第1章 夢
目を覚ました瞬間、銃口が見えた。
「……え?」
寝ぼけた頭では、何が起きているのか理解できなかった。
見慣れた天井。
いつものベッド。
机の上には、昨日の夜に置きっぱなしにしたスマートフォン。
何も変わっていない。
――ただ一つを除いて。
ベッドの周囲に、黒い服を着た人間たちが立っていた。
顔は覆面で隠されている。
手には銃。
その立ち方も、動きも、素人のものではなかった。
まるで特殊部隊。
「……誰?」
声が震えた。
一番近くにいた男が、一歩前へ出る。
「起床を確認しました」
「何なんだよ……」
「あなたには、国に対する未払いがあります」
「……は?」
「総額――三億円」
頭が真っ白になった。
「待って。俺、そんな金……」
「知っています」
男の声には感情がなかった。
「あなた個人が三億円を借りたという話ではありません」
「じゃあ何なんだよ!」
「あなたが生まれてから今日まで、国から受け取ったもの。それらをすべて換算した金額です」
「……そんなの」
「返済期限は三日後」
男が時計を見る。
「期限までに返済できなかった場合」
銃口が、ゆっくりこちらを向いた。
「あなたは殺されます」
「……やめろよ」
「これは夢ではありません」
そう言った瞬間、男の姿が歪んだ。
部屋が崩れる。
床が消える。
音が遠ざかる。
そして――。
目を覚ました。
「……っ!」
ベッドから飛び起きる。
荒い息。
心臓が激しく鳴っている。
部屋を見る。
誰もいない。
銃もない。
いつもの部屋だ。
「……夢か」
額の汗を拭う。
「怖い夢だったな……」
そう呟いて、ベッドから降りた。
その瞬間。
視界の中央に、奇妙な文字が浮かんでいることに気づいた。
**−¥300,000,000**
「…………」
瞬きをする。
消えない。
目をこする。
それでも消えない。
「……何だよ、これ」
数字は、自分の胸元に重なるように浮かんでいた。
嫌な予感がした。
そのとき。
「おはよう」
母親が部屋に入ってきた。
「……おはよう」
母親を見る。
そして、言葉を失った。
母親の横にも数字が浮かんでいた。
**¥200,000,000**
「……母さん」
「ん?」
「いや……何でもない」
母親は不思議そうな顔をした。
俺はもう一度、自分の数字を見る。
**−¥300,000,000**
夢と同じだった。
ただの夢ではなかった。
そのことに気づいた瞬間、背中が冷たくなった。




