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婚約破棄を告げられたので、あなたの目の前で死ぬことにいたしました  作者: トモエ


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5/5

最終幕

アルフレッドについては、リリアからの未開封の手紙が発見された時点で、聖女を信じ込み『利用された側』という見方が強まっていた。


もちろん責任が消えたわけではない。

婚約解消を独断で進め、公爵令嬢の救護を怠った。医師を呼ばなかった。事件を隠そうとした。王位継承者としての判断能力には、致命的な問題がある。


国王は評議会で言った。


「優しい人間であることと、良い王であることは同義ではない」


誰も反論しなかった。


「人の気持ちを思いやることは美徳だ。しかし、すべての人間を傷つけまいとして決断を避け、結果として最も大きな傷を生む者に、国は任せられない」


アルフレッドは王太子の身分を失った。ただし殺人共謀については、リリアに騙されていた可能性が高いとして、罪には問われなかった。そして王都から遥か遠方、国境近くの離宮へ、事実上の永久追放となった。


王位継承権は剥奪。

王都への帰還は禁止。

政治への関与も認められない。

側近も最低限。


「……分かりました」


アルフレッドは判決を受け入れた。疲れ切っていた。リリアが処刑され、エレオノーラは心を壊した。王位も失った。何も残っていない。


王家はこれから、アルフレッドに代わって第二王子を新たな王太子に立て、その婚約者の選定や各家との調整に追われることになる。王太子の廃嫡によって生じた混乱を収めるため、王宮には慌ただしい日々が待っている。


彼は自分の愚かさがすべてを壊したのだと思った。

その認識は、半分だけ正しかった。


一方、エレオノーラの身体も、すぐに元へ戻ったわけではない。


傷そのものは塞がっていたが、長く起きていれば顔色を失い、食事も以前の半分ほどしか取れなかった。王家から使者が来た日は特に酷く、夜まで寝込むこともあった。


そんな彼女の傍には、いつもマリアがいた。食べられそうなものを少しずつ用意し、薬の時間を管理し、夜中に目を覚ませば黙って温かい飲み物を差し出した。


マリアの態度は何一つ変わらなかった。むしろ以前よりも注意深く主人の顔色を見ていた。


「今日はもう、お休みくださいませ」

「まだ大丈夫よ」

「大丈夫と仰る方ほど信用できません」

「まあ」


エレオノーラが小さく笑う。その笑顔を見られるだけで、マリアには十分だった。


だが家族や王家の者たちには、エレオノーラの心はまだ過去に囚われているように見えていた。


ある日、公爵夫人が彼女の部屋を訪れたときだった。机の上に、小さな箱が置かれていた。かつてアルフレッドから贈られた、押し花が収められている箱だった。


「まだ、持っていたのね」


母の声に、エレオノーラはしばらく黙っていた。


「……捨てられませんでした」


それだけ言って、箱を閉じる。公爵夫人は何も言えなかった。王妃から届けられた見舞いの品の中に、アルフレッドが幼い頃好んでいた菓子が入っていたこともあった。それを見たエレオノーラは、ほんの少しだけ目を伏せた。


「殿下も、まだお好きかしら」


その一言は、後に王妃の耳にも入った。王家からすれば、それは胸を締めつけられる話だった。自分を捨て、死の淵へ追いやる原因となった男を、それでもなお忘れられない。公爵夫妻も同じように考えた。だからこそ、誰もアルフレッドの話を積極的に口にしなくなった。


エレオノーラが王宮を怖がった。

王都を怖がった。

人の多い場所を怖がった。


それでも、アルフレッドのことだけは完全には手放せないのだと、誰もが思っていた。


そしてある日、医師が言った。


「静かな地方で長期療養されるのがよろしいかと」


公爵は即座に賛成した。


「どこがいい」

「温暖で、人が少なく、王都から離れた場所を」


エレオノーラは父の腕に縋り、消え入りそうな声で言った。


「……やっとね……」


そして、ある領地が候補へ上がった。国境付近で王都から遠く、自然が多く、静かな土地。


「ここなら……」


エレオノーラは地図を見て、微笑んだ。


「ここは…」


公爵は地図へ目を落とし、ほんの一瞬だけ言葉を止めた。そこが、アルフレッドのいる離宮からそう遠くない土地だと気づいたのだ。だが、半年ぶりに見た娘の微笑みを前にして、その懸念を口にすることはできなかった。


「ここにしよう」

「お父様……」

「屋敷を建てる。好きなだけ静養すればいい」

「ありがとうございます」


エレオノーラは、心から父へ感謝した。


半年後、王都から遠く離れた離宮。アルフレッドは庭園のベンチに座っていた。王太子だった頃とは比べものにならないほど質素な生活だった。


側近の多くも去った。ユリウスも実家へ戻されている。リリアもいない。何もかも失った。


けれど最近になり、ようやく思う。自分は確かに、間違えていたのだろう。エレオノーラなら分かってくれる。彼女は強い女性だから。リリアは孤独だから守らなければならない。そう決めつけていた。エレオノーラだって傷つく。当たり前のことを考えなかった。


