はひとつも魔法が使えないことを打ち明けた。


それを聞いて、

「だったらみゆみゆが教えてあげるー!」

と未優が手を挙げた。そして、

「みゆみゆは魔法のエリートなのです!」

とポーズを決める。エリートか……。魔法に関して私はエリートでもなんでもない。非エリートだ。いや、エリートの打消し語はこれでいいのか?未エリートか不エリートか……。


「…で、秀美はどんな魔法が使いたいの?」

未優を押しのけて里奈が尋ねる。


「なにか魔法少女らしくビームとかを出したい。愛のチカラは悪に勝つ!みたいな。」

私がそう言うと、未優はフッと鼻で笑った。

「なにそれー。秀美たん、夢見過ぎ~!現実はそんなに甘い感じではないのです!」

未優がそんな事を言うとは意外だ。そして心外だ。それこそが私の憧れる魔法少女像なのだ。


「秀美さんは青色だから水系魔法が良いんじゃないですか?」

と、綾香が非常に安直な事を言う。しかし、とにかく何でもいいから少しでも皆に追いつきたい。


「じゃあ、早速明日みゆみゆが魔法教えてあげる!大丈夫!みゆうは優しいから!明日の放課後1-Bで待っててね!」

未優のクラスは1-Bらしい。それより、彼女が優しいかどうかは疑わしい。未優って優しいの前に打消し語がついているではないか。



「それじゃあ、秀美がどんな魔法使えるようになるか楽しみだねっ!……あっ、もうこんな時間だ!」

里奈が立ち上がり時計を見る。針は六時を回っていた。


そしてその後、彼女は恐ろしい事を提案した。


「ねぇねぇ、折角だからみんなで一緒にお風呂行こうよ!」


「あっ、いいね!みゆみゆさんせーい。」

「じゃあ私、上から着替え持ってきますね!」

残りの二人もノリノリで答える。

……どうしよう。この流れは予想していなかった。


……どうしよう。



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