031 フィリアちゃんズ爆誕! ~1,2,3,for Filia~
窓辺でチュンチュンと雀が囀りを上げる、夜明けを迎えたベッドルーム。
窓のすぐそばに褥台があり、床には使用済みの避妊具が大量に散乱していた……。
そんな褥台の上で、上半身を起こし悠然とした態度で煙草を咥えているのは、一夜の激しい闘い終えた漢たち――男前にキメた二体のうさぎのヌイグルミだ。
そしてその二体の間に挟まれて、くしゃくしゃになって汚れたシーツの上で、裸でうつ伏せになった美少女……フィリアが枕に顔を埋めて、しくしくと泣いていた。
ヌイグルミたちはそんなフィリアに対して、頭をポンポンと軽く叩いて語り掛けてくる。
『われぇ、いつまでめそめそ泣いてんねん。辛気臭ぉてかなわんわ』
『嬢ちゃんなぁ、野良犬に噛まれた思うて諦めときぃ』
『わしらウサギやけどな』
『おっちゃんたちなぁ、お小遣いめっちゃあげるさかい、堪忍したってぇや』
『嬲はでやった? めっちゃよかったやろ?』
『初めてにしては具合ようさん良かったでー』
『われぇ記念写メ見ぃ、アヘ顔ダブルピースよぉ撮れとるやろ?』
『おっちゃんなぁお尻見とったらな、また元気になってもぉたよ、もう一戦させてくれへんか?』
…………。
…………。
…………。
「なんで大阪弁やねん!!」
凛とした愛らしいソプラノボイスで――自分が上げたその大声で、オレは目を覚ました。
寝たままでふと左右に目を向けると、昨夜と同じポジションで二体のヌイグルミが枕に寝そべっている。
あんな阿呆みたいな夢をみてしまったのは、こいつらのせいか? それとも眠る前に『うさぎはスケベ』だとか、余計なことを考えてしまったせいなのだろうか?
いや或いはあっちの世界であいつらに『ヤりたいシチュ』などという猥談を、散々聞かされてしまったからなのかも知れない……。
夢と言えば……今のオレ自身は基礎知識のお陰で、意識することなく自然とこの国の公用語を話している訳だけど、さっきみた『夢の中』では日本語だった。実に夢らしい不条理さだよな。
フィリアになってまだ丸一日が経ったに過ぎないが、流石にもう『オレがフィリアになってしまった夢を見ていた!?』などと、寝惚けた思い込みをすることはないのだが……。
淫魔はまたの名を夢魔と言い、他者の眠りの世界――夢崖へ意識を飛ばせられる特性を持っている。
そんな夢魔であっても普通に眠れば……いや昨夜は眠った後であんな所に行ったけども――普通に夢を見れたことに、少しばかり安堵した。
とは言え、阿呆な夢を見たせいなのか、寝覚めは最悪な気分だ。
よし二度寝しよう。うん、それがいい……微睡みに身を任せて、再び眠りの世界に没入しようとした途端――
(L'aurora di bianco vestita.Già l'uscio dischiude al gran sol♪)
(Di già con le rosee sue dita.Carezza de' fiori lo stuol♪)
「…………」
(Commosso da un fremito arcano.Intorno il creato già par♪)
(E tu non ti desti, ed invano.Mi sto qui dolente a cantar♪)
「…………」
(Metti anche tu la veste bianca.E schiudi l'uscio al tuo cantor♪)
(Ove non sei la luce manca.Ove tu sei nasce l'amor♪)
「……だーーっ! 五月蠅い!!」
おい! 1号(仮)! 2号(仮)! 何なのお前ら? オレはまだ寝足りないんだよ。二度寝くらいさせてくれたっていいだろ。
(駄目よ! 朝一で鍛錬するのが日課なの……それにそもそも名前を間違えているんだけど?)
(ぶーぶー、呼び名を昨夜ちゃんと決めたでしょー?)
