第47話 ミスリル
「で、お前ら結局なんなんだ? 昼飯食ってさっさと寝てーから大した用事じゃないならさっさと帰ってくれないか?」
もう何もかもめんどくさくなってきた俺様はそう言ってきた道を戻ろうとすると固まっていた元キョロキョロ女がハッと何かを思い出したかのように俺様を呼び止めた。
「と、とても重要な要件です!」
「あっ、そう。でも俺様にとっては多分重要じゃないだろうからやっぱり帰るな」
俺様にとっていま最重要なのはさっさと寝て眠気を飛ばす事なので、それ以上に重要な事などあるわけがない。
よってさっさと帰って昼飯を食って2度寝するのである。
だというのに元キョロキョロ女はこともあろうに俺様の前に立ち塞がった。
「待ってください! 貴方がアッシュ様ですよね!?」
「あぁ、いかにも俺様が偉大過ぎる勇者アッシュだが?」
質問には答えてやるが、とりあえず帰って飯を食うのは決定事項なので俺様は歩きながら、話を聞いてやる事にする。
飛べば一瞬だが、それだと話がしづらいだろうから歩きに付き合ってやる俺様はとても慈悲深いのである。
そんな俺様の後をついてくる元キョロキョロ女の更に後をついてくるように俺の手下どもと謎の女共3人、あとよく分からん雑魚1名が続く。
「よかった、ようやくあなたに会えました。私はドレアス王国の第一王女エリシア=ユーディーン=ドレアスと申します。本日はあなたにお願いしたい事があってここまでやって参りました」
俺様の横にピタリと張り付いたキョロキョロ女改めエリシアがこちらを向きながら、俺様に軽い自己紹介を交えた挨拶してきた。
ていうかこいつ王女だったのか。
化け物みたいな魔力だから少なくても人間ではないと思っていたのだが、ピンポイントで予想が外されたな。
さっきまで固まって動けなかったくせに今は普通に喋っとるし、あのクソ王子よりかはマシそうか?
「それにしてもお弟子様はもの凄い力をお持ちですね! あの不思議なお力にはなにか名称などあるのでしょうか? 習得には期間がかかったり条件などが?」
「ん? あぁ、あんなもん魔法の初歩中の初歩だ。まぁまぁそれなりに才能があれば半日で充分覚えられる……はずだ、多分きっとな」
エリシアに言われて思い出したが、この世界の住人は基本的に魔法が使えないんだったな。
魔力がバケモンだったから魔法が使えるものだと無意識に思っていたが、よくよく考えれば魔力探知もできんのか。
エリシア達が固まったりキョロキョロしてたのは本当に俺様の居場所を感知できず、飛行魔法を見たことがなかったからだという事に俺様はようやく気付いた。
「魔法と言うのですね、あの不思議な力は。セラさんにもお尋ねしたのですが、その魔法と呼ばれる力を使えば神獣ドラゴン500体を撃退することは可能なのでしょうか?」
やけに真剣味を増した表情で俺様を見つめながらエリシアはそう尋ねてきた。
ドラゴン500体とか話の流れが全く分からんなどと俺様が思っていると後ろを歩くセラがエリシアの話を補足した。
「えーと、アッシュ様は寝ていたから知らないと思うのですけど、今朝ドラゴンが王都にやってきたらしいのですよー。多分ですけど話の流れからして3日後に王都か国自体を滅ぼすとでも言われたんじゃないですかねー?」
セラがそう言った瞬間、セラに頭を撫でまわされているケインがなぜかエメルとセラへと交互に見てから視線を下げた。
多分、俺様にも聞こえないようにエメルとセラと通信魔法を交わしたのだろう。
俺様を仲間外れにするとはいい度胸だが、ここで騒いでは3人で秘密裏に話した意味がなくなるので何もなかったようにセラの話の続きに俺様は合わることにした。
「500体も来たのか? 何をしたらそんな事態になる?」
俺様がそう言いながら隣を見ると、エリシアは分かりやすく言いづらそうな表情になっていたので俺様が睨みつけると観念したのか小さな声で話し始めた。
「少し前、王都付近まで神獣ドラゴンがやってきた事件がありまして……その時にレイが撃退したのですけど、その時の報復なのだと思います」
なんとも歯切れが悪い上に、500体のドラゴンが報復にやってきた理由としては弱すぎる。
「それだけで500体もドラゴンが飛んで来たのか? そもそもその最初のドラゴンはなんで王都までやってきた?」
「え、えーっと、それは……」
「はっきり言え」
「……実はミスリルというとても希少かつ高硬度の金属があるのですが、そのミスリルがその神獣ドラゴンの住処であった神獣の領域で発見されまして……」
