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第62話 求婚

アッシュの最後の条件を聞き終えた私は突然の告白に一瞬頭が真っ白になりました。



……は? 私が欲しい?



私の自意識過剰でないのであれば、確かにこれまで私に好意を向けてくる殿方はいたような気はしますが、それでもここまではっきりと面と向かって私にそのように行ってきた殿方はアッシュが初めてです。


だからかもしれませんが、私はその場で勢いよく立ち上がり、思わず大きな声で叫んでしまいました。



「な、な、何を言い出すのですか!?」



「ん? 言葉通りの意味だが? お前が欲しいと言ったのだ。ていうかなにを赤くなっている?」



「あ、赤くなどなっていません!」



そう言い返してみたものの恐らく私の顔は真っ赤になっているのでしょう。

顔がいつになく熱いです。

むしろアッシュは恥ずかしげもなくそんなことを言えるのかが私には分かりません。


後ろが少し騒がしいので振り返ると、アイルが「キャーキャー」と小さな悲鳴を上げていました。

そんなアイルとは対照的にエミュラとアイルは何が起きたのか理解できていないのか言葉を失っています。



そんな混沌とした状況の中でもガルドは平静な表情を崩すことなくアッシュへと向けていました。

流石はガルド。優秀な文官です。

本当に頼りになります。


ガルドならば無理な条件だときっぱりと断ってくれるでしょう。

ま、まぁそれが無理でも本人の気持ちがありますからなどと言ってうまくお茶を濁してくれるに違いありません。


そんな期待を抱きつつ、私はガルドの対応を眺めていると——。



「ありがたいお話です。国王陛下も大変お喜びになられる事でしょう。そのお話、前向きに検討させて頂きます。ね、エリシア様?」



「は?」



思ってもみなかったガルドの快諾に私は呆気に取られ、そう言い返す事しかできませんでした。


ね、エリシア様? ではありません!

ガルドは何を考えているのですか!

そんな言い方をすればまるでこちらも望んでいた風に聞こえるではありませんか!?

冗談ではありません!


私はガルドの真意が分からず、ガルドへと体を寄せ、耳打ちしました。

こういう状況での耳打ちなどどうかとも思いますが、そんな事は知った事ではありません!



「ガルド、どういうつもりですか? せめてまずは悩むなり私と相談するなりしてください。これではこちらが乗り気だと勘違いされてしまいます」



「エリシア様はアッシュ様の事をお気に召しませんか? 堂々としていて度胸があり、何より素晴らしいお力をお持ちです。それに男の私が言うのもおかしな話ですが、容姿もそれなりに整っておられる。今回の事がなくとも姫様とお似合いの男性かと思うのですが」



ガルドに言われ、思わず私はチラッとアッシュと見ました。


言われて見れば確かに身長は騎士達と比べるとそこまで高くはありませんし、目つきは少し悪い気もしますが、基本的に顔は整っています。

ドレアス王国では珍しい綺麗な黒髪ですが、私は別にそこまで気にもなりません。



って、そういうことではなく!



「私はあの方と今日初めてお会いしたのですよ! それに兄上が王位継承権を剥奪された今、私が……って? まさか……?」



「エリシア様のご想像通りです。陛下はアッシュ様があの日、玉座の間を去られてからずっとそのようになればとお考えになられていました。ですから陛下は此度の交渉役にエリシア様をお選びになられたのです。どのようにしてそういう方向に持って行こうかとずっと考えていたのですが、まさか会ったその日にあちらからアプローチが来るとは。流石はエリシア様、恐れ入りました」



「だから、まともな交渉をしたこともない私をこのような重要な交渉役に? 一歩間違えればとんでもない事になっていたのですよ? それにドレアス王国は男系男子にしか王位継承権はないはずですが」



「陛下はもう子を儲けるつもりがないようですので、ルシード様の王位継承権を剥奪する事を決めた時点で制度の見直しが必要でした。ハルア共和国が王政を廃したのだからその程度の改変は問題ないだろうと陛下はお考えです」



「う、それは確かにそうですが」



父上は現在35歳で兄上の実母である第一王妃フローテ様も同じ35歳なので、絶対に無理とは言えませんが、子供を儲けるには少々厳しい年齢になってきたことも事実です。

それ以前に私の母、エルフィ以外とはもう子供を儲けるつもりがないと父上は公言していました。

それほどまでに父上は母上を愛していたのですが、私が生まれて以降、母上と父上の間には子供は授かれなかったそうです。

それが大国であるはずのドレアス王国の国王である父上が2人しか子供がいない理由です。



「ですが、あのような者ではなくとも他にいくらでも——」



「エリシア様は他にお慕いしている方が?」



「いえ、いませんが……」



お慕いどころかそもそも私には友達と言える男性すらいません。

もちろん、様々なお茶会に招かれるので男性ともお話しする機会自体はあるので、知り合いと呼べる者はいますが、個人的に会ったりすることはないので友達とすら呼べないでしょう。

そんな私に追い打ちをかけるようにガルドは続けます。



「エリシア様、これまで陛下はご自身の事があって、エリシア様には自由にさせてきたそうですが、これからはそういう訳には参りません。エリシア様がどのようにお考えか分かりませんが陛下も17歳の頃には既にフローテ様とご結婚——」



——とガルドが更に続けようとすると。



「何をそんなに言い争っているか知らんが、時間切れだ」



そう言ってアッシュは席を立ちあがったのでした。


突然のアッシュ君の申し出に快諾しようとしたガルド。

ユーディーンはアッシュ君とエリシアをくっつけようと画策していたようです。


まぁエリシアが使者として選ばれた理由はそれだけではないのですが。

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