向日葵が咲く庭で
向日葵が咲いている。母が庭で水を撒いていた。俺はぼんやりとして、家の二階の窓からその仕草に見入っていた。
「ハルカ。こっちへいらっしゃい。気持ちいいわよ」
母が手招きで呼んでいる。俺はパステル色の窓を閉めて、玄関に向かった。分厚い木の扉の横に大きな鏡がある。ハイウエストの赤スカートにノースリーブの白シャツをインしている女の子がいた。
分かっているさ。これはここにいたハルカの装いだ。俺が好んでしているわけではない。それなのに、ここにいる母は強制的に、こんなことをさせてしまうので、俺は辟易していた。
広い庭に出て、家からどこまでも続いている銀杏並木を見ていると、母が言ったように気持ちがいい。群青色の濃い空の色は、俺の知っている空ではない。
しかし、俺にはなかった筈の記憶があった。知らないことを知っている。それはここにいたハルカの記憶だ。そして、その記憶にはもう一人の人物を覚えていた。
「いい天気だね、ハルカ」
そうなんだ。こいつはハジメと言って、こっちの世界の俺らしい。
「ハジメは雨の日が嫌いなのか?」
「ハルカは好きなのかい」
「雨の日があるから、晴れの日がいいと思っている」
「あぁ、なるほど。ハルカらしい答え方だね」
「ハルカらしい?」
「そうじゃなかった。ハルカはハルカだった」
「ハジメは変な事を言う。当たり前のことだろう」
「ははは、そうだね」
「戸惑っているのか? ハジメの知っているハルカと違うって」
「正直に言うと、そうだけど。ハルカは元々一人だったんだから、そうだな」
「はっきりしないんだな。でもそうだよな。自分でも戸惑っているんだからな。この心の中にあるハルカの記憶から察するに、あれは別人だからな。ハジメと一緒に旅をして、あんな真似は出来ない」
「そうなんだよね。君はハルカみたいに自分のことを私とは絶対に呼ばないんだな」
「言って欲しいのか。それに、ハジメのことをくん付けで呼んで欲しいか。こんな言葉遣いでいるのに。元々のハルカがこうだったんだぞ」
「君の中でハルカはどうなっているんだい?」
「どのハルカだい? ハルカは一人だろ」
「ごめん」
「何が? おいおいしっかりしてくれよ。決戦まであと三日なんだろ」
「うん。皆既月食まであと三日。風の精霊の佐藤藍が、僕たちに時間を作ってくれている。君の世界を破壊させてしまったことを後悔しているから」
「あれは不可抗力さ。アイが悪いわけじゃない。もちろんハジメだってそうだ」
「多くの人が死んでいる」
「だから中岡真白を倒すんだろ。この闘志は二人から一人になっても変わっていないさ」
「君は強いな」
「ハジメが、ハルカはハルカだと言ったじゃないか。二人いたって、一人だって、同じさ」
俺は群青色の空を見上げた。白い雲が太陽に輝いて眩しい。