呼び名?――ああ、そーいえばそんな話もしたんだっけか……。
★★★LAST-PRINCESS or LUST-PRINCESS★★★
ここでもう一度、時間を昨夜に戻して――
「私たちの名前を決めましょう」
そう1号(仮)が言ったのは【秘蜜の花園】において、本体の支配権に関して三人の意志の合意が取られた後のこと。
なし崩しにオレを弄りネタにした莫迦話に移行し、それが一段落した時のことだった。
「他に何か質問はあるかしら、お姉様?」との問い掛けに対して――『何か大事なことを忘れている気がする』のだが、それも思い出せないので、オレが首を横に振ることで『質問なし』の意志を伝えたところ、それを確認した1号(仮)の口から、件の提案が出た訳だ。
「オレたちの名前?――1号、2号、3号で決定じゃなかったのか?」
「いやよ、そんなモノみたいな呼称は。美しくないわ」
「さんせー! あたしはもっと可愛いのがいいなー」
「美しくないとか、可愛いのとか……メンドくさいヤツらだなぁ――あれっ? そーいえばお前らって、スミレ色だのハシバミ色だのと呼ばれてなかったっけ?」
「あれは二つ名みたいなものだから、個人名ではないわ」
「じゃあどんなのがいいんだよ――2号(仮)なんかある?」
「カン、ポン、ロンってどーかなー? 韻が揃っていていいと思うんだー」
「却下だ却下……っていうか何で麻雀!?」
「却下よ」
「じゃあさー、ハネマン、バイマン、ヤクマンはー? これも淫が揃っているよー」
「さっきよりさらに酷くなっているじゃねーか……だからなんで麻雀?」
「却下!――お姉様、何か代案はおありかしら?」
「じゃあ……A、B、Cっていうのはどうよ?」
「却下!」
「却下だねー」
「だったら1号(仮)は何かあるのか?」
「そうね……では――私は一番目で、次は二番目……これは可愛くないから、二重ではどうかしら?」
「あたしはデュア? いいねーこれ気に入ったよー」
「結局、番号になるのかよ……んで、オレは?」
「順当にいって三番目? それとも――お姉様は先輩でもあるから……零番目かしら?」
「うーん……三番目というよりもーオレ? オレ・フィリアみたいな感じー!?」
「いいわねそれ。採用よ!」
「何そのオラ悟空みたいなノリ!?」
「自分の名前を一人称にした感じになって、面白そうじゃない?」
「ルーチェの『ルー』とお揃いだねー!」
「面白い面白くないでテキトーに決めんな! せめてフィオレとでもしてくれ」
「却下! お姉様には可愛すぎて勿体ないわ……採決を摂ります。これでいいと思う者は挙手して下さい」
…………。
…………。
…………。
賛成二票――1号(仮)、2号(仮)。
反対一票――オレ……。
「では多数決で決定とするわ。今日から私の名はウナ、ウナ・フィリアよ」
「あたしはーデュア! デュア・フィリアだよ!」
「オレは……オレ・フィリア!?」
「呼び名も決まったところで……では改めまして、末永く宜しくお願いしますね。オレ姉様」
「イクイク~久しくよろしくねー、オレねえ!」
「……ってこんなの納得出来るワケあるかーー!!」
性技のウナ・フィリア――
痴力のデュア・フィリア――
痴力と性技のオレ・フィリア――
斯くして今ここに、淫ららかな魂の三姉妹・フィリアちゃんズが艶やかに爆誕したのだったーー!!
「おい! 何勝手に語り部やってくれちゃってんだよ!」
★★★LAST-PRINCESS or LUST-PRINCESS★★★
ああ……そうだった。
オレはその場の阿呆なノリで押し切られて、『オレ・フィリア』ってことにされてしまったんだっけ。
(思い出して頂けたのなら……まずは朝の挨拶からキッチリ始めましょう)
えーと――「ウナ、デュア……おはよう?」
(オレ姉様、おはようございます)
(オレねえ、おっはよー!……因みにさっきどんな夢をみたのか知らないけどー、それっておそらくオレねえの願望の顕れだと思うよー)
「んなワケあるかー!」
(おっ? その反応は……もしかして嬲嫐姦の夢だったりしてー?)
阿呆か! そこまで酷くなかったわ!……っていうかオレの思考ってダダ洩れなんだろ? それ知ってて言ってるよね?
(ヌフフフー、バレたかー)
(はいはい。いつまでも駄弁ってないで、早く褥台から出て下さいませんか?)
(おっとそうだったねー。もうすぐ担当メイドの誰かが来るから、シャキッとしてよー)
(着替えたら鍛錬ですからね)
「あー、はいはい」
こいつらと話しているうちに、どうやら眠気が完全に失せてしまったようだ。鍛錬か、面倒くさいなぁ……。
ノロノロと横滑りしつつ端まで移動し、褥台から出て素足を床に降ろしてっと……おっといつの間にアクティブモードになったのか、ヌイグルミたちが宙に浮て、円台に戻って行くところだった。
「あれっ? 担当メイドの誰かがだと?」――ってことはホノカじゃないのか。そーいえば特別任務で留守にしてるんだっけ? ホノカってばオレを放っておいて、どこ行っちまったんだ?
(ニヤニヤ……)
(フフフフ……)
またその反応かよ……ん? その時――とある一点を視界に捉えた。ドアだ。
このベッドルームには複数の部屋へと繋がっているドアがある。一方の壁沿いにあるのがバスルームとリラックスルームなのは、昨夜入ったので既に分かっている。
因みにバスルームの隣には、御不浄も併設されているぞ。
でその反対側の壁にあるのが件のドアと――もう一個、その隣にあるドアは……?
