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146 死馬星雲

 デスホースネビュラは漢字では死馬星雲と書き、首のない馬の様な全体像をしている。首無し騎士(デュラハン)星雲なんて呼ばれたりもするが、不気味な外観に反して構成する星々は静寂だ。


 リニアで星雲の中に入った俺は、チップドワキザシで惑星ラジクに向かっていた。宇宙最先端の惑星開拓が見れるというわけだが、コンテナを運ぶだけで長居をする気がしなかった。


 電脳で調べると、惑星ラジクは肌の青く耳の尖ったエルフが主に住んでいるという。

 地球人型をベースに人工進化してきた宇宙人型の中では、エルフは植物型についで古参になる。


 この辺りまで遠出すると、地球人型の数が極端に少なくなる。

 不老長寿から名付けられた尖った耳と青もしくは緑の肌を持つエルフは、最初は地球人と植物人プランティアンとの完全なる融合進化種族として注目を集めたが、生殖能力の低さが災いして種として繁栄できないでいる。


 青い肌をエキゾチックと称する者もいれば、エルフは食えない野菜と主張する者もいる。人肉食を生活基盤とする野蛮な惑星ベーガンに住むオーガから見れば、彼らは色付きの大豆(ソイレントグリーン)に映るのだそうだ。


 エルフの他にも、人体実験用のためのモルモット役として顔を醜く造られた挙げ句、どこかの研究所から脱出した個体群が野生化した種がオークと呼ばれたり、狭い宇宙船に適応するために小人症に近い状態になった種をノームと呼んだり。

 太古の地球の古典文学にちなんでつけられた種も多い。


 俺はウイスキーを舐めながら飲酒運転で惑星ラジクの近くまでやって来た。

 コンテナは無事だ。中身は知るよしもない。


 ラジクの宇宙港に通信を飛ばす。

 返事は何と文字通信で来た。

 前時代の通信方法に、俺はここが田舎の最果ての地であることを確信しつつ、着陸の許可をとる。

 ふたつ返事で許可がおり、俺の船は大気圏へと突入していった。


 酔ってる割にはスムーズに着陸する。

 赤の混じった黄土色の大地を踏みしめると、簡易ヘルメットの電光表示を待った。

 窒素と酸素の比率表なんかが出て、生存可能と分かったが、テラフォーミングが完全に済んでない可能性がある。宇宙人型なら平気でも地球人型には致命的な大気だったら目も当てられない。

 二酸化炭素濃度が地球と比べて低いくらいで有害物質の類がなさそうだった。

 ヘルメットを脱いだ途端、硬質化したヘルメットが元の軟性素材に戻った。折りたたんで宇宙服の胸ポケットの内側にいれ、ジッパーで閉める。


 被っている時のみ硬質化する簡易ヘルメット付き宇宙服は一家に一着欲しいムラシマのブランド服だ。


 俺は宇宙服のコンソールを操作して、薄手モードにした手や腕の感覚を確かめる。

 ゴム手袋でもつけてる様な感覚の曖昧さを、宇宙服内部のコンピューターがグローブの中に刺激を与えて鋭敏に感じているかのように補正する。


 ラジクの空は青く、2つの恒星が物体から影を消していた。

 昼は気温が30度まで上がり、夜は一桁ほどしか上がらない。

 2つの恒星ルーズーとルルは、距離が遠いためラジクを焼くことがない。この双子太陽系では惑星によっては地表が常にマグマに流動してる星もある。ラジクの特産はシロップみたいに甘いパイナップルだ。

