第68話 もちろん勝負にはならない
「おーい、終わりだ。終わり。そんな雑魚共に時間をかけおって」
俺様は優しい声で戦闘を続けているエリシアと女騎士共に労いの言葉をかけてやった。
すると、一斉にドラゴンから距離を取った女騎士達は警戒しつつも、俺の方をチラチラと視線を向けた。
「試験はどうなったのですか? 合格という事でいいのですか?」
「まぁそういうことだな。お前らの力は大体分かった。あとは俺様がやる。下がってていいぞ」
俺様がドラゴンの元へ向かうのと入れ替わる様にエリシア達はドラゴンを警戒しながらエメル達の所へと合流する。
そんなに警戒せんでもあのドラゴン共にはエリシアの魔法障壁を破る事はできないし、そもそも俺様がドラゴン如きの不意打ちなど許すはずないのだが。
俺様がドラゴンへと視線を向けると、エリシア達の想定外の戦闘力の高さに衝撃を受けていたようだった。
「貴様ら、何者だ? 我らと戦える人間などいるはずがない!」
既に虫の息……とまでは言わないが、2体のドラゴンは息が乱れ、体のあちらこちらに複数の切傷を刻まれていた。
先程の戦いを見る限り大した戦闘力は無さそうだが、ドラゴンらしくしぶとさはなかなかのようだ。
だが、言っている事は的外れ。
このドラゴン共は今まで戦ってきた人間が弱っちすぎるから勘違いしてしまったのだろう。
「何を言う? 現にお前らはエリシア達に一方的にやられていたではないか? 自分達が世界の覇者とでも勘違いしていたのか? 残念だが、タイミングが悪かったな。俺様さえいなければ数に物を言わせて目的は果たせたかもしれないのに」
俺様がそう言うと、ドラゴンは何が可笑しいのか笑い声を上げ始めた。
「ふははは、バカめ。勘違いしているのは貴様の方だ。我らと少しいい勝負ができたから調子に乗ったのか? 既に母上が500体の同胞を引き連れ、人間の国へと向かっている。町を滅ぼしたら次はお前達の番だ」
そんなもんは既に俺様は把握している。
だが、そんなことを知りもしなかったのかエリシアが後ろから大きな声を上げた。
「は、話が違うではありませんか!? 3日は待つという約束だったはずです!」
「約束を先に違えたのは貴様らの方だ。大人しくしていれば滅ぶのは王都だけで済んだというのに、人間という種族は本当に弱く愚かだな!」
ドラゴンはエリシアを見ながら大きな笑い声を上げていた。
確かにドレアス王国の人間共が愚かなのは俺も同意する所だが、こいつの言っている事は酷く見当外れだ。
「何が可笑しいのか分からんが現状一番愚かなのは間違いなくお前達だぞ。偉大過ぎる勇者である俺様に今まさに敵対しているのは貴様らの方なのだからな。まぁ馬鹿には何を言っても分からんか。さっさとお前らを始末して俺様達は王都へと向かう事にする。ピンチに駆けつけた方が面白そうだから待ってたが流石にそろそろ限界だろうしな」
俺様はそう言って聖剣を抜いた。
先程の戦いぶりからしてこいつらを始末するのにそこまで時間はかからない。
俺が臨戦態勢のドラゴンへ踏み込もうとした所で後ろからエメルの声が聞こえてきた。
「あー、アッシュ。戦うのは構わないんだけど、殺すのは待ってくれる? 私達は飛んでいくからいいけど、エリシア達を運ぶ足が必要だわ」
「あー、確かにな。流石にこいつらを王都まで運ぶのは面倒だ」
別に運んで運べない事もないが、王都までの飛行時間にこいつらの重量は計算には入れていなかった。
最悪置いていくのもありだが、使うべき物を使うのは悪くない判断だろう。
エメルとそんなやり取りをしているのを見て気分を害したのかドラゴン共は俺様の事を怒りに満ちた表情で見下ろしている。
「あっ? なんだ? 文句あるのか? 乗るのは俺様ではないが足として使ってやると言っているのだ。光栄に思うがいい」
俺は聖剣を鞘へと戻した。
エメルの言う通りにするには聖剣を使うわけにはいかないからだ。
いつかの王都の時と同様に加減をミスったら簡単に殺してしまう可能性がある。
「……なんのつもりだ? まさか剣も使わず我らと戦う気か?」
「なんだ? ハンデが足らないか?」
あとは目隠しをする両手を縛るくらいしか思いつかないが、残念ながら今、俺様は手を縛り付けるのにちょうどいい縄も目隠しするのに適した布も持ってない。
村まで戻れば借りてこれるだろうが、わざわざそこまでしてやる必要性も感じない上に面倒この上ない。
「ふはは、分かった。すぐにあの世へ送ってやる」
ドラゴン共はそう言うと、空へと飛び上がった。
先程まではドラゴン共が飛べないように、魔法障壁を張って妨害していたが、今はその必要がない。
飛び上がったドラゴン共はすぐに俺様へと向けて上空から火炎のブレスを吐き出した。
エリシア達に通用しなかったものがなぜ通用するかと思ったのかは俺様には分からない。
単なる時間稼ぎなのだろうか?
