この世界の最後の地で
瓦礫だけが残っていた本殿も拝殿も何もかもが無くなってしまいました。境内は地面がえぐり取られ、もはやそこが何であったのかさえ分からない荒涼とした場所になったのです。私は自分の力を恐ろしく感じました。これが精霊の力なのだと恐ろしくなったのです。
だけど――
「藍」
天空に浮かんでいる私たちの目に、それが、あいつらが、見えました。
「藍、お願いがあります」
姉の声が静かにゆっくりと伝わってくるのです。地面に湧き出るそれを見ながら、私は姉が何を言おうとしているのか予想できたのです。それは恐ろしい予想でした。
「駄目だよ、翠姉ぇ」
魑魅魍魎どもが湧き出て来る。無限に無制限に増殖していたのです。
「もう時間が無い。私があいつらを引き留めておくから、その隙に藍はハルカを迎えに行ってちょうだい」
「駄目だよ。あいつらの中に突っ込むつもりなのね。そんなことをすれば―――」
「――死ぬかもしれないね」
姉は優しく微笑んでいる。私は思わず、その笑顔に見惚れてしまったのです。
「あっちを見て」
河岸段丘の崖の上にある駅を指差して、姉が言うのです。
「電車が来るわ。あそこにハルカが必ず乗っている。そうでしょう。私たちはそう信じているんでしょう。だから、藍は迎えに行ってあげてちょうだい」
姉の背後に半分欠けた月が見える。少しずつ確実に欠け続けているのです。
「う・・・ん」
それ以外に何と応えれば良かったのでしょうか。
私も行きたいとですか。
それとも私が代わりますとですか。
あぁ、あぁ、あぁぁぁぁ、私はどうすればいいのでしょうか。
「ありがとう、藍」
そう言ってくれた姉に、私は何も返事を出来なかったのです。
何故、翠姉ぇはこんな最悪の状況でも笑っていられるのですか。
ありがとうって言えるのですか。私にはとても真似できないです。
姉が魑魅魍魎どもに向かって降下をしていきました。伸ばした両腕に真空刃を装備して、咆哮を上げて突撃して行ったのでした。
それがこの世界で、私が見た姉の最後の姿でした。




