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第44話 偉大過ぎる勇者との邂逅

「お、お願いします」



「よし、よく言った」



私の答えにエメルさんがニヤリと笑みを浮かべてそう答えます。

可愛らしい顔立ちなのでそこまでではないのですが、エメルさんの笑みはいわゆる悪い人の笑みなのではないかと私は思いました。


ドレアスが支払う報酬もそうですが、これから私の身に降りかかる事を考えるととても恐ろしいです。

エミュラは小さく震える私の手を握ると、笑みを向けエメルさんに気付かないような小さな声で耳打ちします。



「もしもの時は私達がエリシア様を守ります」



そんなエミュラの頼もしい言葉で震えは止まりました。

エミュラは本当に私には勿体ない騎士です。

しっかりしなければならないのは父上から交渉を任された私だというのに。



「大丈夫です、エミュラ。私にアッシュが何をしようとも決して止めないでください。エメルさんの言う通りドレアスにはもう後がありません。これがドレアスを救う最後のチャンスなのですから」



「……エリシア様」



エミュラ達は心配そうに私を見つめますがそれ以上は何も言っては来ませんでした。

納得してくれたのならいいのですが……。



そんなやり取りをしつつ、私はエメルさんがアッシュへと連絡を取るのを待っていましたが、通信機を出す様子も移動を始める様子もありません。


私が少し不思議に思っているとエメルさんは何もない空中に視線を向けながら、「ちっ」と舌打ちをした後、独り言のように話し始めました。



「起きて」



エメルさんはそんな独り言を呟きますが、もちろん反応などありません。

もしかしたら私に話しかけているのかと思い、じっとエメルさんを見ますが、エメルさんの視線は宙に向いたままです。



「おいっ、起きろ」



当然何の反応もない中、エメルさんは小さく眉間に皺を寄せると、少しボリュームを上げて更に言いましたが、もちろん反応などあるわけがありません。



あれ? この人ちょっとヤバい人なのかも?



そう思っても口に出す事はありません。

そんなことでエメルさんの機嫌を損ねれば、目も当てられませんから。


私は助けを求める様にセラさんを見ますが、セラさんは特に口を出すでもなくただエメルさんの奇行をただ眺めています。ケインの頭を撫でながら。



「……あのー」



「ん、何?」



「先程から何をなさっているのですか?」



流石にこのまま黙っているわけにもいかず私がそう声をかけると、エメルさんは何でもないように言いました。



「アッシュを起こしてるんだけど?」



「あ、はい、そうなんですね」



私が思わず頷くと、エメルさんは謎の問いかけに戻りました。

言動からそんな気はしていましたが、ルベリ村で眠っているはずのアッシュをこの距離からどうやって起こすつもりなのでしょうか?


アッシュはかなり耳がいいとか?

仮にそうなら、村の人々の生活音で寝る事など不可能だと思います。


そんな意味のない考察を続けているとエメルさんの問いかけはどんどん大きくなりそれに従って言葉遣いも荒くなっていきます。

そして全然反応が返ってこない事にエメルさんは怒りの限界に達したのか遂に——。



「起きろや! ボケ! クソ勇者ぁぁぁー!」



小柄な体のどこからそんな大声が?

と思えるほどの大きな声が周囲の空気を震わし、私だけではなくエミュラ達も驚きながら耳を塞ぎます。



これなら確かにアッシュにまで聞こえ、飛んでくるかもしれないとそんな事を思っていたその時でした。



「……あぁ? うるさいぞ。ちんまり賢者」



どこからか男の不機嫌そうな声が聞こえ、私は周囲を見回しますが、見える範囲に私達以外の人影はありません。

どうなってるの? と私が思っている最中もエメルと男の会話は続きます。



「アンタがさっさと起きないからよ。もう昼よ。さっさと起きなさい」



「俺様は夕飯まで起こすなと言ったはずだが? 賢者の癖に言葉も分からんのか?」



「はぁ~? 昼までならともかく夕方まで起こすなとか馬鹿なこと言うからみんな聞き流してたのに気づかなかったの? バッカじゃない?」



「……よし、分かった。泣かす。今すぐ行くから待ってろ」



男がそう言うと「ぶつっ」っと何かが切れたような音がして何も聞こえなくなりました。

どういう原理かは分かりませんが通信のような物なのでしょう。



「……あのー、大丈夫ですか?」



私はとても不穏な内容の会話が心配になりエメルさんに尋ねましたが、それに答えたのはセラさんでした。



「大丈夫ですよー。いつもの事ですから。それにあぁ見えてアッシュさんはエメルさんととても仲が良いんです」



「どこがよ?」



嫌そうな顔をしたエメルさんがセラさんを見てそう言いました。

もしかしたら本当に仲が良いのかもしれませんが、私にそれを判断する術はありません。

ただ一つ言えることはエメルさんはアッシュと対等に会話することができる唯一かもしれない人物だということだけです。



「おいっ、戦闘中だったのか? なぜ言わん?」



不意にそんな男の声が聞こえ私は周囲を見渡しますが、どこにも姿は見えません。

また先程の謎の通信かと思いましたが、それにしては何か様子が変です。



「エ、エ、エリシア様……」



私はその違和感に気付く前にエミュラから袖を引かれ、エミュラの方を振り向くと、エミュラは信じられない物を見たような表情で固まっています。

カレンとアイルの方も確認しましたが、2人もエミュラと同じような表情で言葉を失っているようでした。



……何が?



3人の視線は同様に南の空に向いています。

私は意を決して視線を上に上げると、そこには——。



「なんだ? お前らは? もしかしてあのダメガミが言っていた悪魔か? 思っていたイメージと違うな」



私達へと視線を向けながら訳の分からない事を言い始めた黒髪黒眼の私と同じくらいの年頃の青年が私達に剣を向けながら空に浮かんでいたのです。


遂にアッシュ君に会うことができたエリシア。

なにやら不穏な事を言い出したアッシュ君相手に交渉を成功させることができるのでしょうか?

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