それとも俺様が届かない空から攻撃し続ければいつかは俺様を倒せると思っている?
まぁどちらも見当違いだが、よくよく考えたらこいつらじゃ何をしても俺様に勝てるわけがないので仕方ないと言えば仕方ないことかもしれない。
避ける必要もないので、俺様は火炎のブレスの中を突っ切り、そのままドラゴンの元へと飛翔する。
正直、魔法障壁を張る必要も無い気もするが、俺様は暑いのも寒いのも嫌いなので魔法障壁を展開した。
自身が吐き出した火炎で視界が遮られた所為かドラゴン共は俺様が火炎の中を突っ切っていることには気づきもせず、そのまま火炎を俺様へと向けて吐き続けている。
普通に白兵戦に持ち込んでいれば多少は反応できたかもしれないのに、本当に愚かとしか言いようがない。
俺様はそのまま魔力を込めた拳でドラゴンの頬を殴りつけた。
「ぐぉぉぉ」
「なんだと!?」
横顔に俺様の右フックを受けたドラゴンが吹き飛んで行った様子を見て、もう一体のドラゴンに衝撃の表情が浮かべながら叫んでいる。
「クソッ! よくも!」
火炎攻撃から白兵戦に切り替えるつもりなのかもう一体のドラゴンが大きな腕を俺様へと振り下ろす。
流石に王国騎士の斬撃よりも鋭く重い一撃だが、俺様からすれば大した違いはなかった。
「な、なに!?」
避けるのは簡単だったが、俺様はドラゴン振り下ろした手の先の鋭い爪を手で掴み上げた。
パワーもスピードもまったく足りていない。
俺様は掴んだ爪をドラゴンの身体ごとブンブンと振りまわした後、地面へと叩きつけるように投げつけた。
ドラゴンはその勢いのまま地面に叩きつけられる。
「バカな、ありえない。人間如きが我らを……。何者だ、貴様は?」
始めに俺が殴りつけたドラゴンが地面に叩きつけられたドラゴンを見て、呟くように言う。
素手同士の近接戦闘なら自分達に分があるとでも思っていたなら申し訳ないが、長所短所うんぬんの前に俺様とこいつらではそもそもの格が違いすぎるのだ。
「人間如き、人間如きと煩いな。俺のいた世界の魔人共でもあるまいに。まぁどの世界にも井の中の蛙はいるのだな」
「……今なんと言った?」
「あ? だからどの世界にも井の中の蛙はいるものだなと言ったんだが?」
「そうではない。なぜ貴様ら人間が魔人の存在を知っている?」
あぁ、そういえばこの世界には魔人は存在しないのだったな。
俺様がエリシア達のいる場所を見ると、エメルとセラが今まさに王都へと向けて飛び立っている所だった。
まぁアイツらが行くならとりあえずは大丈夫だろう。
「俺様は異世界からやってきた勇者だからな。当然これまで魔人とも戦ってきた。その中にはお前らなんぞより強いやつなどたくさんいた」
魔人とドラゴンのどちらが上かなどには興味はないが、少なくとも魔王はもちろん四天王よりも強いドラゴンを俺様は見たことがない。
俺様の認識ではドラゴンは魔獣の中ではトップクラスの戦闘能力を持っているが、真に強い魔人と比べれば大した敵ではないのだ。
そんな俺様の言葉を信じる事が出来ないのかドラゴンは喚き散らす。
「……異世界だと? 馬鹿なことを言うな! 始祖様でもできない魔法をなぜ人間が使う事ができる!?」
始祖様?
一部よく分からないワードが出てきたが、こいつが言う魔法とはあの女が使っていた異世界を渡る転移魔法の事だろう。
まぁ俺様に使えないのだから人類が使えない魔法であるという事で言えばこいつの言っている事は間違っていない。
「あぁ? 俺様はな、強すぎる力を見込まれてリティスリティアとかいう頭のおかしな女神にこの世界を救って欲しいと頼まれたんだよ。そうでもなけりゃこんな辺鄙な世界にやってくるわけがないだろう」
「な、リティスリティアだと……?」
俺様の言葉を聞いたドラゴンは驚愕の表情を浮かべていた。
アッシュ君がこの世界にやってきた経緯を知り、驚くドラゴン。
ドラゴンはリティスリティアの事を知っているようです。
※すいません、64話が飛ばしていたようなので、先程追加しました。