(そっちはクローゼットよ)
そっか……じゃあアレは?――これまた基礎知識から情報が欠如しているのだが……何故かあのドアだけ妙に気になるんだよな。
(そんなに気になるのなら、自分の目で確かめてみては如何かしら?)
(ヌフフフー……見てのお楽しみだよー)
またしても教える気なしってワケか……いいだろう。そこまで言うのなら、この目でしかと確かめてやるさ。トコトコとそこへまでまっすぐ向かうと、ドアの前で立ち止まる。
そのドアは異様だった。この部屋にある他のドアは全て木製だったが、そのドアだけが鉄製だったのだ。
しかもドアに掛けられたプレートには――『お仕置き部屋』と書かれていた……。
あー……うん。なんかこの時点でもう既にオチが見えた気がするのだが、ここまで来たらもう後戻り出来ない。
ドアノブに手を掛けて回してみる……どうやら鍵は掛かっていないみたいだな。ほんの少し隙間程度にその鉄の重たいドアを、ギギギと引いて開けてみる――すると中から、ヴヴヴヴヴ……という謎の低音と、言葉にならないくぐもった呻き声が聞こえてきた。
眠っていた時には全然聞こえてこなかったところをみると、この部屋は防音構造になっているみたいだな。
ところでこの異音や声も気になるのだが、微かに漂ってくる鼻孔を突くこの異臭は一体……。
いやまあ、ここまで来たら躊躇っていても仕方ない。男は度胸!――
(女は……でしょー?)
ええい、だまらっしゃい……オレはドアを一気に開けた! そして――
中にいるそれと……うめき声と共に、どこからかヴヴヴヴヴという低音を立てさせている、それと目が合う。
(昨日ね、オレ姉様に対してあまりにもおいたが過ぎる態度をとっていたから――)
いや違う、合わなかった。だってそれ、何故か革の帯で目隠しされていたんだもん。
これは一体何をしてらっしゃるのかなぁ? フィリアよくわかんにゃい。
(オレねえの代わりにー、あたしがキッチリお仕置きをー……)
わーわー聞きたくない、聞こえない!
「や、やあ……おはよう?」
と声を掛けてみたものの、彼女はうめき声をあげるだけで返事をしない――猿轡で口が塞がれていたからだ。
かなり無茶そうな恰好で固定されている、その姿をこの目でしかと確認すると――
「じゃあね!」
そう言ってオレはドアを引っ張って、そっ閉じしたのだった。
なお具体的にどんな恰好をしていたのか、どんな粗相をしていたのかは彼女の名誉の為、これ以上詳しくは語らないでおこう。
…………。
…………。
…………。
(あのコを解放してあげないの?)
(この後スタッフがおいしく頂きましたー、ちゃんちゃん♪)
だまらっしゃい! 美味しく頂いて堪るかってーの。
(YOUヤっちゃいなYO!)
あんなの頂ける程オレは鬼畜じゃないわ!!
オレがフィリアとして目覚めた日から、一夜明けた朝。起きていきなりバタバタしながら、二日目を迎えたのだった。
★★★LAST-PRINCESS or LUST-PRINCESS★★★
【淫欲の大公国】の淫魔姫――フィオリトゥーラ=ノッテ・S・ラ・タリア……それが転生したオレの今の姿だ。
この物語はウナとデュアと、そしてオレを入れた三人が三位一体となった淫魔姫が、後に萌々色の淫花の二つ名で呼ばれ、戦乱の魔界で覇を称えることになる傾城傾国の物語だ……だが――それはずっと先の未来でのこと。
『竜紀2951年芽月』――退屈で平和な時代……。
暖かな日差しが降り注ぎ、若葉が芽吹く季節を迎えた、そんなある日――オレたちの物語は、ここから始まったのである。
【CHAPTER Ⅰ――Fine.】
★これにて1章完結!
ここまでで費やした文字数は約153,000字……しかも今回の話とプロローグを除いた丸一日分に使った文字数が140,000字弱……小説家になろうで一日の話にここまで文字を費やした作品は、おそらく他にありますまい(笑)
★こんな阿呆みたいに展開が遅くて長ったらしくて、読み辛い作品にブクマして頂いた122名(2018/08/23 20時現在)の皆様には心よりの感謝を!
★なお今回載せた歌詞は、ルッジェーロ・レオンカヴァッロ作曲・作詞の『 Mattinata』という歌曲です。パブリックドメインになっているので掲載しても問題はありません。