「…謝りたいな」


許してもらえるとは思わない。それでも、一度きちんと謝罪したかった。そのとき。


「でしたら、直接おっしゃればよろしいですわ」


聞き覚えのある声がした。アルフレッドが振り返った。


白い日傘。

黒いドレス。

銀色の髪。


「…エレオノーラ?」


彼女が立っていた。


「どうして」

「お久しぶりでございます、アルフレッド様」

「なぜここに?」

「療養に参りましたの」


にっこりとエレオノーラが笑う。


「この辺りは空気がよろしいのでしょう?」

「……そうだが」

「お父様が、別荘を建ててくださいましたの」

「……どこに」


エレオノーラが指を差した離宮から森を挟んだ丘。確かに以前はなかった屋敷が見える。


「まさか」

「はい」


エレオノーラは嬉しそうに笑った。


「毎日会えますわ」


アルフレッドの顔が引きつった。


「エレオノーラ。私たちはもう婚約者ではない」

「存じております」

「私は王太子でもない」

「存じております」

「王にはなれない」

「存じております」

「君が私といる理由なんて――」

「あら」


エレオノーラが一歩近づいた。


「まだお分かりになっていないの?」


アルフレッドが黙る。彼女は彼の頬へ手を伸ばした。触れる寸前、アルフレッドがわずかに身体を引いた。その反応を見て、エレオノーラは目を細める。


「私は王太子殿下を愛していたのではありません」

「……」

「アルフレッド様を愛しているのです」

「だが私は、君を捨てた」

「はい」

「君を死なせかけた」

「はい」

「憎くないのか?」

「まったく」


即答だった。


「私はね、アルフレッド様」


エレオノーラは少しだけ首を傾げた。


「あなたが私を嫌いでも構いませんの」

「……え?」

「私を愛してくださらなくてもいい」


微笑んでいる。なのにアルフレッドは、なぜか逃げ出したくなった。


「だって」


エレオノーラは囁く。


「もう誰とも結婚できないでしょう?」


王位を失った元王太子。重大な不祥事を起こし、監視下に置かれた王族。


王位継承権はない。

王都にも戻れない。

政略結婚の駒としての価値もない。


「聖女様もいません」

「……」

「王宮にも戻れません」

「……」

「側近もいません」


一歩、彼女が近づく。アルフレッドが一歩下がる。


「ここには私しかおりません」

「待て」

「大丈夫ですわ」


エレオノーラは笑った。六歳の頃、初めてアルフレッドと会った日と同じような笑顔だった。


「今度は死んだりいたしません」

「……」

「あなたがお爺様になるまで」


一歩。


「ずっと」


一歩。


「ずっと」


アルフレッドの背中が木に当たった。逃げ場がなくなる。エレオノーラは両手を胸元で組んで、幸せそうに笑った。


「お傍におりますから」


その日の夜。アルフレッドは父である国王へ一通の手紙を書いた。


―ヴァレンシュタイン公爵令嬢が離宮付近へ療養に来ています。


返事は三日後に届いた。短かった。


―エレオノーラ嬢の療養を妨げることだけは許さん。節度を持って接せよ。


アルフレッドは頭を抱えた。父は彼女を、心の壊れた被害者だと思っている。当然だった。アルフレッド自身、そう思っているのだから。


翌朝、離宮の食堂へ行くとエレオノーラがいた。


「おはようございます、アルフレッド様」

「どうやって入った?」

「料理長にお願いしましたの」


テーブルには焼き菓子が並んでいる。一口食べる。甘さは控えめだった。昔からアルフレッドが好きだった味。


「……エレオノーラ」

「はい?」

「私は君を愛せないかもしれない」


彼女は微笑んだ。


「構いませんわ」

「一生」

「構いません」

「それでも?」

「ええ」


エレオノーラは紅茶を注ぐ。


「人生は長いですもの」


ことり、と彼の前にカップを置く。


「五十年ほど一緒にいれば、気が変わるかもしれませんでしょう?」

「変わらなかったら?」


エレオノーラは少し考えた。


「そのとき考えます」


アルフレッドは悟った。この女は本気だ。


聖女との恋に浮かれ、長年の婚約者を傷つけ、王太子の地位を失い、何もかもなくなった果てに、なぜか人生で最も逃げられない女だけが残った。


「アルフレッド様」

「……なんだ」

「今日も愛しております」


それから何年経っても、エレオノーラは毎朝、同じことを言ったという。


アルフレッドがいつの日か、それに「私もだ」と答えるようになったのか。最後まで答えなかったのか。それを、エレオノーラは誰にも語らなかった。


もっとも彼女にとって、それはさして重要なことではなかったのだから。

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ヤンデレやべええええ!!!GJです!!w 愛する相手にはひたすら重い愛を与えつつも直接は傷付けず、泥棒猫には真っ黒な有能ヤンデレって大好きですw
ヤンデレヤヴェーコエー!w 性女は阿呆だったばかりに命を落とすことになったけど、同情の余地は無いな。周りを騙し過ぎ。 元王太子は馬鹿なことをしたけど、処刑されずに済んだんだからしっかり死ぬまで令嬢の…
イイハナシダナー
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