「暑いな。」

 無影灯のように日陰がない世界で、俺は汗を拭った。

 宇宙港でコンテナの荷運びが始まる。先端居住惑星は港が機械化されていて荷運びも機械がやる。

 俺は受け取りのサインを貰うだけだ。

 俺は血中に溶けるアルコール分解錠剤を舌下に投与した。顔の赤みも消える。


「ご苦労さん。」

 青い肌の宙港職員がサインをする。

「ありがとうございます。」

 周囲と完全に種族が離れているため、注目を浴びてしまって視線が痛い。気まずい訳では無いが、自分の方がここでは『宇宙人』だ。


「帰る前に飯でも食うか。」

 船も自分も補給が大事だ。

 港のレストランで俺は空気から造られたというバターと炭素から出来たパン、人工筋肉のハンバーグを食った。食品表示がなければそうとは気付かない。

 ハンバーグを口に入れながら、クロコから送られてきた次の仕事の予定を確かめていると、レストランの外が騒がしくなった。

 視線だけ送りつつ、青い人々が何事か騒いでいるのをボーっと見ていると、テロという言葉が耳に届いた。

「テロ?」

 急いで食って、レストランで勘定を払う。外に出て事態を確かめる必要がある。


「なんてこった。」

「毒ガス!?」

「何処で!?」

 混乱する人々の内、一人に尋ねた。

「何があったんです?」

「知らないね。外星人には関係ない。」

 無下むげにされてしまった。

 外星人。確かにここでは俺は珍品扱いらしい。

 電脳で検索しても出てこない。

 まだニュースにはなっていないようだ。


 今度は宙港職員に話を聞く。

「現在、トラブルにより船の発着場は閉鎖されました。」

「なんだって!?」

 それでは帰れない。

「現在調査中ですので、調査が終わるまでお待ちください。」


 困った。


 俺はしかたなく座れる所を探して歩き、宇宙港の待合室の椅子に座った。

「どうしよう。」

 星雲間まで遠いとクロコとは文書でしか通信出来ない。

 取り敢えず、遅れる旨を書いて送り、深呼吸する。

「折角だ。観光にでも行くか。」

 俺は腰を上げて、街に繰り出した。


 近代的な宇宙港を出ると、荒野に木造の建物が並んでいる。

 木の建物なんて贅沢だと思ったが、この星の原産樹木を板にして建てたのであれば、木は安上がりらしかった。


 街を歩く。

 都市というより米国の西部開拓時代の村のようだ。

 西暦1800年代あたりのアメリカの服飾をした人々が行き交い、六本足の馬が馬車を引いていた。

 道行くエルフ達が突慳貪つっけんどんに俺を睨んだ。この星では排外主義と差別が横行している。

 彼らの目を見て俺はそう確信していた。


「おい、そこの地球人。地球の病気がうつるから港に帰れ。」

 西部劇の登場人物みたいな格好の男が俺の道を塞ぎ、俺の前で唾を吐いて宇宙港を指差した。

 テンガロンハットにウェスタンシャツ。茶のベスト、皮のパンツにブーツ。そして、拍車。

 ガンベルトから下げた拳銃はリボルバー型だ。

 舐めるなよ。こっちは苛立ってる。

「何十年も生きる割にはボキャブラリーが貧弱だな、エルフ。」

「何だと?」

 俺は頬をつり上げた。

「そのデカくて長い耳かっぽじって、よーく聞きな。俺に構うな、内星人。」

「そうはいかない。」

 男が凶暴な笑みを浮かべた。


 いつの間にか道行く人が、居なくなった。

 まぁ、関わりたくないよな。


「腰に下げてる豆鉄砲を抜いてみな、頭に穴があくぜ。」

 男の手がさり気なくホルスターに伸びる。

「へぇ、どっちの頭にあくんだい?」

 俺は小首を傾げるついでに、銃を抜く構えを完了させていた。

「お前の頭だ!」

 男が銃を『普通に』抜いた。

 俺は身体を反らせるようにして居合の様にホルスターから銃口を覗かせ、引き金をも引いていた。


 勝負は一瞬だった。

 光弾を受け、エルフのカウボーイが倒れた。

 俺は手癖で銃を回してリホルスターする。

「来世じゃ相手を選ぶんだな。」

 言いながら、俺は男を倒した事を後悔した。

「動くな。殺人の容疑で逮捕する!」

 白いカウボーイハットを被った保安官が、銃を俺に向けていた。

「勘弁してくれ。」

「銃をこちらに渡せ!」

「銃を抜いてきたのは向こうだってのに。分かったよ。」

 司法に逆らうのは御免だ。

 俺はため息をつき、片目を閉じた。

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