「ミスリルとは白銀色で鉄よりはちょっと硬いあのミスリルか?」
俺様がそう言うと、エリシアは驚愕の表情でその大きな金色の瞳を見開いた。
「……なぜアッシュ様がミスリルを知っているのですか? ドレアス王国の最高軍事機密ですよ?」
「いや、知ってるも何もあんなもんそこらへんに埋まっているだろう。大して珍しくも……ていうかまさかそんなもんの為にドラゴンの住処を突いたのか?」
エリシアの反応を見る限り、俺の知るミスリルとコイツの言っているミスリルは同じ金属だろう。
少なくても俺様のいた世界では白銀色の鉄よりちょっと硬い金属と言えばミスリルしか存在しない。
そしてミスリルは別に大して希少でもなければ硬度自体も鉄よりはちょっと硬い程度の金属である。
魔法との相性は鉄よりはかなり高いので中堅か上位に入る一歩手前の冒険者には人気の金属という程度で鉄よりかは希少と言えば希少だが、ドラゴンの住処を突いてまで発掘を強行するような代物では決してない。
「まさかそんなはずは……。ミスリルは世界最硬度の金属で……」
俺様が言うことが信じる事が出来ないのか自分達の愚かな行為を後悔しているのか分からんがエリシアはぽつりぽつりとそう呟いた後黙り込んでしまった。
「おいっ、そこの女、剣を一本寄こせ」
ちょうど町に入りかけた所で俺様はエリシアの親衛隊騎士らしき女の一人に声をかけると、声をかけられるとは思っていなかったのか女は少し驚いて俺様を見た。
「……どうぞ」
剣を鞘から引き抜いた女は素直に俺様に剣を手渡した。
女騎士から受け取った剣の刀身や重みを確認すると、あまりのなつかしさと軽い失望からか笑いが堪え切れなくなってしまった。
「ふはは、お前、その女の親衛隊騎士だろう? 第一王女の親衛隊騎士とはこんなナマクラしか与えられないのか?」
少なくとも俺が知る騎士とはいわゆる国軍の中ではエリートの中のエリートがなる存在でその大半が武に長けた貴族である。
だというのにその騎士からこんなナマクラを渡されたのだから思わず笑ってしまうのは仕方がない事だ。
俺様がそう言うと、何か不快な事があったのか女騎士は少しきつい表情で俺を見返した。
「これはエリシア様の親衛隊騎士に叙任された時に王直々に賜った剣です。確かにミスリル製ではありませんが、一流の名工が打った最高品質品です」
女騎士があまりにも自信たっぷりで言ってきたので一応、剣を再度確認してみると確かにぱっと見た感じ、造り自体は悪くない。
3流冒険者が使うような量産品の剣よりかは遥かに良い職人が作った剣なのは間違いないのだろう。
だが、そんなことは今は全く関係ないのである。
「なるほど、お前らがなぜ危険を冒してまでドラゴンの巣を突いたのかは理解できた。魔法うんぬん以前の問題だったというわけだ。良い話が聞けた礼だ。俺様も一つ面白い物を見せてやろう」
俺様はそう言って、勢いよく女騎士の剣を空高く投げ上げた。
「何をする!?」と何やら聞こえた気もするがそんな声を無視して俺様は投げ上げた剣が落ちてくるのを見上げつつ剣を構えた。
そして、俺様の前を落下してきた剣に数回の剣戟を加えると、小さな金属音を数回響かせた後、剣だった物がボトボトと地面に落下した。
「……なにを?」とエリシアは何をしたのかすら気付かなかったのか俺様の顔をじっと見つめているが、俺に剣を手渡した女騎士と後ろでその光景を見ていた他の女騎士共の表情は驚愕に染まっていた。
「……ば、化け物」
俺様としては鋼鉄の剣をスパスパ斬る事ができるミスリルなんぞよりも高硬度の剣があるぞ。という意味で実演してやったのだが、それよりも俺様の剣技が目立ってしまったようである。
まぁ聖剣を使ったとはいえ、空から不規則に回転しながら落ちてきた剣を空中でバラバラに断ち切るなど俺様くらいの腕が無ければ不可能なので別におかしくもなんともないのだがな。
女騎士の声でようやくエリシアは俺様が何をやったのかに気付いたのか、地面に落ちている10個ほどの塊に分断された剣を女騎士共と同様に驚愕の顔で見つめている。
それ以降何も返事が返ってこなくなったので俺様は先程のエリシアの質問に答えてやる事にした。
「あぁ、そういえばお前ら一つ勘違いしているようだから訂正しておこう。俺様がドラゴン500体を殺しきるのに魔法なんぞ必要ない。この剣一本あれば十分だ」
アッシュ君のいた世界とこの世界では魔法以外でも色々と常識が違っているようです。
次回ちょっと不穏な雰囲気に。
頑張れエリシア。




