始まり、それは王の片鱗
最近麻雀にハマりまして、猛烈に書いてみたくなりました。まぁアカギと哭きの竜の影響が強いですね。
では私から一言、賭け麻雀は犯罪です。
___1975年 昭和50年
この時代の日本は、戦後から早30年が経ち、敗戦からの復興と成長、そしてそれを阻止するが如く、オイルショックによる不況、さらに回復と、目まぐるしい時代を歩んでいた。
そして、また新たな変化への可能性を孕んでいた時代でもあった。
*
その男の父親は至って普通のサラリーマンだった。
決して高給ではないが、真面目に仕事をし、6歳になる息子と妻の3人で暮らしていた。
しかし、2年前のオイルショックにより、会社の経営はほぼ垂直な右肩下がり。
クビになり、収入は0へ。
父親は無職になったその日から、ヤケ酒しては家族に暴力を振るった。
妻は最初こそ我慢して、何も言わずに家庭のために働いたが、そのほとんどは酒代に消えた。
その後、妻は愛想を尽かして、夜逃げするように出て行ってしまった。
妻がいなくなり、酒が買えなくなると父親はギャンブルで稼ぐようになった。
夜の街へ子供を連れまわし、パチンコ、競馬、競輪など、時には非合法の賭場に足を運ぶこともあった。
もちろんプロでないので、勝った日より負けた日の方が圧倒的に多かった。
勝った負けたかは簡単に察すことができた。
負ければ殴られ、勝ったなら上機嫌で居酒屋に入って行く。
そこで食べさせてもらえる酒のつまみと、昼に万引きして得た食べ物のみが、飢えを凌ぐための唯一の頼みの綱だった。
その日父親は、いつものように子供を連れて夜の街へ駆り出した。
いつものようにパチンコに行くのかと思っていると、急に何でもない所で足を止め、フッと見上げたビルの3階、そこには『麻雀』と光っているネオン管があった。
ただその日は麻雀の気分だった。それだけだで大した理由もないのだろう。
雀荘に入った父親は子供をほっぽらかし、空いている卓に座り、早速今夜の酒代を稼ぐため、卓の中央へ数枚の札を置いた。
しばらくすると、子供のことを気の毒に思った店主が、オレンジジュースと『麻雀入門』と書かれた本も渡した。
しかしその子供は満足に学校へ行くことができていなかったため、ひらがなとほんの少しの漢字のみしか読めなかった。
つまり写真のみが手掛かりであり、その写真を何度も何度も見つめ、文章を紐どいていく。
1時間ほど経ったある時、父親が子供を呼んだ。
どうやら人が1人減り、数合わせが必要なようだ。
不可能だ。
いくらさっきまで本を読んでいたからといって、流石にいきなり実践は無理だ。
しかも父親は負けが混んでいるようで、教えてくれそうな雰囲気もない。
かといって、正直に従うしかなく、不安な足取りで雀卓に近づいて行く。
椅子に座り、周りの大人が牌を混ぜるのを見て、自分も真似をする。
やがて2列に並べ、片方をもう片方に乗せて横長の山を作る。
それを真似する。
父親がサイコロを2個振り、もう1人もサイコロを振った。
4個ずつ山から取っていく。
それを真似する。
やがて手元に13枚の牌が集まった。
それはどこか既視感があった。というより近かった。
一個山から持ってきて、そのまま捨てるか手牌の物と交換するかしている。
それを真似する。
巡を重ねるごとに段々と、ナニに既視感を持っているのかが判明してくる。
さっきの本で見た物と似ている。
山から持ってきた、写真にあったヤツと、手牌の、写真になかったヤツを交換して捨てる。
ただその行動のみをしていた。まるで何かに操られたかのように。
そして7巡目、右に座っている男が、鳥が描かれている牌を捨てた____
「ロン」
卓の空気が止まる。
そう言い放ち、倒された牌を見た大人たちは全員驚愕した。
緑の卓上に現れたのは、
漢字で書かれた1と9、丸が1個と9個、緑の棒が1本と9本、東西南北、純白、撥、そして中___
〈国士無双13面待ち〉
その子供は役も点数も、ましてやルールすら知らない。
たださっきまで見ていた写真を再現しただけなのだ。
アガったはいいものも、何と言えばいいかおどおどしていると、真っ黒なコートに身を包んだ男が話しかけてきた。
「〈国士無双〉、覚えておけボウズ、これがオマエの初めての和了であり、これからの人生を著す役だからな」
そういってその男は雀荘を後にした。
ひどく冷たく、そして全てを達観したような声だった。まるでこの世で最も大きな死線を潜ってきたような。
*
全ては偶然、たまたまだった。
たまたまいつもと違うルートを父が歩き、いつもはやらないギャンブルを偶然父が選び、たまたま人がいなくなり、偶然国士無双をアガった。
____本当に偶然だったのだろうか?
いや違う。彼はアガるべくして国士無双を手にしたのだ。
では一体誰が?
初心者の国士無双狙いなど簡単に見破られてしまう。
答えは一つ、神だ。彼は神に導かれたのだ。
神に魅入られた者のみが掴む、神牌を掴んだのだ
____その男、神谷 恒一は。




